02
数日後、支部長と彼女は、カズキの住むアパートを訪ねた。
突然の訪問にかなり驚いたようだが、彼らが名刺を出して自己紹介し、
「MIROCという政府の機関があって、そこで契約社員を募集してるの。更新は三ヶ月ごと。日給で一万からスタートなんだけど、どうかしら?」
水城がそう言うと目を丸くして聞いていたが、カズキは思ったよりもすんなりと、二人の提案を受け入れた。
割のいいバイトがなかなかない上に、今のところも、急にちょっとセンパイがね……と苦笑している。
やはり、彼の成績に嫉妬する人間はいないでもないらしい。
本部で試験をしてもらうと、そこそこに成績は悪くなかった。
そして、例の力についても健康診断と称して簡単な検査を行ったところ、いくつか適合するものが出てきた。
「どうしましょうか」
水城が検査結果を見ていたちょうどその頃、サンライズが入院したという知らせをうけた。会社で錯乱状態に陥った時にも報告はもらったが、少し様子をみようという判断で、処置が遅れてしまった。水城は唇をかんだ。
「開発チームで引き受けて、急に色んな処置をしても副反応が怖いし」
サンライズには少し、スキャニング訓練で無理をさせたという後悔があった。
近頃大きな任務がなかったので、これを機に『スキャン』能力を強化しようと思い、水城のチームはその頃、ほぼ毎日開発センターに彼を呼んで訓練を行っていたからだ。
以前から水城は、サンライズは『シェイク』の能力はずば抜けて高いが、人の心を読むという力が少し弱いような気がしていた。
つまり、相手が本当はどう考えているのかよく分からないうちに心に入り込み、直感でキーを探って力ずくでねじ伏せる、という手法に頼っている。
たいがいが危険に直面した場面での使用なので、やむを得ないのかも知れないが、もしもキーがなかなか捕まえられなかったり、キーの効きが悪いのに、実は相手が武器を隠し持っていたのに気づかず言葉による攻撃をかけている間に撃たれでもしたら……
相手の心を完璧に読めれば危険が減るのでは、というのが水城の考えだった。
しかし、良かれと思った集中訓練の直後に、このような事態になってしまったのだ。
―― 耳が一生聴こえないとなったら、私はどう償えばいいのかしら?
支部長は気にするな、とは言っていた。彼だって元々、リスクは十分承知なのだ。もし万が一キミを責めたとしても、キミは仕事として、しかも彼のためを考えてやったことなのだから、後の責任はワタシがもつ。
そう言ってくれたものの、水城の心は晴れなかった。




