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03

 支部長がノックをして部屋に入る。サンライズも後につづいた。


 自分の部屋とたいして変わらない、殺風景な個室。

 ベッドに座っていたのは、若い男、というよりはまだ少年のようだった。

 頭はボサボサ、死にそうなウニみたいに先の方が黄ばんでいる。

大きい格子柄の開襟シャツ、下はジーンズだ。手をやや後ろについてベッドに横向きに腰掛け、真っ暗になった窓の外をみていたがノックの音でこちらを振り向いた。

 きつい目をして、何か口を動かしている。支部長も何か答えたようだが、また倍以上のスピードで彼の口が動いた。サンライズを指さし、また何か言ったようだ。ほめてもらっているようには見えない。

 彼の口に気を取られて、気がついたら支部長がいなくなっていた。

 おいおい、これからどうしろって言うんだよ、第一、彼にどこまで話してあるのか。

 サンライズは、男に向き合った。

「サンライズだ」多分、声に出たのだと思う。相手の口がまた動いた。

 しかも、また窓の方を向いてしまった。口が見えないので、しゃべっているのかいないのかさっぱり分からない。

 つっ立っているばかりではしかたないので、彼は窓の近くまで歩いていった。

 急に彼がふり向いて、ぎょっとしたようにベッドで跳ねた。

「なんだよ」

 口がそう動いたようなので、サンライズは手話をしてみた。「耳が聴こえない」

 相手は、きょとんとしている。しまった、ホワイトボードを持ってくればよかった。

 自分の耳をさして、両手でふさいでみせる。それから耳を指さし、手を顔の前で振って、頭を横にふる。最後に肩をすくめてみせた。

 ようやく納得したらしく、若い男は自分を指さしてから

「か、ん、の、か、ず、き」

 一言ひとこと、区切って言った。声は大きいらしく、びりびり響くものはあったが全然何と言っているかは分からない。首をふると、今度は「ええと」とあたりをキョロキョロして、書くものがないので自分の掌に指で

「か、ん、の、か、ず、き」

 と書いた。先ほどまでの敵意らしきものはすっかり消えたようだ。

「ぜんぜん聴こえないのか?」聞いてきたのが判ったので、

「ぜんぜん聴こえない」と答える。

「口の動きを見たり、手の動きや、書いてくれたものを読むんだ」

「へええ」素直に感心している。「でも、しゃべれるんだ」

 少し待ってもらって、部屋からホワイトボードを取ってきた。

「オジサン、なに人?」といきなり書いたので宇宙人だと思っているのか? と聞いたら笑いながらこう書いた。

「さっき、サンライズ、って言った?」

「それは、コードネームだ」

「何それ」

「仕事の時の名前。他所で身分がバレるとまずいから、そういう名前がある」

「だからか」一人で、つぶやいたようだ。急いでボードに書く。字はきれいだ。

「あの支部長さんが、ここにはミヤシロ・タケルと言う名前で入院したから、と言った。もう一つ名前があって、『ライトニング』だって。オレは電球かよ」

 歳を聞くと、すでに二十五歳になったと言う。それにしても若い。小柄なせいか、シヴァより若く見える。高校生だと言っても通るかも。

「じゃあここでは、ライトニングと呼ぶ」

 サンライズは書いて、コードネームの下にアンダーラインを引いた。

「えええ」何か早口で言ってからすぐ気がついて「せめてタケルにして」と書いたので、彼は言った。

「だめ、ここに入ったらキミはライトニング、オレはサンライズ。ではおやすみ」





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