表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/46

02


 福島に来て更に二週間経ったが、聴力はほとんど戻っていなかった。


 右は少しだけよくなってきた、と言われたが、あまり実感がない。

 医者の話では、もうしばらく様子を見なければ何とも言えないとのことだが、いったん退院して、訓練を兼ねた通院に切り替えたいという旨を伝える。とにかく帰りたい。しかし医者がこう聞いた。

「仕事はどうします?」

 たしかに困る。

 聞こえない状態で、一人で通勤や通院ができるだろうか。

 妻に付き添ってもらうのは無理だ。子どもたちがいる。

 自分で車を運転するのも危険すぎる。電車やバスにも、不安が多い。

 それに仕事。ハルさんみたいに病気のせいでデスクワークになった例もあるにはあるが、自分には総務とかできるのだろうか? 電話すらとれないのに。


 ひしひしと身にしみた。


 このままだと、特務にも二度と戻れないのだ。今まで毎日のように、あんな仕事すぐにでも辞めてやる、と愚痴ばかりたれていた罰だろうか。

 でもそれだったら、ローズマリーもゾディアックも、ボビーなんかも同じな罰が当たらなければ変だ。


 とりあえず、休職届はすでに受理されてしまった。

 アオキカズハルの名はここではまだ有効だが、どうしても治る見込みがなかったら、ここから追い出されて名前もはがされ、ただの一般人、耳の聴こえないシイナタカオさんとして、一生を終えることになるのだろうか。


 ここに入っても、全く意味がなかったのかもしれない。

 暗澹たる気分に押しつぶされそうになりながら、彼はのろのろと着替えて、ベッドに横たわった。



 療養所といっても、最初のうちは中身は今までいた病院とあまり変わらなかった。点滴も相変わらずあるし、ブロック麻酔注射、さまざまな検査、とせわしないのも相変わらずだ。

 二週間ほど過ぎて、少し治療内容が減ってきた。

 聴力は右だけわずかに戻った状態から変わらず、補聴器も試してみたがほとんど変わりがなかった。

 業務用の携帯電話はずっと持っていたが、連絡はほとんどない。

 たまにトノマツや他の総務、一度はバークレーからシヴァとボビーがまとめてメールをよこしたが、そのくらいだ。


 ここでも、見捨てられた感があった。


 もうあきらめて帰してもらおうか、と布団の中で丸まっていたた矢先、中尊寺支部長が訪ねてきた。

 消灯時間も近い九時少し過ぎだった。

「仕事をお願いしたい」単刀直入に、手話でこうきた。

(仕事?)

「パソコンも持ってきた」

 書類整理か? 録り溜めた写真や動画の整理だろうか?

 キミにしかできない仕事だ、と言うので首をかしげると

「とにかく一緒に来てくれ」と立ち上がった。

「待って下さい」ヒマなので、手話をかなり覚えた。

「どこに行きますか? 外ならば着替えないと」

「いや、」

 支部長はにっこり笑って言った。

「別の部屋で、一人待ってるから。会ってやってほしい。今夜はアイサツだけでいい」

「面会ですか?」

「違う」支部長の手話は、いったん止まってからまた動き出した。

「若いシェイカーだ、まだ駆け出しの。ほとんど自分では力を制御できない」

 まだいたのか。力を持つ人間が。

 しかし、駆け出し? 制御不能?

「彼の教育係を、お願いしたい」


 ここに呼ばれたわけが、ようやく分かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ