プロローグ
気がつけば、辺りは一面の白だった。床の感触は確かにあるが、そこには色がなかった。たった一つの世界しかなかった。靴で床を叩いてみても、そこには確かに床があるのに、床を叩いた感触がまるでなかった。
「……お願い。助けて。わたしをここから連れ出して」
透き通るような少女の声が響くと、突然空間からふわりと少女が舞い降りる。姿は分からないが、それは確かに少女だった。何もない、何も見えない空間には、確かに先ほどの声を発した少女の存在があった。
やがて白い空間は、少しずつ綻び始めた。絹の服が木の枝に引っかかり、糸が解けていくように、空間はその存在を崩壊させていく。
「わたしはもう、ここにいたくない。わたしがいたいのは――! お願い、わたしはまだ……」
糸が高速で巻きとられるように、世界は解けて消えていく。急速に勢いを増したそれは、あっという間にすべてを巻きとり、世界を消去した。白だった空間は、暗転したかのように真っ黒の世界に変わり、少女の存在もそれとともに砕けて消えてしまった。そしてやがて、意識は浮上するように姿を消した。空間は跡形もなく、消え去った。