転校生がズブ濡れでキュウリ持ってる件について
むかしむかし、あるのどかな田舎の学校でのことにございます。
ある日のこと、担任の先生が「近々、このクラスに転校生がやってくるぞ」と生徒たちに告げました。めったに新しい人が来ない村のこと、子どもたちは「一体どんな子が来るんだろう」と、胸を躍らせてその日を待っておりました。
さて、いよいよその日がやってまいりました。
ガラリと教室の戸が開くと、そこには一人の風変わりな少年が立っておりました。不思議なことに、その少年は頭から足の先まで体中がズブ濡れで、なぜか手にはみずみずしいキュウリを一本、しっかりと握りしめておるのです。
先生が「さあ、みんなに名前と自己紹介をしておくれ」と促しました。
少年は、床を水浸しでビショビショにしながら、朗々とした声でこう答えました。
「田口カッパーフィールドと申します。
趣味は相撲でございます。
人を水中に引きずり込んで、お尻から『尻子玉』を抜くのが大得意にございます」
これを聞いた一人の生徒は、おや、と首を傾げました。
「趣味は相撲、手にはキュウリ、ズブ濡れに尻子玉……」
頭の中で点と線が繋がり、まるで眼鏡をかけた御曹司のコナン的なガキみたいな名探偵のごとくピーンとひらめいたのでございます。
「はっ!……もしかするとこの田口カッパーフィールド、河童なんじゃなかろうか……。いや、もう河童ということでいいや」と。
その後、本当に河童だった田口少年は、村の源太という名の気の荒いヤンキーたちに見つかってしまいました。
「おい、なんだいコイツは!」と、よってたかってボコボコにされてしまいます。頭の皿の上にはなぜか熱々の餃子をのせられ、鈍器で「チーン」と容赦なく叩かれる始末。
田口少年は傷だらけのボロボロになりながら、悔し涙を流してこう叫びました。
「戦争じゃ……人間ども……戦争じゃぁ!!! 妖怪大戦争じゃぁ~!」
この恐ろしい捨て台詞を最後に、田口少年は煙のようにこつぜんと姿を消してしまったそうな。
田口カッパーフィールドが姿を消してから、数日が過ぎた頃のことにございます。
ある日の夕暮れ時、にわかに空が暗くなり、冷たい風がヒュールリヒュールリと吹き荒れました。ふと見ると、山の方からおどろおどろしい火の玉や、見たこともない化け物たちが、ゾロゾロと列をなして学校へ向かってくるではございませんか。
「戦争じゃあ! 人間どもに思い知らせてやるんじゃあ!パンパンやでぇ!弟子やったらパンパンやでぇ!」
先頭に立つのは、頭の傷も癒えぬまま怒りに燃える田口カッパーフィールド。その後ろには、一つ目小僧にからかさ小僧、大入道に化け狐といった、日本中の妖怪たちがギロリと目を光らせて大行進しております。
これに気づいた村のヤンキー源太は、「へん、妖怪が何ぼのもんじゃい!」と、自慢の鈍器を手に教室の前に立ちはだかりました。
「田口! また皿をチーンと鳴らされたいんか!」
源太が凄むと、田口はニヤリと不敵な笑みを浮かべました。
「ふん、前と同じと思うなよ。今日の吾輩の皿の上には……これがある!」
見ると、田口の頭の皿の上には、熱々の餃子ではなく、特製の「酢醤油(ラー油入り)」がなみなみと注がれておるではございませんか。
「これさえあれば、乾き知らずの無敵の河童パワーじゃ!パンパンやでぇ!」
田口が叫ぶと同時に、妖怪たちが一斉に襲いかかりました。からかさ小僧が目を回させ、一つ目小僧が驚かし、大入道が校舎を揺らします。さしもの源太たちヤンキーも、これには手も足も出ず、あっという間にボコボコにされてしまいました。
「ワハハハ! 妖怪の勝ちじゃ! 人間ども、降伏しろい!」
ハゲ頭を振り回し勝ち誇る田口カッパーフィールド。
しかし、その時でございます。
教室の隅で一連の騒動を静かに見守っていた、あの「ピーンときた学生」が、そっとカバンから「炊きたてのご飯」を取り出しました。そして、ボロボロになった源太のポケットから、転がり落ちたあの「餃子」を拾い上げたのです。
学生は、田口の頭の上にある酢醤油に、その餃子をチョンチョンと浸しました。
そして、タレの絡んだ餃子をご飯の上にのせ、パクリと美味しそうに食べたのでございます。
「……うまい。やっぱり餃子には酢醤油だな」
その姿を見た妖怪たちは、戦うのも忘れて、生唾をゴクリと飲み込みました。
実は妖怪たちも、連日の進軍でお腹がペコペコだったのです。
「な、なぁ田口……あの白いやつ、美味そうじゃな……」
「吾輩の酢醤油、そんなに美味いのか?」
田口も思わず自分の皿の匂いを嗅ぎ、お腹をグーッと鳴らしました。
ピーンの学生はニッコリ笑って言いました。
「みんなで食べると、もっと美味いぞ。戦争なんてやめて、飯にしよう」
「戦争なんて… 腹が減るだけだ」
こうして、妖怪大戦争は一瞬にして「大餃子パーティー」へと早変わりいたしました。
源太たちヤンキーも「悪かったな、田口」と青春映画に出てるアイドル俳優みたいな安っぽい演技で謝り、みんなで仲良く餃子を囲んでお腹いっぱい食べたそうな。
田口カッパーフィールドは、頭の皿の酢醤油をみんなに分けてすっかり乾いてしまいましたが、心はとても満たされ、今度は本物の笑顔で川へと帰っていきました。
それからは、人間も妖怪も、みんな仲良く暮らしたとさ。
めでたし、めでたし。




