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TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


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ピティエの真価

「ごめーん!」


 ミカの謝罪に皆が「ドンマイ」と声をかける。もちろんオレも。 

 それから、すかさずピティエの下へと駆け寄った。


「ナイスピッチング。今の勝負、ピティエの勝ちだったぜ♪」


 勝ち誇ってオレは破顔した。


「はいっ フレーヌさまのリードのお陰です♪」


 相棒は頬を上気させ、とびっきりの笑顔を見せてくれる。ああ、ホントにやり易いなこの子。完投させてあげたくなる。


「心配すんな。エラーの二、三個はちゃんと織り込み済みだ。ピティエは思いっ切り投げてくれればそれでいい」

「はい♪」


 オレたちは勝つために試合に臨んでる。そこにエラーをしたくてする奴なんて居ない。


「ハイ、ノーアウト一塁! ゲッツーあるよ? バント警戒、守備前進!」


 なにも、バッテリー対打者の構図だけが野球じゃない。前進守備で大きい一発を狙わせ、プレッシャーを与えて心理戦を仕掛ける。

 次も左打者が続く。彼女はプリメラ。身長はピティエよりちょい上。流し打ちが得意なバッター。


「さあ、来ぉ―――――い!」


 頬を上気させて笑みを浮かべ、溌溂とした声。なんかテンション高そうだなこの人。

 脚は肩幅。スッと背筋を伸ばし、エンドグリップを左肩口より少し離してバットを立てる。力みのない静謐な構え。


 懐が大きい分、インハイの対応に難がある筈だ。

 馬鹿正直に狙うのは芸がない。だが、意識づけだけはしておく。


(よし。最初はスローカーブだ)


 ピティエには「相手に盗塁をさせないためにも」と、ランナーを出してからはクイックを徹底させていた。

 腰辺りで球をグローブで隠し、腰から指導しながら滑るようなステップスライド。


それに合わせて肘を張り投げ起こし、腰の旋回と上体のしなりを経て球が投げ放たれる。


 身体の正面から外角に落ちるコース。リリースした瞬間、明らかに動揺が走っていた。

 見送ってストライク。ナイスピッチング。


「いやービックリした。すっごく曲がるね? 楽しいなあ♪」


 嬉々とした笑みを向けて来たかと思うと再び構え直す。臆病風おくびょうかぜに吹かれるかと思ったが、そんなことはなかった。


(その笑み、さっさと消してやるぜ) 


 次も外角低めにミットを構えた。直球はまだ投げない。シュートだ。

 プレート上から角度を付けて投げ放たれた球は枠を外れたアウトコースから中に鋭く切り込んで来る。ストライク。慎重を期して手を出してこなかった。


 だが、これでツーナッシング。二球で追い込めた。


「…………」


 さすがにケツに火が付いたのか、真剣な表情でパットの軌道を確認してから打席に立つ。

 今度こそ、インハイをピティエに要求。


 第三球目。内角高目を走る緩い球に相手はバットを始動させる。だが、打席直前に球が減速、内側に沈む。残念、そりゃボールだ。

 必死でバットを追随させるも根元に近い位置で叩き、詰まった打球。ボテボテのピッチャーゴロ。


「ファースト!」

「ハイ! フェルムさまっ」

「ん」


 駆け出すピティエに指示を出し、一塁のフェルムに送球させる。彼女の突き出したグローブに球が収まりアウト。危なげない処理だ。これで一死二塁。

 草野球でブリアックにも教えたサークルチェンジアップ。いわゆるOKボール。


 打者にとっては、緩い球が手前で更に減速するように感じられる球。

 鋭い腕の振りで投げられるこの球は直球と見間違われやすい上、直前までは球筋が同じなので投手としては使い勝手がいい。ゴロを打たせるのに重宝ちょうほうされる。


「ハイ、ワンナウト! 前進守備解除、ゲッツーあるよ!」

「ワンナウト~」

「打たせて良いわよ? しっかり取ってあげるわ!」


「ナイピッチ、その調子だ」

「ワンナウト」


 内野陣がそれぞれ声を上げ、


「ワンナウト、バッター勝負!」


 ピティエもまた声を張り上げた。強力打線にも気後れしてない。いい雰囲気だ。


(さて――)


 次の三番打者はペシェット。因縁の相手だ。


「見事な制球力、良い投手だな」


 相手投手はピティエを見据みすえながら称賛した。


「ありがとうございます。球種はまだまだありますよ?」


 って、考えたらあとはフォークしかなかった。まあ、そういうこともある。

 多分、性格が悪いってセレスティーナからコーチャーを通じて知れ渡ってるだろうな。


(丁度いい……)


 ちょっと目先を変えてみる。サインを送った瞬間、ピティエはプレートから足を外した。

 牽制球。判定はセーフだが、まあいい。慌てて帰塁するお嬢様の姿が見れただけ、良しとしよう。


「随分と余裕だな?」

「そうですね。打者との対決だけが、野球じゃないんで」

「フン」


 鼻を鳴らした後、再びバットを構える。肩幅で後ろ足に重心を寄せ、寝かせたバットを右肩口に担いだ。


(さて、じゃあ性格の悪さを発揮してやりましょうかね……)


 ミットの構えた場所はインコース。


「っ⁉」


 投げた瞬間、明らかに驚いていた。初球は直球、膝元へのクロスファイヤー。空振りでストライク。

 散々出し惜しみした直球をここで使う。


「成程。これは確かに性格が悪いな……」

「ありがとうございます」


 顔をしかめ不快感を露わにしていた。一礼してからオレはマウンド上に返球。


「ナイスピッチング!」


 その調子。拳でミットを叩き、再び構える。

 二球目は外角低めに落ちていくシュート。手を出してきたのでファール。これで追い込んだ。


(これまで遊び球を殆ど使って来なかったからなぁ……)


 次もストライクが来ると分かっているだろう。まあ、問題ない。


(さあ、ちょっと意趣返ししようぜ?)


 オレのサインを見て、ピティエは再びグローブの中で微笑を漏らす。ちゃんと頷いてくれて何より。

 投げ放たれたのは高目の釣り球――――ではなく、そこから落ちる球。

 ペシェットはバッティングが噛み合わず、無様に膝を着いて空振り三振。


「本当に。性格が悪いな」


 それだけ言い残して去っていった。

 最後はフォーク。スプリットとフォークは基本的に球速で分類される。

 浅く握って速度が出ればスプリット、深くはさんで遅ければフォーク。

 しっかりと意趣返しができたようで何より。


「ハイ、ツーアウト。バッター勝負!」


 相変わらず打たせて来いとリュクセラが声をかけてくれるので牽制球。今度は二回、立て続けに。


「セレスティーナ様は、ワタシが返して差し上げます…………っ」


 無表情なスリジエがキリリと凛々しい顔を見せてくれた。コイツ、こういうキャラだったのか。


(じゃあ、コイツにも見せ付けちゃいますか?)


 ニヤリ。オレはマスクの下でほくそ笑む。ピティエに所望した第一球は、クロスファイヤーからのフォーク。


「ッ⁉」


 球より早く振ってしまい、ストライク。次も同じコースで早くもツーナッシング。


「くっ!」


 あからさまに悔しそうな表情。そんな彼女を前にして再び牽制けんせい。別にさせるとは思っていない。ただの当てつけだ。


「本当に、良い性格をしておられますね……」


 正しく意味を受け取ってくれたようで何より。


「ありがとうございます。よく言われるんですよ」


 見下ろしてくるスリジエに、ニッコリ笑顔を返しておいた。

 最後は直球によるクロスファイヤー。振り遅れて三振。チェンジ。


「っしゃあッ!」


 うん、やっぱ自分のリードで三振取るの、気持ち良過ぎだろ!

 脳汁がドバドバ溢れて顔がニヤつき、全細胞が歓喜に湧き上がる。


 〇                              〇


 エヴェイユきっての重量打線を無得点に抑えたこともあり、オレたちのベンチは沸き立っていた。主にミカが。


「よくやったわピティエ。アンタはスゴい!」

「うん、本当に。ナイスピッチング♪」

「ああ。値千金だ」


「おめでと~♪」

「ええ。本当にすごいと思うわ」

「おつかれー」

「ん。がんばった」


 この時ばかりはピティエが主役だった。


「はいっ 皆さま、応援ありがとうございます。この調子で頑張りますね♪」


 フンスと鼻息を鳴らしながらご満悦。この調子で気持ちよく投げてもらおう。


「ねえ。フレーヌはさ」

「ん?」


 頬を上気させるピティエを横目にプロテクターを外していると、ラシーヌに話を振られた。

 なんか、意外と積極的に話すんだな。不思議に思いながら顔を上げた。


「キャッチャーとして座ってるとき、何を考えてるの?」


 ふむふむ。バッターとして活躍するために、バッテリーの心理を学びたいんですね分かります。隠すことでもないので教えてやることにした。

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