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TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


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試合開始

「どうしたメルキュールっ⁉」

「穏やかじゃないですね。学園最強の二人が臨戦態勢なんて」


 いつぞやの三峰機関で見知った顔が続々と集まって来た。


「あれー?」

「みんな、どーしたのー?」


 ついでにミルムに乗った年少組二人もやって来た。


「よし。これだけ揃えば、人海戦術ができるな」


 オレが言いたかったことを。アルジャンが代わりに言った。


「おい、守銭奴。なぜ貴様が仕切っている?」


 当然、三峰機関から抗議の声が上がった。


「みんな~っ 待って~~~」


 遠くからコライユの声が響く。

 彼女の到着を待ち、メルキュールが事の次第を説明して共有した。中には三峰機関構成員の友人も有志として参加していた。


 それだけ、三峰機関の緊急招集は稀であるとの事。かつてない危機に立ち上がった憂国の士ということだ。


「とりあえず、だ。居場所が分からん以上、手当たり次第に探すしか手はねぇ」

「だから守銭奴――」

「埒が明かないから。ソレ」


 アルジャンが率先して提案するのを面白く思わない構成員。メルキュールがぴしゃりといさめる。


「というか。人探しごときに我々を一々駆り出すな」

「おいおい、メルキュール。三峰機関にはバカしか居ないのか?」


 頭《》いてぇ。アルジャンがたまらず頭を抱えた。


「嫌ならいいよ? 強制参加じゃないから」


 無理しないで。コライユの柔らかなウィスパーボイスに誰も何も言えなくなる。


「そっれじゃあ、みんなで手分けし――」

「おいおい。頼むぜ、お嬢ちゃん。敵前逃亡するつもりか?」

「は?」


 オレの発言がアルジャンに遮られた。


「フレーヌちゃん。ここは、ワタシたちに任せて」

「でも――」

「どうか、お願いします」


 ミニュイが頭を下げるので、オレは何も言えなくなる。

 どうして。堪らずリュクセラの方を見た。すると、痛みに耐えるかのような沈痛な顔を逸らしていた。

 混乱しているオレに、オイレウスが優しく諭す。


「この学校はな、フレーヌ。どのようなことがあっても、決められたスケジュールが覆ることはない。アコニスの捜索を優先させて試合を放棄するなら、それは不戦敗となる」


 仮に奸計や謀略による妨害を受けたなら、それへの対処も含めて自分たちの実力と判断される。だまされる方が、わなめられる方が悪い。

 エヴェイユ三峰学習院《この学校は》そういうルールの下で動いている。


「クソが……っ」


 顔をしかめて吐きてた。だが、そういうルールだからこそ、ラタトスク寮に野球部ができあがった。

 ミニュイも、リュクセラもペリエも。そうでなくてはここには居ない。

 物凄い皮肉な話で正直、認めたくないが。


「つーわけで。野球部はさっさと試合に行け」

「でも――」

「そなたらが試合を続けてさえいれば、あとでアコニスも合流できるでな」


 割り切れないミカにヴェニュスが優しい声をかける。


「そうですね。それじゃあ、よろしく頼んます」


 今度こそオレも頭を下げた。

 この状況に何一つ納得なんてしてないが、それでもやるべきことは解っている。


「それじゃあ、わたしはヴェニュスと――」

「ああもう、バカっ 魔法使いが雁首がんくびそろえてどうするよ?」

「案ずるな。ワシはこ奴と校舎を探す。そなたはグレルと他を当たれ」


 メルキュールの発言はアルジャンとヴェニュスに却下された。


「アコニスさんのこと、お願いします」


 ミニュイがヴェニュスの手を両手で握り締める。


「無論じゃ。あの子はワシにとっても、可愛い妹分じゃ」


 切実な顔の彼女に最強の魔法使いは穏やかな笑みを見せた。一人、獣人の女性が不満げだったが見なかったことにしよう。


「人は他人を裏切るが、金は人を裏切らねぇ。金づるに対しては、礼を尽くすさ」


 感動的な場面も、金欲まみれの発言で台無しだ。


「クソ守銭奴しゅせんどがッ!」


 当然、三峰機関の方からも口汚くののしられる。


「いやぁ、嬉しいねぇ。そりゃつまり、金に対してだけは誠実って意味だからな。最高のめ言葉だぜ」


 悪びれもせず、むしろ得意げに笑っていた。


「では行くぞ守銭奴。遅れずついて来い」


 ヴェニュスが魔風から一転、闘気オーラを纏う。

 通常は魔力か闘気オーラのどちらかしか適正がない。しかしごく稀に、どちらにも適性があり、併用できる特異体質が生じることもある。


 彼女が最強と綽名あだなされる所以ゆえんでもあった。

 ヴェニュスは膨大な魔力を闘気オーラに変換。極限まで高めた身体能力で一陣の風となり、校舎の方へと飛んでいった。


「ばっ――――、ったく、どいつもこいつも!」

「では、私も」


 憤慨ふんがいする守銭奴が慌ててその後を追った。その先を追い越し、武芸科の有志が駆けていった。

 それを皮切りに、それぞれ三人一組となって各所の捜索へと向かった。


「私たちも行こう」


 部長が号令をかけ、オレたちはゲートをくぐった。


 〇                          〇


 ロッカールームに戻ったオレたちは準備を整え、すぐさまグラウンドへ向かった。

 グラウンドに到着すると、顔をしかめたペシェットが立ち塞がっていた。


「遅い。何をしていた?」


 腕組みしていたペシェットが非難の眼差しを向けて来る。


「うっさいわねっ アンタなんかに関係ないでしょっ⁉」


 怒りを露わにミカが嚙みついた。


「あら? あの背の高い吸血族ヴァンパネラはどうしたんですの?」


 こちらに近付き、辺りを見渡しながらアコニスの姿を探すのはセレスティーナ。


「だから――」

「アコニスは、必ず来ます」


 ミカを遮り、ピティエがセレスティーナの前に立ちはだかる。身長差があるので見上げる形だ。


「それまでは、わたしがお相手を務めさせていただきます」


 物腰柔らかく、恭しい一礼で啖呵たんかを切った。


「フッ アレが本塁打を一本放った以上、わたくしは二本、貴女にプレゼントいたしますわ」


 目を爛々《らんらん》と輝かせ、肉食獣を思わせる獰猛どうもうな笑み。しかしピティエは動じない。


「悪いけど。同情なんてしないわよ? そうならないために、ワタシたちが普段、どれだけ心血を注いでいるか……」


 厳しい顔付きで眼鏡を直すオネット。

 三人は言いたいことを言い終えると、三塁側のダグアウトに帰って行った。


「さて。それじゃ始めますか」

「うん。みんな、勝とうね」


『おお――――――――ッ!』


 気合十分。アナウンスに促され、シートノックのために各守備位置へと散っていった。

 ピティエが次々に各所へ打球を飛ばし即座に返球。互いに声を掛け合い、手際よく球を捌いていく。


「ハイ、キャッチ!」

「よし来た」


 最後にキャッチャーフライを飛ばし、オレがミットに収めると終了。一塁側のダグアウトへ引き揚げた。 

 整列して挨拶を交わせば、いよいよ試合が始まる。


 初回表はオレたちの攻撃だ。


「それではみなさん。作戦通り、序盤はとにかく待球です」


 打席に立つ前。オレは今日の試合の作戦を確認。

 恐らく相手はボール球を振らせたいだろうから、下手に手を出さなければ勝手に球数を放ってくれる。

 ミニュイがみんなのことを見渡しながら口を開いた。


「タイミングを取るためにも長く打席に立って、できるだけ目を慣らして」


 終盤で一気に打線を爆発させるために。


『ハイッ!』


「じゃ、行ってきます」


 先頭打者はオレ。新品のバットを手に、打席へと向かう。


「よし、いったれ!」

「ホームランよろしく」

「景気よく行きなさいよ」

「私たちも続きます」


 背中に声援を受け、テンションが上がった。

 何故、紅白戦でボール球を降らせる慎重策が功を奏したのかというと。

 相手打線は恐らく、際どい球は全部振り抜く癖があるから。


 仮に全員がそうではないとしても、全体の傾向としてはその可能性がある。

 自分たちのバッティングに自信があるのなら、際どい球でも彼女たちは強引に振り切る。


 それでも打線がペシェットの球威のせいで凡打しかならないと考えれば、紅白戦でも打たれないための慎重策に自信を深めてしまうのも無理はない。


 他寮の打者はそもそも、あの絶妙な溜めとクロスファイヤーに苦戦して配球どころの話ではないのだろう。

 それ故、作戦は好球必打。相手に数を投げらせ、ストライクゾーンの枠内に放り込まれる甘い球を見逃さない。


「お願いします」


 一礼してから打席に入る。長いバットで居合打法の構え。


(ああ。本当にしっくり来るぜぇ……っ!)


 頬を上気させたオレは堪らず武者震い。

 素振りをして気付いたが、この身体は長い得物を振ることに最適化されていた。


 恐らく野球を禁じられ、八歳くらいからひたすら剣術稽古に明け暮れたせいだろう。

 だからこそ、今回は長尺のバットで試合に臨んだ。

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