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TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


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72/108

試合の合間

 好打順で迎えたカーバンクル寮。先頭打者のヴィットリアを四球で出して状況は無死一塁。シャルラが送りバントを決め一死二塁。エンドランで駆け出したヴィットリアが三塁を蹴ってホームへ。


 左翼手を務める主砲、キャメリィの好送球が光り本塁でコースアウト。

 四番のルージュを敬遠した後、五番が初球打ち。タイムリーツーベースヒットで待望の追加点。これで二対〇。


 更に、二球目にルージュがホームスチールを敢行。動揺したファルチェがワイルドピッチ。頭上を越えた暴投を取りに奔走している間に状況は一死三塁。


 ここで投手の交代。ファルチェの後を託されたエース、ラズリアが低めに球を集めて後続をシャットアウト。

 結局、これが決定打となり試合終了。


 キャメリィを筆頭としたアルミラージ寮の打線も好投に対し粘ったが、あと一歩のところでヒットが出なかった。


 他方ユニコーン寮は主砲の一発と機動力野球の本領発揮。極めつけに先発投手が完封。

 完勝だった。


「強いなあ、やっぱり……」

「ああ。打線がソレルに手も足も出てなかったな」

「しかも、全然余裕がありましたし……」


 オレたちがスコアブックをつける際、球種やコースについても見える範囲で記帳するようにしていた。


 ピティエがユニコーン寮のスコアを付けた結果。ソレルはパワーシンカーを軸に直球やスライダーを織り交ぜ、時折チェンジアップやナックルカーブを投げていた。

 だが、結局シュートは見せずじまいに終わった。見せるまでも無かったということか。


「でもまあ、アルミラージ寮は英断だったな」


 オレの見解に皆が不思議がる。


「? どういう意味ですか?」

「本来なら、ラズリアの登板をもう少し早めることもできたってことだ」


 七回まで失点は無かったものの、ヒットは打たれていた。

 八回で好打順が回って来た時。最初からエースを登板させていたら、結果は違っただろう。


 それは交代直後のスクイズやバスターといった揺さぶりにも動じなかった事からも窺える。

 経験を積ませるため、もしくは実力を付けさせるため。敢えて勝負に行かせたのではないか。少なくとも、オレはそう考えていた。


 活躍の場を荒廃に譲るなんて、中々できることじゃない。何故なら校内リーグは、甲子園に挑むレギュラーを選出するためのトライアウトを兼ねているのだから。


「だが、それは結果論じゃないのか?」

「ん~ まあ、そうかもしれませんねぇ?」


 腕を組んだオレは首を傾げ神妙な顔を浮かべた。

 こういうタラレバは言い出すとキリがないし、わざわざ躍起になって反対意見を論破する必要もない。尊重しておくのが正解だ。


 観戦していたオレたちは運営係の生徒に呼ばれ、ロッカールームへと移動を開始する――――のだが。


「相変わらずだな」

「あはは……」


 嘆息たんそくするブリュムと、苦笑するしかないミニュイ。どうやら、いつものことらしい。


 メンバーの半数以上が席を外したまま戻って来ない。この場に居るのは、部長副部長を除けばオレとピティエだけ。試合放棄はない、と信じたい。

 仕方ないので、残された鞄やらバットとかの私物を手分けして運ぶ。


「すまんがフレーヌ。呼びに行くのを手伝って欲しい……」

「はいっ」


 気落ちするブリュムを鼓舞するように、オレは溌溂とした返事を返した。

 ミニュイとピティエには残りの荷物を運んでもらい、オレはブリュムと球場の外へと向かう。


「全員、お前みたいな優等生だったら良かったんだがな……」


 彼女は憮然ぶぜんつぶやく。気苦労が絶えなさそうだな。オレは内心、同情を禁じ得ない。


「でもまあ、別に敵前逃亡した訳じゃないだろうし……」


 オレも苦笑しながらフォローを一応入れる。


「ああ、そうだな。もしそうだったっ場合、是が非でもあたしの弓の的にしてやらないとな……っ」


 拳を握り締め、静かに燃え盛る、怒りの炎が見えるようだ。

 ハッキリ言って怖っ ……怒らせんとこ。

 ゲートを抜け、球場を出たオレたちは二手に分かれてメンバーの捜索を開始する。


 エギノス側の校門に続く舗装路は村から出張って来た屋台が並んでいる。

 その区画をブリュムが担当し、オレは球場周辺を駆けずり回って探した。

 校舎側へ続く道路の脇には街路樹が立ち並び、末梢には既に若葉が芽吹いていた。


 木々の向こうには芝生が広がっており、ウォーミングアップに使用した。

 今は疎らな人影が見えるだけ。

 走りながら眺めていると、芝生を囲む木々の一角で休んでいるリュクセラとペリエを見つけた。


「おー、いたいた」


 駆け寄ってから陰の落ちた芝生の上で寛ぐ二人に声をかけた。


「あ、試合終わった?」


 寝ころんでいたリュクセラが顔だけこちらに向けて来る。


「おう。もう荷物はピティエとキャプテンが運び終わってるハズだ」

「えへへ。ありがとぉ~♪」


 座っていたペリエが埃を払って立ち上がる。

 オレが今所属しているのは、エヴェイユ三峰学習院のラタトスク寮野球部。

 前世の、集団行動が当たり前で規律に厳しい甲子園常連の強豪校では、決してない!


 だからこそ。ここで怒ったり、目くじらを立ててはいけない。彼女たちは彼女たちなりに試合に臨もうと決意を固め、この場に居るのだから。

 そうでなければ、とっくに敵前逃亡している。

 他人の至らぬ所ではなく、美点に目を向けよう。


「それで、他のみんなは?」


 この場に居るのは二人だけ。見渡しても姿が確認できない。

 居ないのはあと、アコニスとフェルムにミカ。それと――


「ぼくはここ」

「え―― おわっ⁉」


 振り返ると、背後にラシーヌが居た。全く気付かなかった。暗殺者アサシンかよ。


「どう? 緊張は解けた?」

「へっ むしろ、早く試合を始めたくてウズウズしてるくらいだぜ」


 力強くサムズアップ。それでも、気にかけてくれる彼女に礼は言っておく。ありがとう。


「よし。じゃあ、さっさと行くぞ」

「別に急がなくてもよくない?」

「グラウンド整備とか、まだ終わってないでしょうに」

「そうだよ~?」


 ホントにマイページだなコイツら。


「こういうのはな、誠意が大事なんだよ。誠意が」


 とりあえず見かけだけでも「申し訳ない気持ち」を演出しておけば、相手の小言は減らせる。処世術を説いてやった。


「むしろ、そっちの方がつけ上がると思うんだけど?」

「ああ。そうかもな……」


 反論したラシーヌを置いて、オレだけは走り出す。説得は無理そうだ。


「おーい」


 オレたちがゲートに向かって走っていると、反対側からブリュムが声をかけて来た。

 フェルムとミカは屋台の方に居たらしい。これで残るはアコニスだけ。


「そっちは?」

「あそこの三人がそうです」


 振り返ると、三人は悠々と歩いていた。オレにペースを乱されることはないらしい。


「まったく、いつもいつも。集団行動ができんのか? お前らは」


 開口一番。腰に手を当てたブリュムが三人に小言を浴びせる。


「ほら。だから言ったじゃん? つけ上がられるって」

「うん?」


 ラシーヌの非難がオレに飛んで来た。あれ?オレが悪いのか?


「正直な話。そこまで生真面目だと疲れない?」

「そうだよぉ~?」


 二人は心配そうな眼差しを向けて来る。


「いやぁ、別に……」


 うん。疲れるよ?お前らを相手にするのは。ちょっとマイペース過ぎやしませんかねぇ?

 まあ、こうして心配して来るということは、お互い様なんだろうな。うん、多分。


(……なんか、自分に言い聞かせ過ぎじゃね?)


 いい加減、少し不安になって来る。


「ふむ。どうやら、試合開始には間に合ったようじゃのぅ?」


 声の方に顔を向ければ、ヴェニュスとメルキュールが来ていた。その後ろにはニュアージュの姿もあった。


「ん? 珍しいな。二人がここに来るとは。これは、明日の天気は槍の雨だな!」


 呵々大笑かかたいしょう。大剣を担ぐオイレウスが快哉かいさいを響かせる。彼も冗談を言うことがあるらしい。


「やかましいわ。此度こたびは、ワシも勝利のために一肌脱いだのじゃ。であれば、結果を見届けるのが道理であろう? 剣の振り過ぎで、礼節まで削ぎ落してしまったのかのぅ?」


 ヴェニュスも怒ることはせず、妖艶に笑い憎まれ口を返す。


「それもそうだな! かくいう私も、今日は楽しみにしていたのだ、はははははははっ!」


 賑やかな人だ。野太い笑い声を聞いてると、色んな事がどうでも良くなる。

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