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TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


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逢引き

 後ろから突然、声が掛かる。


「きみ、こんな時間までなにやってんの?」

「は?」


 振り返ると、私服姿のニュアージュが通路に立っていた。


「なんだ、眠れないのか?」


 こんな時間に珍しい。近付いて話し掛けてみた。


「それはこっちのセリフだよ。窓を見たら、きみが外で何かやってるのが見えたんだよ」


 彼が中庭に出て二階の窓を指差す。そこが彼の自室らしい。


「面目ない……」


 心配かけたようで、オレは素直に謝った。まあ、いいけど。彼はぶっきらぼうな言葉で許してくれた。


「…………」

「? どうした?」


 暗がりの中、何か言いたげな顔を向けて来るのが疑問だった。


「その、なんというか……」

「うん?」


 尻尾をよじり、言いよど獣人アニムスの少年。所在なさげな態度が弱々しさをかもし出す。


「幻術って、よく侮られるんだよ」


 基本的に直接的な被害はないから。それはオレも仕方ない側面があると思う。

 けれど、


「だからって。それを使うヤツを軽んじたり、けなして良いことにはなんねぇだろ?」


 それは単に適性の違いでもあるのだから、一概に実力がないとか弱いとか、安易に否定できないだろう。そこにオレは反抗心を抱いていた。


 もし仮にピティエが幻術しか使えなかったとしても、それで彼女を足手まといと切り捨てるようなことはしない。活かし方を考えれば良いだけだ。


「まあ、そうなんだけど……」

「けど?」

「~~~~っ」


 オレが深掘りしようとすると、明らかに顔をしかめた。

 またオレ、なんかやっちゃいました?


「どうした?」


 顔をのぞき込むと、途端に勢いよく顔を背けた。

 そこまで拒絶しなくても。さすがにちょっと傷付く……


「と、とにかくっ 明日は必ず勝てよ。ボクに恥をかかせるなっ いいなっ⁉」


 きびすを返すと足早に扉の向こうへと消えた。


「オレ、なんかしたか?」


 なんだかよく分からない。ただちょっと顔をのぞいただけなのに。

 もしかして、恥ずかしかったのか?

 答えのない問いに呻吟しんぎんしていると、夜風が火照ほてった頬をなでていった。


「イカンな……」


 肌寒い風にオレは身震いした。これ以上身体を冷やしてもいけないし、素振りを切り上げ急いで自室に戻った。


 〇                          〇


 ユニコーン寮野球部の朝は早い。

 早朝五時半には練習が開始されるので、それまでに準備を済ませておくには五時に起床すると、就寝時間との兼ね合いで効率が良い。


 準備運動で身体をほぐし、基礎練習を終えた皆がバッティング練習をやっている間、私はピッチング練習に打ち込む。

 マスクを被ったスリジエを座らせ、全ての球種を投げ込む。


「ナイスボール」


 しゃがんだままの彼女からの返球を受け、私は球を握る。

 今日はとても調子がいい。妙に指先が引っ掛かったりとか、変化球のキレにかたよりもない。


 こういう日は良いピッチングができる。


(そうでなくては困るがな)


 向こうのチームにはフレーヌが居る。先日の決闘で私を負かした相手が。

 あれだけで実力が上だとも思わないが、強敵であることは否めない。


 校内最強を誇る、カーバンクル寮のルージュとは行かずとも、ユニコーン《ウ チ》寮のセレスティーナ先輩に次ぐ実力者であることに変わりはない。

 だからこそ、万全を期して臨めるのが純粋に嬉しい。


 これで、相手を完膚かんぷなきまでに叩きのめせる。


「いいかんじですね。新兵器の完成度も」

「ああ」


 決闘では勿論、幻術使いにも見せなかった。文字通りの『隠し玉』。

 これを見た瞬間、アイツはどんな反応をするだろうか?


「フッ 楽しみだな」

「はい」


 ああ。今すぐにでも打席にアイツを立たせてやりたい。そして新兵器コレを見せ付けてやりたい。

 本当に、試合が待ち遠しい――――


 〇                          〇


 新しいバットで朝練を終えたオレは、いつものように野球部のみんなと朝食を摂っていた。


(こういうのは、いつも通りを心掛けるのが良いんだよな)


 変に違うことをすると、意識し過ぎて緊張してしまう。そのための対策だ。

 この席でかねてから部長副部長とオレが協議していた作戦を、ミニュイの口から明かしてもらった。


 そこから各々の疑問に三人で答え、細かな打ち合わせを終えてから朝食にありつく。

 そんな折。既にフライングしてメシをパクついていたフェルムが、爆弾発言を投下した。


「そういえば昨日の夜。だれかが叫んでいた気がする……」


 思い当たる節があるオレは、伸ばした食指を止めてしまっていた。


「ああ。なんか中庭辺りでね」


 珍しくラシーヌが口を開いたかと思えば、いきなり核心をついて来た。


「つまり。逢引あいびきってこと?」

「はっ――――」


 眉間にシワを寄せたミカが見当はずれなことを言い出すと、何かを思い出したようにラシーヌが顔を上げる。


「思い出した。声が聞こえる前、何かを振り回す音が聞こえた、かも……?」


 口元に手を当て神妙な顔を浮かべるラシーヌ。


「ああ。新品のバットを素振りしてたのはオレだ」


 この寮で夜な夜なバットを振り回す人間は、どうしたって限られる。ここは正直に申し出ることにした。


「フレーヌちゃんは、誰か逢引あいびきしてるの見た?」

「いや。逢引きする男女なんて見てないが?」


 ペリエが尋ねて来たので、即座に否定した。


「そんなこと言って。アンタが逢引きしてたんじゃないのぉ~?」

「誰とすんだよ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべるミカ。あくまでオレは取り合わない。


「なによ。それじゃつまんないじゃないっ」

「えぇ……」


 口を尖らせるミカ。オレは困惑するしかない。


「いい加減にしろ。ウザ絡みしてやるな」


 嘆息するブリュムが冷ややかにたしなめる。当の本人はブー垂れてむくれるだけ。反省の色は一切なし。


「そうです、ミカさま。フレーヌさまが殿方と逢引きするなんて、絶対にありませんっ」


 鼻息荒く反論するのはピティエ。やっぱり、持つべきものは理解のある幼馴染だ。


「私という存在がありながら、浮気なんてありません!」

「なんでだよっ⁉」


 コイツ、とんでもないことを口にしたぞ。なんでそうなる?

 驚愕するオレを他所よそに、女子が囲む食卓から「おお~」と感嘆の声が漏れた。


「ちなみに。二人の仲は、どこまで行ってるの?」

「確かに。気になる~♪」


 何故かリュクセラとペリエが便乗して来た。


「その……フレーヌさまとは、一夜を共にしたこともありまして……」

「おいいいぃぃぃぃぃぃっ やめろ、やめろォッ!」


 恥ずかしそうに手で覆った頬を染めるピティエ。この流れはマズい。いつかのようにイジり倒される未来が見える。オレは即座に火消しに掛かる。しかし、好奇の視線は防ぎようがない。


「ヤることヤってんのね」

「ねぇ~? 意外~」

「ちっげーよっ ピティエ、お前も紛らわしい言い方すんな⁉」


 身の潔白を証明しようとオレは抗議の声を上げた。


「つまり、それは遊びだった?」

「そんな…………っ」

「それもちげぇっ お前も何、傷付いたみたいな顔してんだよっ⁉」


 アレはそもそも、お前がオレのベッドに入って来たんだろうがあああああああああッ‼

 躍起やっきになって声を荒げているのが滑稽なのか、きゃいきゃいと黄色い声が食卓に満ちる。


 ねぇ、なんなの。女子って。

 恋バナしてないと、死ぬの?

 どうにかならないか?縋る想いでイザイアたちを探すも、今日に限って食事に来る時間が遅い。


「浮気、ダメ」

「うるせえよっ⁉」


 周囲を見渡すオレにラシーヌのツッコミ。否定すると、どっと笑いが起こった。

 いや、この場合はボケ?もう、わけわかんねえな……


「なんというか。朝からかしましいのぅ?」


 ヴェニュスは呆れ顔でオレたちの前に現れた。制服ではなく寝間着姿で胸元が大きく空いており、豊満なバストが零れ落ちそうだ。往来する男子高校生たちの視線がそこに吸い寄せられていた。


「おはようございます。助けてください……」


 オレは独力では収拾を付けられそうになかったので、素直に懇願した。


「まったく。そう揶揄からかってやるでない。本人はこの通り、迷惑してるであろう?」

「お前のせいだぞ?」

「ごめんなさい」


 ブリュムが促し、ミカが謝って来た。すでに場のテンションも鎮静化してたので、許すことにした。


「これで、落ち着いて食事ができるのぅ?」


 翠碧すいへき双眸そうぼうを細めて妖艶ようえんに笑うヴェニュス。

 本当に良い人だ。セクシー過ぎるのがたまにキズだが。


「はい、ありがとうございますっ」


 オレは嬉しさのあまり、彼女の両手を握り締めた。


「いや、その……ワシに、そっちの気は無いのじゃが……」


 顔を背けて赤らめる。その様子に再び笑いが起きた。

 疲れた。オレはガックリと肩を落とす。アコニスににらまれた気もするが気にかける余裕は無かった。

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