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TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


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63/108

打てる方策

 試合まで残り三日。今日はアクセリウスがグラウンドに来ていた。


「改造が終わったぞ。まずは自分たちの目で確認してくれ」


 アクセリウスが機巧人形ゴーレムをマウンド上に立たせる。といっても二足歩行などではなく、歩行器のような車輪とサスペンションが付いた台車が上体を支えている。


 ミニュイの意向で、まずはオレが打席に立った。

 投石器の要領で球が撃ち出される。プレートの端から対角線上に投げられ、胸元に向かって来る。


(スゲェぜ。対戦で見た通りだ――)


 脇の下から迷いなく振り抜いた。打球が天高く舞い上がりグングン伸びていく。ホームラン。


「どうだ?」

「はい。完璧です」


 かなり正確に再現できていた。漸く狙い球であるスライダーの本格的な練習ができる。

 因みに投石器と同じ原理で飛ばしているのにどうして球が曲がるかというと、組み込んだ術式で無理矢理曲げているらしい。


 試合で魔力を使うのは禁止されているが、練習時に関しては特に制約も無い。

 投球機巧人形ピッチングマシーンは他寮にも二台ずつ納品しているらしいが、スライダーを投げられるのはこれ一台だけ。


 それから十球、柵越えを連発したオレはミニュイと交代。


「ふっ――――」


 外角低めに落ちていく球を、ツイスト打法から巧みにすくい上げ、初球からヒットにした。五球ほど外野に弾き返すのを見届けた後、アクセリウスは背を向けグラウンドを後にしようとする。


「もう帰っちゃうんですか?」

「ああ。まだ仕事が残ってるからな」

「仕事?」


 聞けば、カーバンクル寮から左投げの投球機巧人形ピッチングマシーンを今週中に納品しなければならないのだとか。


「ありがとうございました!」


 何はともあれ、練習が捗る。その事に感謝した。


「おう、頑張れよ」


 それだけ言って帰って行った。

 一人がマシンを使う練習をしている間、手持ち無沙汰になっている打者はマウンド横でアコニスが投げる剛速球をプッシュバント。


 これは剛速球に目を慣れさせ、いわゆるインターチェンジ効果を期してのもの。

 十球バントし、インターチェンジ効果でた打者はスライダーの特打ち。それにより、ペシェットのスライダーへの対策に万全を期す。


 それにもあぶれた人は、待っている間に幻術でイメージトレーニングをしてもらった。

 オレはというと、ピティエと投球練習。


「よし、ピティエ。今日はオレたちも新しい球種、試してみっか?」

「はいっ!」


 喜色をにじませた幼馴染は溌溂はつらつと答えた。

 ソラニテにも見せず、二月以上かけて練習してきた新たな変化球は高速スライダー。

 直球に近い速度から虚空を滑るように曲がっていく。


「よし、良い感じだ」

「はい♪」


 ピティエは屈託なく破顔した。

 普通、シュート系の変化球が得意だと、スライダーなど逆側に曲がる変化球を投げる際には一部投げ方を変える必要が出て来る。そうしないと、上手く曲がらないからだ。


 しかし、ピティエは生まれつき関節の柔軟性に富み、シュートもスライダーも同じ投げ方ができる。それは打者を大いに幻惑することだろう。

 もっともピティエは左投げなので、ペシェットのスライダー対策には使えないが。


 高速スライダーを中心に百球ほど投球練習をさせて一旦休憩。

 それが終わると、今度は守備練習。アコニスはベンチ前のマウンドで投球練習。


 但し、今日の派遣部員で剛速球を受けられる人材は居ないし、オレは野手に弾丸ライナーを打ってやらないといけないので一人で練習することになる。

 ただ昨日と違い、今日は的がある。


「ふっ――――」


 唸りを上げる剛速球は的の右端に当たった。

 四隅をロープに括り付けられた目標物は木板を布で覆い、後ろを装甲材で補強。ロープを保持する木の柱も板状の足に鉄のウエイトを乗せて固定する。


 スライムの緩衝材は実現できなかったので、オレが準備した元の設計図を基に一晩でトリスタンが作ってくれた。

 布と木、ロープと装甲材衝撃を吸収してくれるので、跳弾の心配は無い。


 真ん中以外への制球は未だに定まらないが、黙々と練習に励むアコニスを横目にオレは右打席に立つ。


「じゃあ。次、サード。行きますよおー」

「はぁ~い」


 間延びしたペリエの応答を確認した後、ピティエの直球を三塁線上に思いっ切りかっと飛ばす。

 虚空を斬り裂く打球を真正面からキャッチ。乾いた破裂音が響く。


「はい、次。左中間に飛ばしますからねー」

「ほ~い」

「はい、バッチコーイ!」


 再び直球を注文。これは球の打席到達からヒットが飛ぶ時間を短くして打球反応を上げるための措置そち。打球がビュンビュン飛び交うとケガの心配があるが、事前に護法プロテクションを施すことでリスクを低減していた。


 クロスファイヤーで胸元を抉って来る速球を上からぶっ叩く。打球は三遊間を切り裂き、外野の芝生に突き刺さった。

 ラシーヌは打った直後に予測した落下地点へ駆け出していたが、ミカは球が頭上に跳ね上がってからようやく打球に反応。守備に一抹の不安が残る。


(まあ、いい。守備の穴はリードでカバーだ)


 投手戦の展開になるだろうから、優先すべきは打線の強化。割り切って練習を続けた。

 遊撃手のブリュムは勿論、二塁のリュクセラも守備に関しては問題ない。


「あーー」


 だが、一塁手を務めるフェルムの守備が懸念材料だった。球を追い切れず、目一杯に伸ばしたグローブに掠ることなく空を切って通過した。


「落ち着いて」


 右翼手のミニュイがフォローに回り、外野に跳ねている球を捕って長打コースになるのを阻止。即座に一塁のベースカバーに入るフェルムに送球。代走で走らせていた派遣部員が駆け抜ける方が速く到達していた。


 とりあえず、長打にならなかっただけ良しとしよう。

 三十球でアコニスと交代してもらい、少し球速が上がった直球を打ち返して守備陣を強襲する。


「むんっ」


 さすがにアコニスのツーシームとかは居合打法でないと対処できないので改めて左打席に入った。


 しかし、一塁側からクロスファイヤーとツーシームを駆使して来るのには感心した。

 制球が定まらないまでも工夫が見て取れ、オレは嬉しくなった。


(だからって、手加減はしねぇけど)


 外角の直球を流し打って左翼方向に飛ばしたり、引っ張って右翼線にも飛ばす。

 ツーシームも容赦なく外野へと突き刺した。


「くっ……」


 その間アコニスがかなり悔しがっていたが、オレは何も言わなかった。

 勝利のためだ。許せ――


 〇                          〇


 夕暮れの陽光がそらを黄金色に輝かせる。青と黄金のグラデーションがとても鮮やかで、見ていて心が洗われるような気がした。

 時刻は六時半。試合まで残り二日ということもあり、今日は練習を終えて帰寮する。


 その足で食堂に行こうと玄関ホールに着くと、ドロテアがソファに腰掛け待っていた。


「こんばんは、ペシェット様」


 私の姿を見つけるや、恭しく一礼する。


「その箱は何だ?」


 ソファに置いてある木箱を指差した。はい。頷いてから侍女メイドは口を開く。


「これは、我が主が是非とも貴女様から手渡して欲しいと……」

「手渡す?」


 変な話だった。思わず怪訝けげんな顔を浮かべる。

 そして彼女から聞かされた名は、意外な人物だった。


 〇                          〇


 明日は試合前日ということもあり、練習も調整程度で一時間もやらない。

 もちろん派遣部員も無しだ。


「なら、明日は飲むしかないじゃない!」


 瞳を爛々《らんらん》に輝かせるのはミカ。さすがはウチの盛り上げ隊長。


「ほどほどにしとけよ」


 肩をすくめたブリュムが諫言かんげんを呈する。試合当日は休業日とあって授業がないので、羽目を外したくなる気持ちがよく分かった。


「決起集会みたいだな……」

「むしろ、壮行会じゃない?」

「いいねぇ、やろうやろう~♪」


 フェルムの言葉を受け、リュクセラやペリエも賛意を示す。


「じゃあ、試合に勝ったら今度は祝勝会ですね?」

「そうそう! わかってんじゃない♪」


 オレが軽口を叩くと、ニヤリと笑みを浮かべたミカが指差してきた。


「なんじゃ? 今日はいつにも増して楽しそうじゃのぅ」


 振り返ると、魔法師団を率いるヴェニュスが後ろから声をかけて来た。

 訓練場はラタトスク寮にも複数併設されており、その一室を使って日々魔法の腕を磨いているらしい。


 頬を上気させた彼女の様子を見る限り、魔力を使うことで精神高揚が起こっているらしく眠たくなさそうだ。

 珍しいこともあるもんだ。

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