表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TS球児は甲子園の夢を見る  作者: 三津朔夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/108

ユニコーン寮の本領

「ハイ、ノーアウト! バント警戒、前進守備お願いします!」


 アコニスの弱点は周知の通りなので、早速対策を講じた。

 守備陣が動いたのを見届けた後で、オレはアコニスにサインを送る。


(んじゃあ、予定通り――)


 プレート中央からのツーシームを注文。それに頷くと、大きく振りかぶって投球を開始。

 速い球が、打席の手前で急激に外角へ沈み込む。スリジエはこれを見送ってストライク。


 やはり本調子ではない。曲がり幅が少ないのも相変わらずだ。オレの中で懸念が深まる。

 二球目も同じように見逃し、早くも追い込んだ。


「…………」

(確実に何か仕掛けて来るよな……?)


 ひたすらに無言で冷静なのがかえって不気味だ。


(――いや。だとしても、やることは変わんねぇ)


 ペシェットの球を受け続けて来たスリジエは、剛速球に対して最も適性があるとみて良いだろう。故に、三球ともツーシームで勝負に出た。

 アコニスはピティエと比べて制球が甘い。同じ球種だが軌道にブレが生じ、外角への変化が少し甘くなった。


 バットから快音が響く。打球は前進していた内野の頭上を、易々と超えて外野に落ちた。


「マジかよ……」


 百四十キロ台でピティエとは変わらない球速とはいえ、初見でアジャストしてくるとは。 しかも、変化球であるツーシームに。確かにペシェットも使っているが。 

 結局、二塁打になったタイミングでオレはアコニスに駆け寄った。


「何?」


 バツが悪そうだが今は気にしてられない。


「とりあえず、三盗やホームスチールがあるだろうけど気にするなよ? それで制球乱しちゃ本末転倒だぞ」

「わかった」


 責められなかったことに安堵したのか、アコニスは素直に頷いた。


「ヒッティングして来たってことは、バントが苦手かもわからん」

「ホントに?」


 多分。根拠はなかったが、首を縦に振っておいた。

 作戦に変更はないことを伝えると、オレは再びミットを構える。


「まさか、バントは無いから楽ができる。なんて、思ってないでしょうね?」

(ん――――?)


 オネットはまるで、オレの胸中を見透かしたような発言を打席でして来た。

 打席最前部でバントの構え。思いっ切り嫌な予感しかしない。

 しかし、作戦変更はないとした手前、安易に直球を投げさせたくはない。


 そもそも、投げたところで状況が変わらない公算の方が高い。

 オネットに投げる第一球。バットを引っ込めワンストライク。その間にスリジエは三塁を落とし、ホームスチールが狙える位置に来た。間違いなくやって来るだろう。


「へぇ、ピティエより思った程変化しないのね?」

「そりゃあ、肩がまだ温まってないですからね?」


 そう。言葉短く一瞥いちべつすると、再びバットを寝かせて構えた。


「ハイ、ノーアウト、バント警戒!」


 第二球目は見逃す。そして三球目でホームスチール敢行。プッシュバントで器用に三塁線へ転がされた。交錯する形でスリジエがホームイン。これで四点目。


「ファースト!」


 一点を献上しつつもアコニスに指示をして一塁へ送球させた。判定はセーフ。

 作戦を練り直す必要があった。しつこいと思いつつも再びマウンドへ。渋面のアコニスを相手にするのは気が進まないが、悠長なことは言ってられない。


 何しろ、下手を打てばこの回で勝負が決まってしまう。サヨナラヒットがバントとか、はっきり言って願い下げだ。


「今のは仕方ない。エラーしなかっただけでも収穫だ。練習の成果が出てるぞ」

「うん……」


 められて悪い気はしないらしい。実際、フライ気味に絶妙な所に落とされた。オネットの方が上手だった。


(そうなんだよ。相手はバントも上手いんだよなあ……)


 もう、そうとしか思えない。

 考えてみれば、当たり前の話だ。


 ペシェットからヒットを打つのは至難の業。となれば対戦相手はバントで点を取ろうと画策するし、その対策でバントシフトの守備練習もやって当然だ。

 すかさずブリュムがタイムを取った。内野陣がマウンド上に集まる。

 皆の前で一つ、ハッキリさせる必要があった。改まってアコニスに向き直る。


「正直に教えてくれ。あと何球で、肩が温まる?」

「え?」


 突破口はもう、そこにしかない。

 ブリュムを始めとしたメンバーが見守る中、アコニスは慎重に言葉を選ぶ。


「あと十――――いや、十五球は欲しい……」


 心苦しそうだ。真紅の双眸そうぼうを伏せる彼女の顔は浮かない。

 当然だ。その意味する所を考えればそれは余りに絶望的で、試合放棄とも取れる。


「ちょっと待って。それってスリーバントだとしても――」

「みなまで言うな」


 リュクセラの言葉をブリュムが遮る。気持ちは痛いほどわかる。

 だが、オレはまだ試合を諦めてはいない。


「考えがあります」


 断言すると耳目がオレに集中。アコニスの手をオレは素手とミットで包み込んだ。


「投球練習だ、アコニス。一人六球なら、三人目の途中で終われる」


 どういう事だとブリュムが質問して来たので、具体的な説明をする。

 オレは再びコースと球種ごとのサインを確認し、それに従って投げるように指示。ただ、不安が残るのであろう、アコニスが尋ねる。


「大丈夫なの……?」


 登板当初の会話を思えば、懸念するのも仕方ない。だが、オレは敢えて断言する。大丈夫だと。


「なあ、アコニス。オレやピティエがどうして、お前に制球に関して特に言及して来なかったか。理由が分かるか?」

「わたしが、嫌ってた、から…………?」


 所在なさげで痛々しい。

 しかし、それは違う。もっと技術的な話だ。

 制球の要は体幹。前後左右、上体の倒し方一つで球筋は容易に変わる。


「そして具体的な事や勘所に関しては、個人の感覚にる部分が大きい。下手に説明するより、自分で体得して欲しいと願ったからだ」


 それと制球に関しての思い違いも一つ、ここで正しておく。


「いいか、アコニス。お前は別に制球が苦手なんじゃない。単純にノウハウの蓄積がないだけだ。実際、真ん中ら辺には集中させることができるんだから」

「あ――――」


 だからこそ、やれることがある。


「肩が温まるまでは、直球だけでいい。オレが構えたミットに投げ込んでくれ」


 制球力を付けるためのトレーニングでは、ミットは使わなかった。あくまで一人で練習させていたから。


「うん。それならできる」


 力強く頷くアコニス。彼女の顔には闘志が漲っていた。それを受けオレも頷き返した。


「そうそう。ペシェット先輩のピッチングで、参考にできるのが一つあるぞ?」


 せっかくなので教えておく。これはうまくすれば、制球に役立つ技術だ。

 伝え終えると、オレはブリュムたち内野手の顔を見渡す。


「それじゃ皆さん、引き続きバントシフトで警戒をお願いします」

「ん。わかった」

「任せときなさい」


「二人が投球に集中できるよう、陰ながら支えとくよ~♪」

「その通りだ」


 互いの顔を見合わせ、解散して再び守備に就く。


「ハイ、ノーアウト一塁。引き続き前進守備でバント警戒、お願いします!」


 扇の始点からオレが声を張り上げると、外野のミニュイたちも守備は任せろと頼もしい台詞が聞こえた。


(さあ、行くぞアコニス――)


 わざわざスリーバントのお膳立てをしてやる義理はない。

 六番打者、アポリーヌに対する打一球は、高目に外した内角への直球。

 サインを送ってミットをそこに構えた。これなら、オネットも安易に盗塁を仕掛けることも無い。


 そして、投げられる第一球目。限界まで捻転した上体が解かれる中、踏み込む足を内側に入れ込む。インステップ。それで強引に内角へと剛速球を捻じ込む。


「ボール!」

「よっしゃあ!」


 少し真ん中に逸れたが、高目に外すことはできた。これなら、まだ希望はある。


「よし、アコニス。この調子で頼む!」


 続く二球目は外角で高目に外す。開き気味のステップで剛速球が唸りを上げた。


「うおっと!」


 限界まで伸ばすことで辛うじて捕球。衝撃で腕全体がしびれる。それでも、いつかの練習のような大暴投は起こらない。


「いいぞ、アコニス。これなら、配球次第でちゃんと勝負ができるぞ!」


 そう、これなら打者との勝負が成立する。

 まだまだ勝負は判らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ