享年21歳。高校球児が夢の後
雨の深夜。濡れたアスファルトが、オレの頬に張り付く。
いや、違うな。オレが道路に横たわっているんだ。
「――――――、――――――――――」
視線を上に向ければ、女性が何か喋っている。
――ああ、ダメだ。視界がぼやけて何も見えない。ついでに耳も聞こえない。
良いんだよ、別に。どうせロクな人生じゃなかったから。寧ろ、死ぬ口実ができてありがたい。
思えば、オレの人生のピークは高三の夏。春夏合わせて四度目の甲子園出場を決めた瞬間だった。
その日の晩。両親と妹がお祝いにと会食に連れて行ってくれた。
楽しかった、ささやかな祝勝会。その帰り道。家族を乗せた車は、交通事故に遭った。
まさに急転直下。オレ以外の家族は死に、オレも膝の大怪我で選手生命を絶たれた。
そこからは社畜人生まっしぐら。
大学なんて。事故の時の金で財力に余裕はあっても、入る理由が無いなら同じ事。オレから野球を取ったら、何も残らなかった。
しぶしぶ就職しただけの人間に、やる気なんてない。ミスを繰り返し、その度に怒声が降りかかる。事故で得た金も全部、親戚に毟り取られた。そのために弁護士を雇ってくれたのだと気づいても、後の祭り。
もう、全部どうでも良かった。
――――意識が、朦朧として来た。もうダメだなこりゃ。
まあいい。どうせ最後に美人を助けたいだけの人生だった。
そうだ。車のライトに照らされた顔の輪郭は、確かに美しかった。
だから、もういい。もう良いんだ。
――――五体の感覚がない。何も感じない。
音も、光も。
これが『死』か。
――――ああ、
できるなら、もう一度――
『全力で、野球がしたい』
――――