81話「次は町が消し飛ぶビームを撃ったらどうですか?」
メイド騎士がいくつもの壁を背中で突き破って遠ざかっていく――その間も、フレアさんを守りたいという気持ちはとまらない。全身の血液が沸騰したような熱い感覚も強くなっていく。
そしてさっき見たフレアさんの泣き顔。それ思い出すだけで理性が急速に融けていくのを感じる。ゲームで例えるのならバーサーク状態。そして――見える。
白くて広い部屋。その白い壁に女性が背中をつけた状態で立っていた。少し年上になった同級生。星崎さん。彼女の胸には、剣が鍔まで突き刺さっている。その剣を握っているのは、黒いメイドさん装備に身を包んだ女性だった。顔の上半分は長い金髪の陰になって見えないけど、その瞳が僕の方を向いた。金髪越しに、ぎらりと光る冷たい瞳。
(フローラさん!?)
それを認識した瞬間、理性が残らず蒸発して視界が真っ赤に染まった。
パイロットが逆上して巨大メカを暴走させてしまうシーンは、アニメとかで見たことがある。それと同じ経験をする日が来るとは思っていなかった――けど、その日が来たからには暴走するしかない!
「今日会う大人はこんなのばっかりだ!」
僕は地面を踏み砕きみながら、猛スピードでメイド騎士に襲い掛かった。足を踏み出す度に地面は爆破でもされたみたいに砕け散り、そして進路上にある、すべてのものが木っ端微塵に破壊されていく。
その姿はまさに暴走した巨大メカなんだろう――そんなことを考えていると、赤く染まった視界の先でメイド騎士が刀を構えた。辟易するほどに隙がない。今となっては大した問題じゃないけど。
「これでどうだ!」
「なにっ!」
僕は左手に短杖を握り、さらに光で強化した。杖の二刀流。槍のよりも珍しいに違いない。杖装備スキルが2倍になったりはしないけど、手数は間違いなく2倍だ。
そして防御力では僕の方が圧倒的に勝っていて、さらにフレアさんへの想いが理不尽なまでのパワーをくれる。チート武器を持っただけのメイドさんを圧倒できないはずがない。
がっ! ぎぎぎぎんっ! がぎんっ!
「うおおおおおおおおおおおおお!?」
杖と刀が打ち合った回数は27。28回目の打撃が脇腹にめり込み、メイド騎士は大きく体勢を崩した。僕はすかさず彼女の肩を引っ掴み、さっきまでいた倉庫めがけて投げ飛ばす――その数秒後、がしゃん! という豪快な音がここまで聞こえてきた。
「次はもう少し近くで聞いてみよう――ん?」
倉庫に向かって爆走を始めてすぐ、視界の先で赤い輝きが弾けた。メイド騎士が埋まっていた荷物の山が、まとめて吹き飛ばされる――彼女はすっげー怒ってるみたいだ。
シエリちゃんに北から南まで奔走させられた挙句に、右から左までぶっ飛ばされれば当然かも知れない。クラスメイトを殺された僕が、少しばかり暴走状態になってしまったのも当然だ。月までぶっ飛ばされても理解してくれるに違いない。彼女は大人なんだから――僕は戦杖に軋んだ音を立てさせた。その時。
「はあああああああああああああああ!」
メイド騎士が刀を両手で大上段に振り上げた。
そして咆哮じみた叫び声と同時、刀の輝きに赤い輝きが混じっていく。錬怒を加算しているみたいだ。つまり必殺技がくる。
かっ!
「受けてみろ――灰塵大閃!」
オレンジ色の剣閃が天を貫き、そして刀が振り下ろされた――次の瞬間、特大の光線が撃ち放たれ、僕に襲い掛かってきた。チート鎧越しに感じる、強力な圧力。杖装備スキルも回避を提案してくる――でも!
ぎぎぎぎぎっ!
「馬鹿な!?」
僕はそれを真正面から受け止めた。回避はできただろうけど、敵の必殺技から逃げるのは騎士らしくない。
アニメとかだったら掲示板が大荒れになってしまう――だから受け止めてみた。両手に伝わってくるのは予想以上の破壊力。城を消し飛ばすっていうのは神話や冗談じゃなかった。
「それはさておき!」
「なああああああああああああああああああ!?」
それを投げ返すと、メイド騎士が断末魔じみた声で叫ぶ――その間に特大の光線は倉庫の上部を掠め、それから彼方に着弾した。
きゅぼっ!
結構な規模の爆発。その爆風じみた衝撃波が倉庫を叩き、高く積まれた荷物がけたたましい音を立てて崩れていく。そんな中、メイド騎士はどこか呆然とした表情で見つめてきた。僕はその表情に満足しつつ、爆走気味に倉庫へ突入した。すかさず超戦杖を振り上げる――
「次は町が消し飛ぶビームを撃ったらどうですか?」
「ば、化け物があああああ!」
それをよりも先に繰り出された斬撃。それを左の超短杖で受け止めつつ、右手を振り下ろす――メイド騎士はひらりと身を躱した。けど。
かっ!
「ぐお!?」
重鎧から放たれた光の放電に直撃されて、彼女は飛び退きながら悲鳴を上げた。着地する余裕はなかったらしく、勢いそのままに柱に激突した。追撃のために足を踏み出すと素早く体勢を立て直しはしたけど、大きくよろける――高密度の錬怒をまとっていても、防具自体はメイドさん一式。ダメージは蓄積しているんだろう。好機だ。
「星崎さんの仇!」
「え?」
フレアさんの不思議そうな声が聞こえたような――でも暴走中の心と体は止まらない。
ひいいいいいん……!
胸の辺りに意識を集中させると、光の粒子が集束を始めた。それは球体となり、急速に膨れ上がっていく。
これは巨大メカものではお馴染みのチャージ系の必殺技だ。僕がいるのはファンタジー世界だから、なんとか粒子砲とか、なにがしメガキャノンだと違和感がある。だから趣を変えてみることにした。
「星崎さんの仇!」
「どこまでも化け物――はっ!?」
メイド騎士は跳躍んで避けようとして、なぜか踏みとどまり、刀を構えた。
そしてフレアさんがはっと息をのむ音が聞こえたような気がする――訊いてみようと思ったけど、巨大な光弾は両手の中から弾けるように射出されていた。
ごっ!
「癒希さん!?」
「ええい!」
それを刀で真正面から受け止めたメイド騎士。彼女の表情はこれでもかと引きつっている。
ルイ大帝国では、必殺技を受け止める決まりでもあるのかな――僕はそんなことを考えながら、メイド騎士の引きつった表情を眺めていた。と。
「うおああああああああああああああああああああ!」
光弾は真上に弾き飛ばされて無限の青の彼方に消えた。けど。
かしゃんっ!
刀が床に落ち、それを拾おうとしたメイド騎士はがくりと片膝を突いた。
僕は立ち上がろうとしている彼女の目の前まで進むと、超戦杖を向けた。それから両手で大きく振りかぶる――全年齢向けのマンガなら、互いの健闘を讃えて夕陽を背景に握手でもするんだろう。でも星崎さんが胸を貫かれたシーンを見てしまった僕はちょっと大人の気分だ。だから。
「無理ですね」
「……」
メイド騎士を見据えると冷たい瞳が向け返された。相変わらず慣れないけど、これで最後だ。もう2度と見ることは――
「癒希さん!」
「はい?」
超戦杖を振り下ろそうとした時、背後から肩を掴まれた。顔だけで振り向くと、そこにいたのはフレアさん。彼女の美しい瞳が、それはだめですと告げてくる――と。
がたんっ!
フローラさんの背後にあった木箱から蓋が床に落ち、その中からシエリちゃんがぴょこりと顔を覗かせた。どうにも眠そうに指でまぶたを擦っている。




