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75話「もしかしてお待たせしちゃいました?」

「もしかしてお待たせしちゃいました?」

「……」

 僕が倉庫から出ると、少し離れたところにポスロウが立っていた。

 時間的に、武器屋さんから一直線にこの倉庫まで向かってきたと考えられる。僕たちの気配を探知していたってことだ。


(まあ、僕もあいつの気配を感じ取ってたから驚きはしないけど)

 そんなことを考えながら戦杖を構えると、ポスロウも散弾銃を向けてきた。嘲笑と同時に殺気が膨れ上がる。


 がががががんっ!


「芸が細かいですね!」

 連続して火を吹く散弾銃。無数の散弾が撃ち放たれ、それらは恐ろしいほど密集して僕の聖なる盾(ライト・シールド)に襲い掛かって来た。射撃の反動(リコイル)を完全にコントロールしているんだろう。散弾銃はただでさえ反動が強い。その連射ともなれば、機銃みたいに固定しないと不可能なはず。それを片手でこなしてるポスロウは間違いなく戦いのプロ。風体的には殺し屋がぴったりだ。でも。


「そういうのにはこう(・・)だ!」

「……!」

 僕は聖なる盾を斜めに構えてポスロウへ突進した。

 なにかの漫画で、盾を持っていても銃弾を正面から受けると危険なので、こう(・・)するといいって書いてあった。銃を向けられたら逃げろとも書いてあったけど。それはさておき。


「このまま吹き飛ばしてやる!」

 散弾銃は火を吹き続け、無数の鉛玉を撃ち放ってきたけど、盾の傾斜によって弾き散らされていく――ポスロウとの距離は、あっという間に縮まった。

 このまま突撃(タックル)で体勢を崩して、それから剣闘士ものでお馴染みの盾殴り(シールド・バッシュ)で叩きのめしてやる――


 ばひゅっ!


「そんな簡単にいくわけないか」

「……もちろんだ」

 ポスロウは一足飛びにとんでもない高さまで跳躍すると、それから身を翻して屋根の上に着地した。鼻を鳴らしてから再装填を始める。その隙を突きたいけど、あそこまで跳ぶのは無理だ。そんな僕に対し、ポスロウが嘲笑で見下ろしてくる――だから。


「お願いします!」

『はーい♡』

 中指だけを立てた左手を向け返した。あいつのすぐ目の前で。


「――!?」

 僕がいきなり飛び上がって、ポスロウはすっげー(・・・・)驚いたみたいだ。

 ちなみに彼の視線は僕を抱きかかえている女性――純白の翼を生やしたフレアさんに向けられている。

 彼女は以前、能力(チート)である“聖女の祈りと守護の騎士”の対象を僕に指定してくれたから、僕はフレアさんの騎士に、フレアさんは僕の聖女になった。その繋がりで力を得た彼女は聖女の祝福――要は支援系の術――を使えるようになったらしい。フレアさんが生やした翼はそのひとつ。こういう時のために適当な物陰での待機をお願いしておいたってこと。それはさておき。


「その女は何者だ!?」

「お前には教えない!」

 僕は屋根に飛び移ると同時に戦杖を振り下ろす――でもポスロウは銃身でしっかりと受け止めた。

 その表情には困惑や焦りが既に微塵も感じられない。僕の脳裏に銃剣術という言葉が思い浮かんだ。その直後、銃床(じゅうしょう)がとんでもない速度で振り上げられ、僕の頬をかすめた。これが正しい使い方だ(・・・・・・・・・・)と言わんばかりの重い振り下ろしが続く。


 がぎんっ!


「……銃の使い方を間違ってませんか?」

「お前は冗談の使いどころを間違ってるな」

 戦杖と散弾銃の鍔迫り合い。それは回復術士と殺し屋の睨み合い――ポスロウの瞳は鋭くて冷たい。本物はこう(・・)なんだろうと確信させられる。

 そして腕力を含めた身体能力はポスロウの方が上だ。でも。

 

(ポスロウの散弾銃は重い上に(・・)かさばる!)

 対して僕の戦杖は適度な重さ()コンパクト。近接格闘の距離で、この取り回しの良さについてこれるはずがない。


 ががんっ! ごすっ!


「やっぱり銃の使い方を間違ってますよ!」

「――ちっ!」

 散弾銃の振り下ろしを潜り抜けてからの連打。その一発がポスロウの右肩を砕いた。さらに。


抑制の羽根レストレイント・フェザー!」

「つくづくお前は何者だ……!」

 フレアさんが翼から放った白い羽根が彼へと降り注ぐ。殺し屋は後転飛びで身を躱し、宙に身を置いた状態で散弾銃をフレアさんへと向けた。


 がんっ!


「させるか!」

「……うるせえ。だからガキは嫌いなんだ」

 僕は戦杖でその照準を狂わせ、さらにポスロウへの攻撃を続けた。完全に守勢へと回った殺し屋。さっきの並外れた跳躍力を披露する余裕はないだろう――彼に意識を向けたまま、背中越しに叫んだ。


「シエリさんとここを離れてください!」

「はい! どうかご無事で!」

「……ほう? ひとりであんよ(・・・)ができるのか?」

「それが遺言にならないといいですね」

 適当に言い合っている間に、フレアさんは高度を下げて倉庫の中へひらりと飛んでいき、すぐに2人の気配が遠ざかっていく――彼女たちを遠ざけたのには、安全を確保する以外にも理由がある。僕はあくまで冷静にポスロウを睨みつけた。そして。


「踏み潰してやる」

「巻き添え()家族でも殺されたのか?」

「お前は僕に殺されろ!」

 一気に距離を詰めると、怒りモードでの蹴りをポスロウの脇腹にお見舞いした。さらに体勢を崩した彼の左肩を狙って、戦杖を全力で振り下ろす――


「それがお前の遺言だ」

 ポスロウが呆れ気味に鼻を鳴らすのが聞こえた。

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