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60話「よく考えてみると無人の町ってホラーですよね」

癒希×フレア回の3話目です。

よろしくお願いします。

 シエリちゃんはルイ大帝国の貴族で、外出時に攫われてこのディアナ神国まで連れてこられたらしい。

 そして彼女が狙われた理由は、額に埋まった精霊宝石――大地に流れる不思議パワーが結晶化したもの。今は包帯の下に隠れて見えないそれは非常に貴重なもので、この町の富豪が洒落にならない大金を積んで犯罪者集団に依頼したらしい。ちなみにさっきの散弾銃男はそのリーダー。名前はポスロウ。


「こんな感じ! だから助けて! ね?」

「……」

「大変な目に遭われたのですね。可哀想に……」

 こんな感じ(・・・・・)の説明を聞き終えた時、僕は半眼になっていた。シエリちゃんを慰めるように抱きしめているフレアさんにちょっとした危機感なんか覚えつつ、心の中で呟く。


(何もかもが嘘っぽい) 

 僕がいた世界では、嘘っぽいことがすべて本当でしたっていうオチの作品をそこそこ目にしたことがあるけど、シエリちゃんの言ったことは世界の違いを考慮しても信じがたい――巻き添え上等(・・・・・・)で散弾銃を乱射して多数の死傷者なんか出したら、警備兵どころか騎士団まで動員されての大捜査が展開されるはずだ。

 それを掻い潜って、しかもこの町の(・・・・)富豪にシエリちゃんを連れて行くなんて、難易度Insane(イカれてるぜ)でも済まない。でも。


(……今の状況で問い(ただ)してる暇はないかな)

 ここは専門店街の中規模な倉庫だ。建物自体が頑丈な上に窓も少ない。さらに隠れる場所や遮蔽物が山ほどある。複数の店舗で共有しているのか、干し草から調理器具までの多種多様なものが積み上げられていた。本来なら専門店街の店員たちの出入りも激しいんだろうけど、町が無人になった今は僕たちしかいない。


「よく考えてみると無人の町ってホラーですよね」

「はい。誰の仕業なのでしょうか……」

 フレアさんはシエリちゃんを抱きしめたまま、不安そうに周囲を見回した。

 町が無人になった訳じゃなくて、僕たちが空間の位相だかなんだかをずらされた状態なんだろう。この世界の術に詳しくはない。けど。


『通りが混雑してるから位相ずらしちゃおっか?』

 こんな気軽に使えるものじゃないのだけはわかる。ポスロウも驚いていたから、彼の仕業でもない――巻き添え上等散弾銃乱射男に町を無人にするなんて殊勝な思考回路が存在したら、世紀の大発見だろう。


(だったら……)

 僕の脳裏に思い浮かんだのは、ある女性のにんまりとした笑顔だった。

 加護を即時返品されたゲス女神――いや、巻き添えを防いでくれたんだから、今は女神様と呼ぼう。今だけは心からの祈りを捧げるべき女神テラリディア。これは彼女の加護に違いない。女神の加護を賜ったんだから、僕も普段以上に張り切って臨むべきだ。


「――そういうわけで、黒い害虫のコスプレをしたおじさんをブチ潰して、この世界を少しだけきれいにしてきます!」

「癒希さん……」

「はい?」

 僕が張り切って法衣の袖をまくると、フレアさんが不安そうに見つめてきた。心配してくれてるんだろうけど、僕に散弾銃は効かないし、即死以外ならヒールで治せる。なにより、あいつを踏み潰したくて仕方がない――散弾銃は効かないって、よく考えたらすごい字面だ。それはさておき、僕はフレアさんに親指だけを立てた右拳を向けた。


「すぐに戻ってきますから心配しないでください」

「……」

 それでもフレアさんの表情は晴れない。けど、やるべきことはやるべきだ。

 僕は軽く微笑んでから足早に倉庫を出ようとして――手を強く引っ張られてしまった。さらに思い切り抱きしめられる。


 むにゅっ!


 そして温かくて柔らかな感触に全身を包み込まれた。


「うわ♡ うわ♡ 大人ってそんなこともしちゃうんだ!」

「――!?」

 シエリちゃんの興奮したような熱い声。教育上、極めて不適切な場面を女の子(・・・)の記憶に残すわけにはいかない。

 僕は――名残惜しい気持ちをどうにか抑えて――フレアさんの胸から顔を離した。その時、さっきまで燃え上がっていた、どす黒い感情はきれいさっぱりに鎮火されていた。

 あれだけ強い負の感情を消すには魔法かやばめの(・・・・)お薬が必要なはずなのに――僕はフレアさんから体を離し、改めて彼女と向き合った。宝石のように煌めく瞳と、太陽よりも眩しい笑顔が僕を捉える。


「落ち着きましたか?」

「え――は、はい」

 僕は平常運転に戻った心拍に驚きつつ、フレアさんの問いかけに対して頷いた。

 ポスロウを年齢制限が必要なくらいの酷い目にあわせてやりたいと思っていたけど、今はシエリちゃんとフレアさんをどうやって守るかの方に集中できている。つまり何が最優先かを理解できている――冷静さを欠いたまま戦っていたら、どんな結果になっていたわからない。


「あの、すいませんでした」

「ふふふ♡ 私の方がお姉さんですから」

 フレアさんは極上の笑みでそう言った後、ぐっと握り込んだ右拳を顔の高さに上げた。そして。


 きゅぴーん!


「では一緒に戦いましょう!」

「え!? 戦闘に参加するんですか?」

「はい! 私は癒希さんの聖女(・・)ですから! がんばります!」

 瞳にやる気のお星さま(・・・・)を宿したフレアさんは拳を天井に向かって突き出した――次の瞬間、純白の輝きをまとった。

不定期更新ですが、なるべく早めにと思っています。

よろしくお願いします。

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