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57話「とにかく時間はあるのでもう少し考えましょう」

癒希の休憩回です。

25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。

『はぁ……』

「……」

 呆れと怒りが混ざったヘビー級の落胆。その後、僕の胃がきりきりする沈黙が訪れた。

 僕は胃を守るために――じゃなくて、よろしくない(・・・・・・)雰囲気を振り払うため、大頬骨筋を全力で収縮させた。その満面の笑みをお姉さんたちに向けて――爆破寸前の海底施設に取り残された主人公みたいな心持ちで――元気に声を張り上げる。


「きっと縁太君が助けを呼んでくれるますから、安心してください!」

『……』

 なお効果はいまいちだった模様。

 いやまあ、僕も自分だけ逃げだしたことがあるから、縁太君を責められないけど――あの時の嫌な気分なんか思い出した時、ブリジットさんが僕たちに向けてぺこりと頭を下げた。


「当家の者が大変にお見苦しい姿を晒してしまいましてぇ……」

 プライドが高そうな彼女が頭を下げる、おまけに部下(・・)の失態が原因だなんて、大事件に分類される事態に違いない。これが世に言う、言葉もねぇよ(・・・・・・)ってやつなんだろう。心の中でどれだけのお怒りの焔が燃え盛っているかを考えると――僕が住まわせてもらってる大教会に、縁太君の部屋も用意してもらった方が良さそうだ。それはさておき。


「ブリジットさんが悪いわけじゃ――」

 そんなことを言いかけて、僕は慌てて訂正した。建て前って言葉は世界を円滑に回すためにあるんだから、ぜひ活用しよう。


「誰が悪いってわけじゃありませんから」

「癒希様は本当にお優しいですね」

 オリアナさんは誰か(・・)への不満を、眉をひそめて表明した。

 縁太君は僕のクラスメイトだ。関係者ってほどではないけど、無関係でもない――なんだかとっても申し訳ない気分です。


(元いた世界ではここまで自己中じゃなかったんだけどなぁ。能力(チート)をもらって増長したにしても、限度ってものがさ……)

 僕は心の中でぼやきつつ、黒蛾の性質を観察し始めた。縁太君への不満愚痴大会を開催しても状況はよくならないんだから――


 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎりぃいいいい……!


 黒蛾は飽きもせずにオリアナさんの結界をがじがじしているだけで、知性もなにも感じられない。

 これなら――


「癒希様だけでしたら、奇蹟(ヒール)の連続使用で逃げられるでしょう」

「え?」

 頭に思い浮かんだことを、そのものずばり言い当てられてしまった。それを実行するつもりなんか欠片もなかったけど、ちょっとびっくり。それはさておき、僕は大切な従者に向き直って、彼女の白金の瞳を正面から見据えた。


「そんなことは絶対にしません」

「癒希様の生存手段のひとつとして有効という意味です」

 オリアナさんは微笑みながらそう言ってくれた――でもいざという時にはそうしなさい(・・・・・・)っていう意思も伝わってくる。


(絶対にそんなことしないけど)

 それを口には出さず、僕は2人を励ますように言った。


「とにかく時間はあるのでもう少し考えま――」

「なんですって!?」

「あらあらぁ!?」

「え!?」

 その直後、黒蛾の大群が結界の1か所に集まって球体を形成した。

 オリアナさんが鋭い表情で睨みつけた瞬間、それはドリルみたいな高速回転を始める――


 ぎゃりりりりり!


 ダイヤモンドカッターで石材を削るような高音が耳をつんざき、そして結界が軋み始めた。

 僕がいた世界には貝殻に穴をあけて中身を食べてしまうツメタガイっていう肉食の巻貝がいるんだけど、それに襲われてる貝はこんな気分なのかも知れない。それはさておき。

 

「削り方を変えた!?」

「そのようですが――ややきついですね」

 黒蛾には知性の()の字もないと考えてたけど、まさかの対応力を見せつけられてしまった。オリアナさんの頬に珍しく冷や汗が浮かぶ。


「あらあらまあまあ!? どうしましょうねぇ」

 ブリジットさんは縦ロールの中から、なにやら次々と取り出しては放り捨てていく――この世界の縦ロールは四次元につながってるんですか? 冗談はさておき、この状況をなんとかできる便利グッズはなさそうだ。少なくとも奇蹟と呼べるほどの物が縦ロールの中にあるとは思えない。


(だから奇蹟の子(ぼく)がなんとかしないと……!)

 そうは言っても、ヒールと杖スキルじゃこの状況はどうにもならない――僕は打開策を求めて辺りを見回した。

 結界の輝きでそれなりに視界はあるけど、放置された採掘器具が地面に転がってるのが見えるくらいだ。つまり役に立ちそうなものは見当たらない。


(発破用の爆薬でもあればと期待したけど……)

 結局は手持ちのカード(・・・)でどうにかするしかない――その時、視界の端にブリジットさんの微笑み。彼女を視界の中央に捉えると、それは寂し気な微笑みだった。アニメとか漫画でちょくちょく見たことのある死亡フラグ――すっげー(・・・・)嫌な予感がする! 僕はブリジットさんを捕まえようと手を伸ばす――寸前。


「私が囮になりますのでぇ、お2人はお逃げくださいぃ!」

「はあああああああああああああああああ!?」

「お嬢さん!?」

 ブリジットさんは結界から飛び出して、奥の坑道に向かって走り出した。

 黒蛾の大群は球体を維持したまま、獲物を狙う肉食鳥のように彼女を追いかけていく――そして静けさが戻った広い空間で、呆気に取られた僕が意識を再稼働させるまで約2秒。


「追いかけましょう! 縦ロール引っ張ってでも連れ戻します!」

「……はい」

 どこか思索するようなオリアナさんの表情が気にはなったけど、僕はオリナアさんと共に奥の坑道へ向かって全速力で走り出した。

25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。


次章は製作中です。

よろしくお願いいたします。

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