表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/92

55話「襲ってくる前に逃げよう!」

癒希の休憩回です。

25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。

 坑道を進んだ先は緩やかな下り坂になっていた。両端にはトロッコ用と思われるレールもあるからこの先が採掘現場なんだろう。

 そして頼りない灯りを道標に進んでいるせいか、なんとなく足が重い。

 ダンジョン(・・・・・)を進むと知っていれば松明くらい用意してきたのに――心の中でぼやきながら歩き続けること10分くらい。僕たちは開けた場所に出た。

 ボス戦が始まるのかってくらいに広い。周囲を見回せば、左右の壁には坑道がいくつも掘られていて、正面の壁には地下へ続く昇降機がある。当時はたくさんの労働者でごった返していたんだろう――でも現在、そんな史跡の中央にいるのは真っ白なモンスターだけだった。ぱっと見た限りでは水晶の巨塊。


蠢く宝玉塊ダイヤモンド・スライム……!」

「え!?」

 水晶かと思ったらまさかの宝石だった。

 そりゃあ冷静なお姉さんも目を丸くして呟くよ。机の奥に1万円札を発見した時の僕みたいな顔だ。多分。

 それはさておき、僕がじっと見つめているのに気づいたらしく、オリアナさんが蠢く宝玉塊の説明をしてくれた――要は数百年に1体、見つかるかどうかの超レアモンスターで、巨万の富(・・・・)の何倍もの価値があるらしい。

 僕はその具体的な数字よりも、オリアナさんが顔を赤くしていることに興味をひかれた。お金とかへの興味は薄そうだから、10回くらい転生しないとお目にかかれない超レアモンスターを前に、すごく興奮しているんだろう――冷静なお姉さんの昂った表情(エロス)はとりあえず置いておくとして、僕も戦杖を構えつつ宝石の塊を見据えた。でも――


(なんか……色が……変な気がする……)

 ダイヤモンドにも様々なカラーがあって、中には黒いものもあるらしいけど、このダイヤモンド(・・・・・・)はよく見ると濁ってる。色としての黒じゃなくて、穢れとかそういう言葉を連想させる印象だ。


「……」

 鞭を構えたオリアナさんも訝しげな顔をしたまま動かない。

 彼女の視線の先では、蠢く宝玉塊ダイヤモンド・スライムかかってこないのか(・・・・・・・・・)と言わんばかりにぐらぐらと揺れ始めた。挑発しているんだとしたら――


(理性の(ちから)を示す時かな?)

 骨に飛びつくタスマニアンデビルみたいな姿を晒すのは理性的とは呼べないだろう。違和感があるならよく考えるべきだ。お尻に火がついてるわけじゃないから撤退だってできるし、なんならスマホで撮影して図書館で調べても構わない。僕はブリジットさんの袖を軽く引いた。


「あのモンスターに詳しくはありませんけど、なんか変じゃないですか?」

「癒希君もそう思われますかぁ? 私としましても、ここは様子を見た上で……」

 返ってきたのはほんわかしつつも冷静な声――それを粗野な大声が豪快に遮る。


「ひゃっはー!」

「縁太君!?」

 その叫び声は発したら最後、主人公にぶっ飛ばされる負けフラグだよ!?

 心の中で絶叫しつつ反射的に耳を塞いだ次の瞬間、宝石の塊モンスターは木っ端微塵に爆破された。飛散する爆炎と火の粉とその他諸々――僕はうつ伏せに近い体勢で身を屈めていた。


(広いとは言っても屋内(・・)だ。こんな爆発を起こされたら鼓膜が破れちゃうよね!?)

 冷や汗を浮かべながらオリアナさんとブリジットさんを見やると、2人とも両耳を塞いでいるからその心配はなさそうだ。もちろん何かあってもヒールで治せたはずだけど、そういう問題じゃない。縁太君の行動は考えなしにもほどがある――分かっていたつもりだったけど、僕は悪い意味で彼の認識を改めた。


「縁太君!? 少しはみんなの安全を考えて行動しないと――え!?」

 僕が立ち上がった時、蠢く宝玉塊ダイヤモンド・スライムを構成していた無数の破片が一斉に舞い上がった。おまけにそれぞれが粘土みたいにぐねぐねとうねって形を変えていく。その姿はまさにスライムだ。そして。


 ぶぶぶぶっ!


「これは……蛾!?」

「癒希様! 下がってください!」

 僕たちの視界は黒い蛾の大群で埋め尽くされてしまった。大きさは僕がいた世界の蛾と同じくらいだけど、口吻(こうふん)――ストロー状の(くち)――の代わりに牙がある。つまり蛾ではないってことだ。正式名称が分からないから黒蛾とでも呼ぼう。それはさておき。


「ぶーぶー言ってねぇでちゃんと死ねよ! おらぁ!」

 縁太君が指を鳴らすと大群の中で小さな火花が散った。彼は何回か繰り返したけど小さな火花が散るだけで、群れ全体が砕け散ってはくれない。


(あのチートは対象を爆破するものだから……)

 対象の大きさに見合った爆破が発生するものなんだろう。つまり大群相手には著しく不利。広場での超爆発は縁太君が雲をひとつの(まと)として認識していたからってことだ。僕は縁太君の肩を掴んだ。


「襲ってくる前に逃げよう!」

「ふ、ふざけんな! 俺様は無敵なんだ!」

 ジーザス。その台詞は言ったら最後の負けフラグだよ。

 それはさておき、僕と同意見らしいブリジットさんも縁太君の腕を掴んだ。


「縁太君、討伐は失敗(・・)ですので撤退を命令いたしますぅ」

「て、てめえ……!」

「……」

 なんか縁太君を煽ってるような気がする。

 よく考えてみると、このモンスターも完全に縁太君の弱点を突いてる――そんなことを考えている間に、黒蛾の大群が一斉に襲いかかってきた。蛾の体は宝石みたいな光沢を放ってるから、蠢く宝玉塊ダイヤモンド・スライムの欠片をつかって形成されたモンスターなんだろう。つまり牙もダイモンド製ってことだ。群がられでもしたら洒落にならない。僕は縁太君を引っ張って出口へと向かおうと――


 ごっ!


「はあああっ!」

 それを援護する形で、オリアナさんの鞭がとんでもない速さで水平に閃いた。

 黒蛾の大群は横っ面(・・・)を苛烈なまでに引っ叩かれて進む方向を大きく曲げる――ダイヤモンドの体を砕くことはできなかったみたいだけど、進行方向を変えただけでもすごい。

 オリアナさんの給与査定をする権利が僕にあったら絶対に満点をつけるのに。

25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ