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51話『うっっっそでしょ!? なにやってるんですか!?』☆

癒希の休憩回です。

25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。

 白いベッドの上に赤衣の少年が寝かされている。

 全身は青黒く染まり、脈も心拍も呼吸もない――彼の魂は既にこの大地を去ったということである。

 そのベッドの傍らではオリアナがひざまずき、祈るような姿勢をとっていた。組み合わせた両手には短剣が握られており、彼女はその切っ先を自身の喉元へと向けた。


「今すぐお傍に参ります……癒希」

 最期の祈りも淡々と。そして微塵の躊躇いや欠片の迷いもなく、刃が白金の喉へと突き込まれる――


 がっ!


『うっっっそでしょ!? なにやってるんですか!?』

「ゆ、癒希――様!?」

 その刃を押しとどめたのは少女のような声と、妙に華奢な指だった。

「心臓も止まっていたはず――」

 オリアナさんはめちゃくちゃびっくりしてる。でも申し訳ないけど、それに構ってる時間が僕にはない。

 グルツの毒でやられた体もすべていつも通りに戻ってる。なら。


「あの! 後でぶん殴ってもらって構いませんから!」

「はい? あ――!」

 僕はオリアナさんをベッドに引っ張り込んで仰向けに寝かせた。

 本来なら白金の拳で壁の中か雲の上まで殴り飛ばされてるんだろうけど、彼女が混乱しているお陰でそうはなっていない。そして女神は10秒以内と言ってたからホワイトボードを使って説明している暇もない。


「ごめんなさい!」

「――!?」

 僕はどうにも頼りない両手でオリアナさんの肩をベッドに押し付けた。あっちの倫理とこっちの倫理をどこか遠くに放り投げ――彼女の唇に自分の唇を押し付けた。

挿絵(By みてみん)

『…………』

 何秒間かはわからないけど、とにかく少しの時間。その間だけ、僕とオリアナさんの唇は重なり合っていた。それから至近距離で見つめ合う――で、次は?


(どうすればいいんだっけ?)

 ここから先の手順が思いつかない。中学の保健体育でここから先(・・・・・)を習ったことがあったっけ? 高校では習うのかも知れないけど、入学1カ月でこっちに叩き込まれた僕は習ったことがない。


(……詰んだ(・・・)

 蛙地獄が天国に思えるような目に遭わされてしまう――刹那。


 どしんっ!


「うわっ!?」

 僕は重量挙げ(バーベル)みたいに担ぎ上げられて、それから仰向けに押し倒された。

 一瞬で逆転した上下に目を瞬かせつつ見上げると、オリアナさんが僕のお腹に馬乗りになっている。そして。


「フフフフフ♡」

 神官戦士のお姉さんは嗜虐的に微笑み、舌で唇を舐めた。なんか経験豊富な雰囲気が――これは全自動(フルオート)で進む予感がする。つまり本当にする(・・)ってことだ。


(異世界とはいえ、本当に!? 僕はオリアナさんと――)

 ここから先(・・・・・)を想像した途端、僕の血圧は視界の(ふち)が赤く染まるほど急上昇した。

 オリアナさんにも思いとどまる様子がなく、鎧ごと法衣を脱ぎ捨てる――寸前、彼女はなぜか動きを止めた。美しい瞳がぱちくりと一度だけ瞬きをする。


「……」

「オリアナさん? えっと……」 

 “お邪魔”タイプの時間停止チート能力者が乱入した訳じゃなさそうだ。

 僕が上半身を少しだけ起こすと、なにかが唇に触れた。


(なんだろう?)

 疑問符なんか浮かべつつそこに触れてみると、生暖かい何かが指に付着した。赤い液体だ。場所からして鼻血だろう――


「は?」

 口を衝いて出た言葉はそれだけだった。空気が読めないのは僕でした。

 この状況でこんなの(・・・・)ってある? 興奮しすぎて鼻血が出るって漫画の誇張的な表現じゃなかったっけ? ジーザス!


「あの! 気を取り直して――」 

 僕はヒールで出血を止めたけど、神官戦士のお姉さんは口元を手で押さえてくすくすと笑いながら、僕の上から床へと下りた。そして。

 

「お湯を持ってきます」

 微笑みを残してドアへと向かう――その途中、ぴたりと立ち止まって“ふふふ”と笑った。お姉さんの苦笑い。夜の営みで大失敗(・・・)してしまった時に繰り出されるというアレだ。不発とか暴発とか、大失敗にも色々なパターンがあるらしい――それはさておき。


「……」

 彼女が出ていったドアは静かに閉じられ、僕はベッドに取り残されてしまった。あまりの悲惨さに、ちょっと言葉が出てこない――茫然自失の10秒間が過ぎた後、思考がセーフモードで再起動した。

 僕はベッドから飛び降り、窓から空を見上げた。それまでの間にチャージされた感情が口を衝いて迸る――


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 魂からの叫び声。女神が指定した時間はとっくに過ぎてるはずだけど、僕には何の異変も起こってないから合格ってことなんだろう。笑い転げるのに忙しくて制限時間どころじゃないのかも知れないけど――いや、そうに違いない!


「ご満足いただけたってことでいいですかあああああああああああああ!?」

 涙目の叫びに応えるかのように、茜色の一番星がきらりと輝いた。


--

第3章 図書館アローン 完

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25/08/08~25/08/14 まで毎日投稿で、この章は完になります。

よろしくお願いします。

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