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41話『ここは立ち入り禁止ですよ!』

癒希がレベルアップする話の第4回です。

よろしくお願い致します。

 ティアラ神国はその東西をシンシア女王国とガズン共和国に挟まれている。

 そのため、3国間貿易の中心となっており、首都(メリーダ)の倉庫街には大量の荷物が毎日のように運び込まれてくるのだが――その中には流通禁止に指定されている物も紛れ込んでいた。

 ログスが管理している倉庫街は首都全体の物流拠点の1割にも満たないが、融通を利かせて欲しいと願い出る者は多い。が、彼が手を貸しているのは盗賊ギルドの幹部である“怒りの”クエロンだけだった。


『多方面との馴れ合いは災いの火種になる』

 これが普遍的な正解であるかは不明だが、ログスは刺殺や失脚の憂き目にあうことなく20年ほどを過ごしているのだから、不正解ではないだろう。

 大きな権力に睨まれさえしない限り、この安寧は彼が死ぬまで続くはずである――睨まれさえしなければ。


(あんな目に遭わずに済むわけですな)

 ログスは倉庫図書館のことを思い出したようだった。開館したのは3週間ほど前である。

 許可を出したログスは当然、その存在を把握してはいたが、大図書館の理事会で話題になるほど盛況だとは考えていなかった。試みも蔵書も素晴らしいからと、そこを分館として大々的に盛り立てようなどという計画が進んでいるとは思考の欄外にすら存在していなかった。が、もしそんなことになれば人流に大規模な変化が生じ、大通りにどん(・・)と立ち並ぶ数々の店が不利益を被るかもしれない。

 そしてログスの後ろ盾であるクエロンはあの辺りを縄張りとしており、彼への上納金が減ることになる――大きな権力に睨まれた倉庫図書館があんな目に遭った(・・・・・・・・)理由だった。

 あれが無人の倉庫だったなら、警備兵長であるログスにも責任が回ってくる危険があったものの、日織が住んでいたので火災の責任を押し付けることができた。惜しむらくは、焼死させる予定だった彼女が地下に避難して生きていた点であるが――


(あの倉庫に地下室はなかったはず……どういうことですかな?)

 前任の警備兵長が密かに建てたか、建設上の都合なのか、または地下室に異様な執着をもった怪異の仕業なのか――いくつかの理由を考え付いたようだが、クエロンからの高額な報酬。その使い道を考えるのに精いっぱいで、ログスは些細な疑問に思考力を割く余裕はなさそうだった。普段はかったるい倉庫街の警邏(けいら)も、今の足取りは軽い。

 と――隣を歩く若い警備兵が人懐っこい笑みをログスへと向けた。


「ご機嫌すね!?」

「ぬははははは! そうですな!」

 ログスは顎肉を弾ませながらうなずくと、忠実な部下の方に顔だけを向けた。その先にいるのはジャックである。

 警備兵としての彼は正直なところ、がんばりましょう(・・・・・・・・)の部類に入るが、生来の陽気さでログスの部下たちから好かれていた。

 そんなジャックに面倒見良く接することで、部下たちのログスに対する評価も上がるというわけである。理解不能な理由でミスを犯すことがたびたびあるが――総合的に考えればお安い(・・・)買い物と言えた。


「だな、ジャック!?」

「もちろんす――あれ!?」

 何百回と繰り返してきたお決まりのやり取りを中断し、ジャックが驚いたような顔で立ち止まった。彼が指し示す先には、道の端から端に渡って幾重にも張り巡らされた黄色いテープ。立ち入り禁止のサインである。


「聞かされておりませんな!? 誰の権限でこんな真似を!」

 ログスはジャックを伴ってテープをくぐると、革靴を叩きつけるようにどしどしと歩き、それから角を曲がった。その先はこの第4倉庫区画の中心部である。物流の重要拠点であり、クエロンから預かった品々が隠された秘密金庫でもある――そんなところに赤い軍服を着た男たちがわらわらと群がっているのを見た瞬間、ログスの血圧は安寧の域を軽々と飛び越えた。はみ出た(・・・・)部分が絶叫に変わる。


「騎士団ですとおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

『……』

 彼の絶叫になど誰一人耳を貸さず、男たちは黙々と作業を続ける気のようだった。

 倉庫の屋根に上っている者、外壁に水晶玉のようなものを向けている者、そして倉庫から木箱を運び出している者――


「ログスさん! あれって……やばくないすか?」

「そのやばさ(・・・)はお前よりもわかってますぞ!?」

 耳元に近づけられた顔を思い切り押し退けつつ、ログスはこれでもかと歯ぎしりをした。

 血走った視線の先では、木箱がいくつも積み上げられて山となっている。どれも大切な御預かり物(・・・・・)である。倉庫の壁や棚に細工を施して厳重に保管していたはずだが、次々と発見されては積み上げられていく。


騎士団(やつら)が使ってるのは透視の水晶(ペネトレイター)ですかな!?)

 首都とはいえ、術を扱える者はそう多くないため、騎士団では作戦によって術が装填された道具――術具が支給されることがある。それらは非常に高価であり、さらに言うのであれば、使用にも才能と訓練が必要とされていた。つまりは十把一絡(じっぱひとから)げの兵隊さん(・・・・)などではない――


(まさか特務部隊が!? そんなことは……だが……!)

 彼らは遠目に見てもわかるほど屈強で、動きに無駄が欠けらもない。そして狼ですらお座り(・・・)させてしまいそうな鋭い眼光。間違いなく精鋭中の精鋭である。睨みつけられでもしたら、ジャックなど土下座しかねない。そんな彼らが揃いも揃って薄いピンク色の看護帽――見習い看護師の印である――を被っている姿は、もはや悪夢である。が。


「聞かされておりませんぞおおお!?」

「や、やるんすか!? やばくないすか……?」

 ログスはその悪夢と対峙するつもりのようだった。顔を真っ赤にして大きく息を吸い、前傾姿勢で渾身の怒声を――


『ここは立ち入り禁止ですよ!』

「おほおおおおおおおおおおおおお!?」

 張り上げる寸前、いきなり背後から声をかけられて思い切りのけ反ってしまった。

 その勢いで持病の腰痛が激しく痛んだようであるが、彼はなんとか転倒せず踏みとどまると、声の方に全身で振り向いた。そこにいたのは可憐で清楚という言葉がぴったりな少女である。看護師の制服を着ており、頭には薄いピンク色の看護帽。見習い看護師なのだろう。彼女は陽光のごとき微笑みを浮かべた。

不定期更新です。

よろしくお願い致します。

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