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03話「あの……とても忙しい人なので……」☆

割とピンチな癒希の回です。

よろしくお願いいたします。

『……最低』

「うっ!?」

 女の子の声が心に突き刺さりはしたものの、僕はなんとか足を動かし続けた――けど。


『きゅんきゅん♡ お待ちしているですの! ご主人様♡』

「えっ!?」

 ポケットの中からアニメ声が響いたから立ち止まってしまった。

 声の主はポケットの中の小人じゃなくてスマートフォン。ポケットにしまった時にディスプレイが点いてしまったんだろう。

 僕が使ってるこの動画サイトは購入した映画をオフラインで再生できるんだけど、専用アプリを使う必要がある――オフラインでもCMを流すための仕様ってことなんだろう。さすがにヒドい。まさかCMの通信までユーザー負担だったりしないよね!?

 現実逃避気味にそんなことを考えていると、グルツが両手をポケットに突っ込んだまま近寄ってきた。転んで頭でも打ってくれないかなって祈った――けど、荒野も砂漠並みに無慈悲だと証明されただけだった。


「なあ、ニーチャンよぉ」

「……な、なんでしょうか?」

 人殺しが至近距離で睨みつけてきたけど僕の心臓は爆発しなかった。

 騙されたと気づいたらしいグルツは少しお怒りみたいだし、いっそ爆発してくれたほうが良かったかも知れない。


「さっきの奴と話をさせてくれねぇか?」

「あの……とても忙しい人なので……」

「こいつに免じて頼むよ」

 グルツがポケットからゆっくりと抜いた右手には、御者の額に突き刺さっているのと同じ薄刃が指の間に何枚も握られている。おまけに僕の背後はグルツの部下たちに塞がれてしまった。


「ジーザス……」

 自分を映画のキャラだと思ってはいないけど、思わずそう呟いてしまった。

 そして目の前が暗くなった――それは僕が気絶しそうになったのが原因じゃなかった。


『ぎゃああっ!?』

『げあっ!?』

 僕の頭上からとんでもない速さで伸びた銀色の閃きが、世紀末からの使者をまとめてなぎ倒した。10人近くを一瞬で。人間技とは思えない。


「おいおい、マジかよ!?」

 一番いなくなって欲しいグルツは屈んで避けたみたいだ。

 僕は心のなかで舌打ちしながら、鞭を振るった誰かが着地した方に視線を向けた。

挿絵(By みてみん)

 そこには真っ赤な法衣を着た女性が立っている。右手には白銀に光る鞭――装甲馬車に乗っていた護衛の1人なんだろう。年齢は20歳くらいで髪と瞳は白銀色。肌も白い。普段は穏やかなんだろうなって瞳を今は尖らせてグルツを見据えてるけど――見たことがないほどの美人だ。


『オリアナ様!』

 女の子の1人が叫ぶと、他の子たちもヒーローショーで湧く子供さながらの歓声を張り上げた。それだけ強い人なんだろう。これは期待できるかも知れない。

 戦いに巻き込まれて尊い犠牲になりたくないから、僕は大股3歩分だけ下がった。グルツは意外にも何もしてこない――でもこの場にいる全員から死を願われてるオジサンは、両手に何枚もの薄刃を握っていた。


「モテるじゃねえか、ネーチャン。羨ましいぜ!」

 それからおどけた仕草なんかしつつ投擲の構えを取った。

 オリアナさんも攻撃のために腰を落としたけど、顔の左半分から派手に出血してるし、もちろん他にも怪我をしているだろう――ていうか、蹴飛ばされた空き缶みたいに馬車が横転したら全身打撲でも済まないはずだ。

 正直な話、死んだふりでもしてれば良かったのにと思わないでもない。


「死んだふりでもしてりゃよかったのになぁ。オレならそうするけどよぉ?」

「誇りすらないのですか……愚かですね。そして哀れです」

 こんな惨めな気持ちになったのは、能力を選ぶ時間すらくれなかったゲス女神のせいだ。

 それはおいておくとして――グルツは屈強な部下たちが反応すらできなかった攻撃を回避した。コンタクトレンズをたまたま落っことしたってわけでもないだろうし、かなり強いってことになる。

 オリンピック選手顔負けの技を披露してくれたオリアナさんも負けてないはずだけど、大怪我をしているからなんとか立ってる状態だ。多分――いや、絶対にあの人は負ける。なんとかしないと――


「オジサンの誇りは換金しちまったよ。いくらだったと思う? ネーチャンの誇りはいくらで売れるかねぇ?」

「……」

 腐れオジサンの下卑た質問。オリアナさんは口を動かすのも辛いらしく、何も言い返さなかった。

 対するグルツは無傷だから、オリアナさんが倒れるまで口を動かしていればいい。

 そりゃ余裕あるよね――僕はその余裕いっぱいの顔面を、あらん限りの力で殴りつけてやりたくなった。


(……じゃあ、どうする?)

 ホーリー・マスターのヒーラーは隣接したキャラに癒やしの術をかけることができる。つまり、僕はグルツの脇を駆け抜けてオリアナさんに接触しなくちゃならない。論外だ。

 装甲馬車まで走って他の護衛を癒やすって手もあるけど――


「ところでニーチャン、あんま動くと危ないぜ?」

 頭上からの強襲を見事にかわした盗賊頭は素人(ぼく)の気配なんか手に取るように把握しているんだろう。迂闊に動けば殺される――だから考えなくちゃならない。

 これから10秒もしないうちに最後の打ち合いが始まる。オリアナさんを癒せないなら他のことで助けにならないと、みんな揃ってバッドエンドコースに乗ってしまう。

--

挿絵(By みてみん)

神官戦士のお姉さん・オリアナです。

よろしくお願いいたします。

続きはすぐに投稿されます。

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