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27話 「よかった! フレアさんはいつも通りですね!?」

癒希がやり返す回の6話です。

よろしくお願いいたします。

※イラスト提供→Azu様(旧Twitter @liteazu )

 僕がいるのはメリーダの中心的な病院だ。

 昨日来て今日も来るとは思ってなかったけど、病院の静かさは嫌いじゃないから別にいいや。

 そういうわけで、僕は看護師さんの背中を見つめながら呑気に足を動かしている。

 これから診てくれる白いお医者さんはとても厳しい人だから緊張してはいるけど、先日のゴミ騎士大掃除の件で打ち解けることができたから、メスの閃きや恐ろしい叱責(デストロイ・シャウト)を警戒する必要はないはずだ。

 それはそうと、アゾリアさんは規律厳守というか、融通が利かない面がある人だから病院で上手くやっているか心配だ。

 僕がいた世界では、病院内での権力争いによる理不尽な仕打ちがしばしばニュースのトップを飾っていた。

 この病院くらい大規模になると利権構造も複雑だろうし、アゾリアさんみたいなタイプは他の医者たちから睨まれて大変かも――そんなことを心配しつつ診療室のドア前に立つと、案内してくれた看護師さんが僕とオリアナさんの方に全身で振り向いた。たれ目でおっとりした印象の女性だけど――きりっと表情を引き締めて、さらにお腹が膨れるくらい息を吸った。思いっきり吐き出す。


『アゾリア医師がお待ちです! お入りください!』

「あ、どうも……」

 僕が知ってる看護師さんとなんか違う。

 白衣を着た天使。看護師さんがそんな風に例えられるのを聞いたことがあるけど、この人は神の尖兵(ヴァルキリー)って感じだ。

 ふと辺りを見回せば、行き交う医師たちも妙にきびきびと歩いてるし、昨日とは雰囲気がかなり違う。入る病院を間違えたはずはないんだけど、その確信がやじろべえ(・・・・・)みたいに揺れ始めた。

 この怪異じみた状況をなんとか理解しようとしていると、オリアナさんが僕の肩を抱きつつ隣に立った。


「ご苦労でした。下がって構いません」

『はい! 失礼いたします!』

 看護師さんは開いた右手を額に当てた後、ナースシューズのかかとを鳴らしながら、やっぱりきびきびとした動作で去っていった。ちなみにさっき彼女がとったポーズは僕がいた世界で敬礼って呼ばれていて、昨日まではこの世界に存在していなかったものだ。

 多分――いや、このフロアだけでなく、病院全体がこうに違いない。


(つまりアゾリアさんはめちゃくちゃ上手くやってるってことだ。めでたしめでたし)

 僕はこの病院に起きた、怪異すら顔を真っ青にするであろう出来事を理解するのはやめておくことにした。

 それからドアを何回かノックして診療室に入ると、件の白いお医者さんがいた。怪異も逃げ出すアゾリアさん。椅子に腰掛けて優しく微笑んでいる。彼女の隣には、可憐で清楚な見習い看護師――フレアさんが両手をお腹の上に置いて立っている。


「昨日もお会いしましたね。ふふふ」

 可愛過ぎる微笑みは昨日と全く変わっていない。

 僕は思わず彼女に駆け寄って、さらに手まで握ってしまった。


「よかった! フレアさんはいつも通りですね!?」

「はい? まあ……これと言って変化の波にさらされてはいませんけれど……」

「それは本当によかったです! でも変化は怪異みたいに忍び寄ることもありますから気をつけてください」

「え、ええ? 気をつけますね」

 感動すらしつつそう言うと、フレアさんは戸惑いの表情で疑問符を浮かべた。それすらも心が高鳴るほど魅力的だ――この可愛さが失われなくて本当によかった。それはさておき、アゾリアさんがお待ちかねだ。

 僕が軽く会釈してから彼女の正面の椅子に座ると、白いお医者さんは苦笑した。


「医療現場は命を扱う。よって戦場も同じ。白衣を着ている間はああ(・・)であるべきだと考えたまでだ」

「いや……えっと、確かに真剣であるに越したことはありませんね」

 1メートル未満の距離から飛んできた時速160キロメートルの()正論。打ち返しようがありません。

 ただ、僕が恐れてるのはそれじゃなくて、赴任3日で病院全体を掌握したことの方だ。アゾリアさんは人心掌握術のベストセラー作家だったりして――いや、違うから今日もメリーダは平和なんだろう。この人が今後も文筆業とは無縁でありますように。

 そしてお願いだから可憐で清楚なお姫様にまで怪異じみたパワーを発揮しないで欲しい。フレアさんは護衛対象だから大丈夫だと思うけど――


「癒希様、失礼いたします」

「え?」

 そんな事を長々と考えていたら、背後のオリアナさんに法衣とその他をまとめてめくり上げられてしまった。

 お医者さんと看護師さんの視線が僕の薄い胸板と柔らかそうな腹筋に向けられる――フレアさんが困ったように呟いた。


「すごく……その、なんというか、捌きやすそうですね」

「……」

 言いたいことは分かるけど、僕は食材ではありません。

 そもそも包丁を弾く肉体をもってる人なんか――思い当たる人がいるにはいるけど、あの人はタングステンが法衣を着てるような存在だからノーカウントにしておこう。なにかのゲームみたいにタイプ(・・・)が設定されているなら“機械(マシーン)”とか“戦車(タンク)”に違いない。

 それはさておき、アゾリアさんが“小動物(アニマル)”タイプである僕の身体に手を触れた。胸板、脇腹、腹筋――


 ふにっ! むにっ! ふにっ!


「……真剣に聞くが、大丈夫か?」

「はい、ええ、まあ……生きていく分には不自由してない感じです」

「そうではなくてだな?」

 アゾリアさんが言いたいことは分かってる。

 大司祭様にぶっ飛ばされまくる訓練じゃなくて、筋トレとかランニングみたいな基礎トレーニングから始めろってことだろう。これもド正論だ。でも――


(僕は筋肉がつくタイプじゃないから、筋トレとかやっても効果が薄い)

 とにかく実戦経験を積んで反射神経を鍛えたり、体の使い方を覚えた方が強くなれるはずだ。

 握力測定で女子の平均値ぎりぎりを攻めていた本人が言うんだから間違いない。自分で言っててなんだか泣けてきたけど、最善を尽くしてるって自信がある。

不定期更新です。

よろしくお願いいたします。

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