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19話「あの、そろそろ帰っていいですか?」

癒希が気合を見せる回の第8話です。

よろしくお願い致します。

「そ、それは大帝国の王族のみが所持を許される黒宝石ではないかね!? なぜそれを――」

「私がそうだからです!」

「なんだとおぅうううう!?」

 衝撃の事実ってやつが理由みたいだ。

 そしてアゾリアさんは目を見開いて絶句してる――神官見習いがルイ大帝国の王族だとは知らなかったんだろう。僕もどこかのお嬢様なんだろうとしか思ってなかったからびっくりだ。

 フレアさんはお姫様。ゴンザロスたちが襲ってきた理由(・・)は彼女で間違いない。それがわかって良かったと言えるけど――状況は何も変わってない。


『……』

 侍女のみんなは冷や汗を滝のように流してるからそれを分かってるんだろう。分かってないらしいフレアさんは続ける。


「速やかにこの施設から退去なさい!」

 凛々しい声での一喝。ゴンザロスとその部下たちは凍りついたみたいに動かない。

 そして中庭が沈黙に包まれた――直後、ゴミ騎士とその仲間たちは大声で笑い始めた。


「ふははははっ! 分かりませんかね!? 貴女がいると知っていたから来たのですよ!」

「えっ!?」

「私たちは貴女を連れ戻すために来たのです! 我ら精鋭重騎士中隊が暇つぶしに山賊どもの真似をしに来たとでも思ったのですかな? 世間知らずも大概にしませんと馬鹿を見ますぞ!」

「それでは……」

 フレアさんの顔から血の気が一気に引いた。

 からかわれたから――じゃなくて、自分が原因(・・)でカァムさんたちが殺されたんだと思ったんだろう。

 でもそれは間違いだ。女の子を1人連れ戻すだけなら、もっと穏便に遂行する方法がいくらでもある。カァムさんや多くの兵士が亡くなったのは、殺戮を選択したゴンザロスたちのせいに他ならない。だから責任を背負うのもこいつらだ。

 それを全力で手伝ってやる――僕は今まで読んできたマンガの中で、最もキツいキャラクターを思い浮かべた。

 他のキャラが何年もかけて習得したスキルをクッキーでも食べるみたいな手軽さで習得してしまうキャラクターだ。


『こんなの基礎だからできて当たり前ですよね。できないんですか? なんで!?』

 僕はイキがる性格じゃないし、こういう展開はすごく苦手なんだけど、みんなの命が懸かってるんだから謹んで演じさせて頂くことにしよう。

 最後は僕好みの展開にさせてもらうけど――そのためにはゴンザロスが冷静じゃだめだ。

 幸いにも、アゾリアさんとのやり取りでゴンザロスが扱いやすい性格だって判明してる。僕はさりげなくアゾリアさんをフレアさんたちの方に押しのけつつ、軽く手を上げた。


「あの、そろそろ帰っていいですか?」

『……』

 僕が退屈そうに言うと、ゴンザロスはあからさまな不機嫌オーラをまとった。やっぱり扱いやすさ抜群だ。

 掃除機だったらよかったのに――それはともかく、不機嫌な大人、または大人げない大人は全身で僕の方に振り向くと、重鎚をどすんと地面に叩きつけた。


「すまんのだがね! これは帰りの会ではないのだよ。くだらん口を挟むと……」

「土に還るって言うんでしょ?」

「土に還ることに――なんなのかね、君ぃっ!?」

 抜群どころじゃない。ゴンザロスはコードレスの掃除機並に扱いやすい性格だ。

 部下の連中はきっと仕事がしやすいんだろう――職場の雰囲気は良さそうだ。ちょっと見学してみたい。

 それはさておき、恥をかかされたゴンザロスは超重鎧の上からでもわかるくらいに顔を真赤にしてる。でも、まだ足りない。ネットゲームのヒーラー職が絶対にやらないくらいヘイトを稼ぐ必要がある。


「なにって……この法衣を見れば山賊だって僕の職業がわかりますよ。ゴンザロスさんって騎士のくせに知識が乏しいんですね。脳みそが筋肉に置き換わっちゃう病の末期ですか? お大事に」

「ぬううううううううわにか言ったかね!?」

『隊長!? 落ち着いてください!』

『ガキの戯言っすよ!』

 ゴンザロスは重鎚を両手で振り下ろして足元の地面を盛大に粉砕して見せた。

 後ろに飛び退いたから僕はノーダメージだけど、硬い地面にいくつもの深い亀裂が走ってる――まともに喰らったらヒールを使う暇すらなく、ばらばらにされるだろう。即死だ。

 正直な話、すごく怖い――ちょっと挫けそうになった時、目の高さに白い羽根がひらりと舞った。ゴンザロスの一撃で舞い上げられたんだろう。

 いなくなってしまったお兄さん。カァム戦闘隊長。あの人の遺品――僕は羽根飾りをそっと掴んで髪に付けた。

 似合ってるかは分からないけど、今はそこ(・・)にいて下さい。

 僕がしっかり戦えるように――


「病院では静かにしろって言ったんですよ! ゴミ野郎!」

「いいだろおおおおおおおおぉう! (わらべ)の躾は大人の役目! しかと請け負ったがね、君ぃっ!」

 ゴンザロスが重鎚を前方の地面に叩きつけた。その衝撃波が地を這って向かってくる――マンガとかでよく見る技だから別に驚きはしないよ。

 僕は全速力でそれの脇を駆け抜けた――


 ずごんっ!


 その直後、後方でとんでもなく鈍い音が地面を揺らした。

 さっきの衝撃波が炸裂したのだろうけど、分厚いコンクリートの壁が倒れたような音――威力は考えないことにしよう。当たらなければ大丈夫って誰かが言ってた気がするし。

 僕は両足を動かしながら戦杖を両手で構えた。ついでにひと煽り(・・・・)しようかな。


「それ命中(あた)ったことあるんですか?」

「ぬうううっ!」

 ゴンザロスは重鎚を正面に振り下ろしたから、右腕は伸び切っている。重鎚を引き戻すまではなにもできないだろう。

 チャンスだ――そう思った次の瞬間、ゴミ騎士は体を水平に回転させた。


 ぎゅがっ!


 地面を抉りながらの3回転半(トリプルアクセル)。精鋭と付くだけあって鉄塊をまとっていてもそこそこ機敏だ。

 僕は回転の中心――ゴンザロスの頭上で鼻孔を鳴らした。最初から簡単に倒せるとは思ってないし、それに僕よりは遅い。カァムさんより遥かに遅い。

 

 がぁんっ!

 

 ゴンザロスの背後に着地しながら兜を一撃した――けど、ダメージは与えられなかったらしくて、無傷で振り向いてきた。勝ち誇られても嫌だから、ここでも煽っておくことにしよう。


「中身が(から)だといい音しますね!」

(いささ)か高級過ぎるものを決闘の銅鑼(ゴング)代わりにしてくれたものだね、君ィッ!」

 僕が中指だけを立てた左手を向けて言い放つと、ゴンザロスは重鎚を真っ赤に輝かせながら絶叫した。 


不定期更新です。

よろしくお願いいたします。

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