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18話「うっそでしょ!?」

癒希が気合を見せる回の第7話です。

よろしくお願い致します。

「カァム……!」

「うっそでしょ!?」

 地面にひらりと舞った白い羽根飾りは、間違いなくカァムさんのものだ。

 そしてカァムさんと戦ったはずのゴンザロスに負傷した様子はない。

 こいつはどれだけ強いっていうんだろう――僕とアゾリアさんが絶句したから興が乗ったのか、ゴンザロスは重鎚の()を地面に叩きつけた。


「ふははははっ! 戦鳥のカァムも“歩行要塞”たる我の前には雀も同じということよ!」

「……」

 あの人を無傷で倒したなら確かにそう(・・)言えるのかも知れないけど、でも認めたくない。

 カァムさんがこんな奴に倒されたなんて――軋むほど奥歯を噛み締めた時、教会の方からフレアさんたちが10人くらいの黒鎧兵に連行されてきた。

 侍女のみんなは守るようにフレアさんを囲んでいるけど、スカートの中から尖った何かを取り出す気配はない。戦う訓練を受けた彼女たちは相手の強さを感じ取れるんだろう。つまり勝ち目はないってことだ。

 そんなことを考えている間に、フレアさんたちも司令塔の前に座らされた。そしてゴンザロスは両手を胸の前で組むと、鷹揚にうなずいた。


戦人(いくさびと)でない者たちに降伏などさせては騎士の名折れというもの。楽にしてくれ給えよ」

『さっすがゴンザロス様!』

『その優しさがあってこそ騎士ってもんですぜ!』

 大人の世界ではこういうのをよいしょ(・・・・)って呼ぶんだっけ? あからさまなお世辞って嫌味に感じるから、言うのも言われるのも苦手だ。

 教会に就職(・・)した僕だけど、これを強制されるんだとしたらちょっと嫌だ――そんなことより、アゾリアさんがゴンザロスに人差し指をびしっと突きつけた。気概を見せてくれそうだけど、この状況では危ない。いつでも助けに入れるようにしておかないと――


「貴殿らはルイ大帝国の兵に相違ないか?」

「もちろんである! 我が額に輝く双斧の紋章こそ、その証!」

「ならば貴様らの行動は明らかに条約違反だ。即刻の退去を要求する」

 張り詰めた空気の中、僕は“上司に言ってはいけないこと”を扱ったテレビ番組のことを思い出していた。内容はバラエティ寄りだったけど、一番言ってはいけないことは“正論”という結論(オチ)だった。

 自分より地位が上の人に正論で殴りかかる(・・・・・)と、怒ってごまかされるからなんだってさ。

 ブラックジョークみたいだけど、的外れでもないかなって思う。そしてこれは地位だけじゃなくて戦力差にも当てはまるらしい――ゴンザロスが重鎚を振り上げたから!


 ごっ!


「これは失敬! 間違いだったなら謝るが……誇り高き騎士である私を無法者呼ばわりしたのではないかね?」

「貴様……!」

 アゾリアさんは横から押し倒された状態でゴンザロスを睨みつけた。

 僕の顔が胸にめり込んでるのには気づいてないみたいだ――この人もかなりある(・・)。もちろん故意ではありません。

 それはそれとして、ゴンザロスは太くて大きな人差し指をアゾリアさんに向けた。

 

「発言には気をつけてくれ給えよ、君ぃっ!」

『侮辱されても殺さないなんて、さすが!』

『そういうところが尊敬できるんすよ!』

「くっ……!」

 炎の吐息(ファイア・ブレス)でも吐き出しそうな顔でアゾリアさんがゴンザロスを睨みつけた――けど、仮にできたとしてもあの超重鎧には効かないだろう。もちろん正論で殴り倒せる(・・・・・)相手でもない。


(目的が何にしろ、ゴンザロスはこの状況を楽しんでる……)

 圧倒的に有利な状況で弄ぶ。嫌な人間だ。ルイ大帝国の騎士って性格がゴミじゃないとなれないのかもしれない。あっちに叩き込まれなくて良かった。

 それにしても、嫌悪感で相手をぶっ飛ばせる能力にしなかったのが心の底から悔やまれる――


 どすっ!


 ゲス女神の顔を思い浮かべながらアゾリアさんに手を貸した時、ゴンザロスが投げ放った何かが僕たちの足元に突き刺さった。それは見覚えのある剣――カァムさんの剣だ。


(まさか……!)

 ゴンザロスが次に言うことが直感できた。もし正解だったら性格がゴミにもほどがある。

 間違いだったら体を90度曲げて謝ってもいい――けど、ゴミ騎士は僕の身長ほどもある重鎚を構えた。


「貴様らに起きたことが理不尽だと思っているのではないかね? ならば、それを払拭する機会を与えよう。さあ、正々堂々と戦おうではないか!」

「ちょ――!」

 正解のチャイムが16ビートを刻むくらいの大正解。僕は思わず声を引き攣らせてしまった。

 条約違反の上に奇襲まで仕掛けてきて、とどめに戦闘タイプじゃないアゾリアさんに決闘を挑んで正々堂々!? 正真正銘のゴミだ。

 親の顔が見てみたい――この黒い粗大ゴミが人から生まれたとは思えないから製造元(・・・)かな。

 それはともかく、どうしよう。 

 カァムさんや部下を殺された挙げ句に開き直られて、アゾリアさんは怒り心頭に発してる――今にも剣を抜いてしまいそうだ。そうなったらアゾリアさんまで殺されてしまう。

 そもそもこいつらはどうして攻め込んできたんだろう? 少数だから国境をすり抜けられたにしても、他の町やメリーダを占領するなんて不可能だ。

 この医療拠点に立てこもったところで、明日には大軍に囲まれて辞世の句を詠む羽目になるのに――脳のCPUをフル回転させていたら、アゾリアさんが剣に手を伸ばした。


(それはメスじゃありませんよ!)

 ゴンザロスの目的とか探りたいけど、こうなったらもう仕方がない。

 ホリマスのヒーラーは仲間の後ろでお祈り(・・・)する職業じゃないってところを見せる時だ。それと――本当の理不尽がどんなものかをゲス女神の名において教えてやる。

 僕はアゾリアさんの手を掴もうとした――その時。


『いい加減になさい!』

 やたらに響く声が張り上げられて、僕を含めた全員が声の方に振り向いた。

 視線が集中した先にはフレアさんがいる。いつの間にか立ち上がっていて、拳を怒りに震わせていた。

 怒った顔も可愛いけど、なんだか跪いてしまいそうな気品っていうか、貴い威圧感がある――フレア()は首飾りを外すと、それをゴンザロスに向けた。

 ゴミ人間抹殺ビームを期待したけど首飾りはなにも発しない――けど、ゴンザロスはなぜか思いっきり仰け反った。ゴミ人間心停止パルスだったのかな? ゴミ人間内臓消滅ウェーブでもいいけど、おくたばり(・・・・・)になる様子はないから全部はずれなんだろう。

 ゴンザロスはなにか不思議な力でも働いたみたいに、超重鎧をがちゃがちゃと鳴らしながら震えてる――

不定期更新です。

よろしくお願いいたします。

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