15話「下がった方がいいやつです!」
気合を見せる回の第4話です。
よろしくお願い致します。
(これは気になる……ちょっと探ってみようかな)
僕はいくつか質問してみようと彼女に近寄った――その時、戦杖が僅かに振動し始めた。着信音までは鳴らなかったけど、杖装備スキルが発動したんだ!
ぎぃんっ!
それはいきなり襲い掛かってきた。
方向や勢いから考えると木の上から飛び掛かって来たんだろう。なんとか戦杖で防御できたけど、僕は数歩もたたらを踏んでしまった。
そして敵は一瞬で樹上に跳び去った。強さと速さを両立してる――騎兵と弓兵を足したような敵だ。やばい!
「癒希! 今のは……!」
「下がった方がいいやつです!」
僕は左手でフレアさんを強引に下がらせつつ、右手の戦杖を水平に構えた。
襲って来たなにかは、とんでもない速さで木の陰に隠れたらしくて姿を視認できない。
(杖装備スキルが教えてくれなかったら僕は……)
さっきの奇襲で致命傷を負っていたはずだ。
そしていきなりの激痛とひどい出血でヒールを使えたかも怪しい。つまり殺されていた。幸いにもそうはならなかったけど、ピンチっていう状況はまったく変わってない。
ちなみに発売初期からホーリー・マスターは難しすぎるってインターネット上で嘆かれてたんだけど、育成を間違えると敵に歯が立たなくなって進行不能になってしまう。
僕もその経験があって、もちろん最初からやり直してクリアしたけど――現実世界に“New Game”の選択肢はない。殺されたら終わりだ。
(心臓がとんでもない音を立ててる!?)
グルツの時の比じゃないくらいに鼓動が激しい。急用のある誰かがドアを全力でノックしている感じだ。悪いけど僕も用事があるから応対できない。
ざざざざっ!
敵は木から木へと高速で飛び移っている。
やっぱり音は消せていないけど、それが打開策にならないほど速い――
「癒希……あなたは逃げてください」
「それ神官っぽくないから嫌です」
僕は戦杖を両手で構え、さらに全身の筋肉に力を込めた。
頼りない体だけど僕は能力をもってるから、そうでない存在に負かされたら格好がつかない。心の中で強がってみたけど、そもそも敵が誰なのか、またはなにかなのか。それすらも分からない――そんなことを考えてる間に戦杖が振動した。
きんっ!
地面と水平の斬撃。
威力は相変わらずだけど、受け流すことができたから体勢を崩さずに済んだ。僕のスキルレベルが上がったのか――または遊ばれてるのか。残念だけど後者だろう。
『シャアアアッ!』
「うわっ!?」
真横から一転して次は真上。左。右。後ろ。正面――ただでさえ速い攻撃が連続で!? しかも速度はまだ上がっていく。杖装備スキルだけで対応できるレベルじゃない。
「フレアさんは逃げてください!」
「あなたを置いてはいけません!」
オッケーって颯爽と走り出されても困るけど、この場に留まられるともっと困る。
僕はフレアさんを走らせる意図で彼女を思いっきり突き飛ばした――つもりなんだけど。
むにゅっ!
左手はフレアさんの大きな胸に思いっきりめり込んでいた。柔らかいッ!
「きゃあああああっ!」
「すいませんごめんなさいすいません! 事故なんです! いや、そうじゃなくて――!」
なぜかオリアナさんの顔が思い浮かんで、僕は盛大に取り乱してしまった。
慌てて釈明しつつ意識を現実世界に向けると、胸を両手で覆い隠して恨めしそうな表情のフレアさんがいる。戦闘中だってことを忘れてしまうくらい可愛い。でも。
がいんっ!
戦闘中だって現実が変わるはずはなく、戦杖を弾き飛ばされてしまった。そんなに遠くないところに落ちたから、僕は戦杖に全力でダイブした――けど。
ざくっ!
「……」
限界まで伸ばした右手。その先の地面に剣が深々と突き刺さった。さらにその先には2本の足。敵はとんでもなく強い人間だって判明した。
対する僕は杖がなければ戦力としては“民間人”だ――まだ回復チートがあるからただの民間人ってわけでもないけど。
(頭を守りながら飛びかかれば……)
即死さえ防げばスマホゲームでお馴染みのゾンビアタックができる。
痛いのはすごく困るけど、絶対にフレアさんを――覚悟を決めた僕は飛びかかろうと敵を見据えた。
「よお」
「……」
その敵は白い羽飾りをつけていた。
そして人当たりのいい笑顔――カァムさんに双子の兄弟がいるか、ドッペルゲンガーじゃないならどう見ても本人だ。
まさかの裏切りを疑いはしたけどお兄さんは剣を鞘に納めて、おまけにフレアさんにひらひらと手まで振った。それから地面に倒れたままの僕を興味深そうに見つめてきた。
「薬草探しってそんなに疲れるのか。お兄さんが手を貸してやろう」
「……その前に羽飾りを引っこ抜いていいですか?」
僕は半眼でじっとりビームを照射したけど、カァムさんにダメージを与えることはできなかった。
不定期更新です。
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