103話「その悲鳴はR18だから僕に聞かせちゃダメなやつ!」
僕なにかやっちゃいますね! 回です
よろしくお願いします。
『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
「……」
みんなの絶叫はまだ続いているし、収まりそうもない。けど、そろそろ耳が痛くなってきたのでどうにかしよう――と。
ガシガシガシ!
レムナントたちが一斉に洞穴の奥へと駆け込んでいく。
ずっこけた個体もいるから、逃げ出したが正しい表現なんだろう――
『オオオオオオオオオノオオオオレエエエエエエエエ!』
いや、間違いだった。
洞穴からレムナントのものと思しき咆哮。今までのものより重くて腹に響く。
さらにいくつもの大きな気配が急速に近づいて来る――退却して増援を呼ぶ。転進が正解だった。
「なにか来るわよ! みんな、迎撃態勢を!」
『お、おう!』
マイさんのとっても鋭い指示の声。浮き足立ちかけていた冒険者たちが一斉に陣形を整え、僕も前衛で戦杖を構えた。そして重い足音が洞穴から迫ってくる。
ズンズンズン!
なんかノってるような音だ。
それはさておき、新手はさっきまでのレムナントが可愛らしく思える姿だった。
『キイイイイイイイタアアアゾオオオオオオオオオ!』
「なんだ、こいつら!?」
体高は2メートル超え。腕のない胴体は卵型。それを甲殻類みたいな4本の脚が支えている。人型ですらないのに、首から上はやっぱり人間の頭部にそっくりだ。全体的にとてもグロい。
そういう決まりに縛られていますか? それとも僕たちを嫌な気持ちにしたいという執念ですか――僕は警戒しながら、新手のレムナントたちを半眼で見据えた。でも。
「でけぇだけさ!」
「ああ! 所詮はレムナントだ!」
恒例行事だからか、未知の敵を前にしたにも拘わらず、冒険者たちの警戒心が薄い。
僕の心臓がグロさと警戒心でばくばくと鳴っている間に、突出した前衛の数人が新手のレムナント――レヴナントとでも呼ぼう――との距離を無造作に詰め始めた。
「新種なのよ!? 注意して!」
「心配すんなよ、マイ!」
「ビビってんならそこにいな!」
「……」
マイさんの鋭い叱責にも軽口を返す始末。これは良くない流れだ。
自分だけは今日も無事に帰れると思い込んでいるんだろう――それは映画や漫画で言うところの死亡フラグというやつだ。嫌な予感が鉄砲水みたいに僕の心に押し寄せる。そして両者は間合いを測り始めた。
戦闘開始まであと何秒もないだろう――僕は急いで敵を観察した。
『ヴィイイ……!』
ずんぐりとした胴体はぶよぶよとしているから、弾力性に富んでいるに違いない。
そして4本の脚に支えられている姿は戦車や自走砲を連想させる。反復横跳びが得意そうには見えないけど、直進や旋回の速度はそれなりだろう。なにより腕がない――
「口から何かを吐き出すと思います! とにかく気を付けてください!」
『……』
レムナントを倒した僕の言葉だからか、前衛の冒険者たちはレヴナントから少し距離を取り始めた――次の瞬間。
『マアアアアンンマアアアアア!』
「げええええええ!?」
レヴナントたちが一斉に顎をがぱりと開き、悍ましい口腔を覗かせた。それを塗りつぶすように喉の奥から緑色の液体が溢れ出る――
ぶしゅうううううううう!
「あっぶねえええええ!」
「勘弁しろよなあああああ!」
盛大に吐きかけられた不気味な液体。距離があったから、みんなは避けることができたみたいだ。
そして、的を外したその液体は、不気味な音と共に岩の地面を溶解させていく――強酸性らしい。もし誰かが頭から浴びていようものなら、僕の視界にモザイクがかけられていただろう。
正常性バイアス。またはヒヤリ・ハット。
これらの言葉はみんなに通じないだろうけど、少しばかり反省して頂きたい。そんな僕の視線の先では冒険者のみんなが青ざめていた。そしてマイさんが息を思いきり吸い込む――僕は両手で耳を塞いだ。
「だから注意してって言ったでしょ!?」
「悪かったよ!? そんな怒るなって!」
「そりゃ怒るわよ! 慈悲の館暮らしをしたいわけ!?」
マイさんの優しいお怒りは僕が必死に固めたお耳ガードさえ貫通した。それほどの怒声。みんなも盛大に反省したはずだ。ところで慈悲の館ってなんだろう?
「まあいいや!」
「お、おい!?」
僕は叫びながらレヴナントの群れに突っ込んだ。英雄願望ではないし、優しさでもない。
この手の敵はホラーゲームで定番だから対応方法も知っている。つまり一番上手に戦えるのも僕ってことだ。
それにレヴナントを倒せるのも僕だけだから――多少の無理を押してでも単独で戦った方がみんなの被害だって少ないはずだ。
(最悪、自分の傷なら治癒の輝きでこっそり治せばいいし)
大司祭様に奇蹟は禁止と言われたけど、どうしようもない時は使っていいとも言われた。
みんなを無傷で帰すのにこれしかないなら、きっと当てはまるはず――僕はそんなことを考えながら、レヴナントたちの胴体を見据えた。酸を吐き出した直後は少し萎んでいたけど、それから徐々に膨らみ始め、今は最初と同じくらいのぶよぶよ具合だ。つまり酸が来る!
ぶしゅうううううううう!
『ヤアアアアアケエエエエロオオオオオオ!』
「焼き鳥じゃないので!」
一斉に酸が吐きかけられたけど、僕はその前に全力で跳んでいた。緑色の大雨を上から見下ろす――
がん!
落下の威力を乗せた戦杖の振り下ろしがレヴナントの頭部を直撃した。
何かを砕いた感触が両手に伝わってくる。そして。
『ホオオオオオオゲエエエエエエエ……!』
そのレヴナントは塵になって消えた。僕はそれを横目で見届けつつ、次の標的へと向かった。
「おい、また殺したぞ!」
「偶然じゃなかったんだ……!」
『ウウウウワアアアアアアアアアアアア……!』
そしてみんなのどよめきにちょっと照れつつ、再びレヴナントを灰に還す――もちろん回避も忘れない。
僕は近くにいたレヴナントの酸を大きく横に跳んで避けた。地面にできた強酸性の水たまりを1歩分だけ大きく迂回して、反撃の戦杖を振り上げる。
がぎん!
『ヒギイイイイイイイイイイ!?』
「その悲鳴はR18だから15歳に聞かせちゃダメなやつ!」
酸を吐いてから次弾までのクール・タイムは3秒くらい。
撃破するには充分過ぎる――というか、さっきの一撃はクリティカル・ストライクが発動していた。
(なんか気分がノってきた!)
そんな僕とは対照的に、レヴナントたちは混乱気味だ。
一昔前なら気分がサがるとでも言うのかな? まあいいや。と。
「あいつらは酸を吐く前に必ず口を大きく開くわ! それに1回吐くと次まで少し時間がかかる! その隙を突いて!」
「わかったぜ!」
マイさんの的確な指示が炸裂し、みんなは納得したようにうなずいた。
僕も口を開くまでは思いつかなかったからうなずいておこう――本当に頼りになるお姉さんだ。それはさておきマイさんの指示が続く。
「前衛は奴らが散らばりやすいように後退!」
「わかった! おちびさんも下がりな!」
「はい!」
『マアアアアジイイイイイデエエエ!?』
前衛が後退したことで、洞穴周辺に陣取っていたレヴナントたちが一斉に前に進んで来た。彼らの陣地が広がった分だけ、散開している――マイさんの読み通りだ。
「おらよぉ!」
「でりゃああああああ!」
『ウウウウギギギイイイイイイイイイ!』
そしてレヴナントたちはそこそこの旋回性を発揮して酸を吐いてきた。けど、警戒心を取り戻した冒険者は巧みに回避し、反撃によってレヴナントを次々と切り裂いていく。
やっぱりすぐに再生するけど――巻き戻し動画はもう飽きた!
「えい!」
『イイイタミイイイイイイイイイイ!?』
『ゴオオオオオオショウウウウウウウウウウウウウ!?』
僕が戦杖を振り下ろすたびにレヴナントは次々と灰に還っていった。
とどめを刺しやすいようにみんながレヴナントを行動不能にしてくれるから、討伐速度は加速していく。
がん! どが! がぎん!
「見間違いじゃなかったぜ……」
「ああ!」
「癒希だっけか? こいつも頼む!」
「はい!」
レヴナントの数が減れば、僕が酸を回避する頻度も減っていく。
加速度的――とまでは言えないけど、レヴナントはかなりの速さで灰へと返されていった。
そして数分後、広場には僕たち冒険者しか見当たらない――レヴナントは全滅だ。と。
「雑魚掃除ご苦労だったな、ちっこいの! 後は勇者に任せろ!」
「任せるでがす!」
「任せるっすねぇい!」
ガイさんたちが洞穴へと突っ込んでいった。
奈落の奥にすごい宝があるっていう噂を確かめに行ったんだろう――要は独り占めに向かった。
僕はそういうのに興味がないから構わない。けど……!
「あんにゃろ!」
「後ろで突っ立ってただけのクセによぉ!」
「落ち着きなさい! 奥にはさっき逃げて行ったレムナントがいるんだから――!」
マイさんは最大ボリュームで叫んだみたいだけど、分け前を求めてみんなは奥へと突っ込んでしまった。広場には僕とマイさんだけが残されている。
(冒険の先導役がそんな真似をすれば……)
他のみんなもそうなってしまうのは当然だ。
欲に駆られたリーダーが独断専行、規律は崩壊。次の展開はお宝を巡ってのいがみ合いだろう。
そして敵はまだ残っている――死亡フラグのオンパレードだ!
「癒希! みんなを守るのに協力して!」
「はい!」
僕はマイさんと一緒に洞穴の闇へと突っ込んだ。
お疲れさまでした。
毎週日曜日の19時頃更新(の予定)です。
よろしくお願いします。




