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100話「……続きは夢の中で考えよう」

強襲と謎のナゾナゾ回です。

よろしくお願いします。

「はあ……」


 思わずこぼれ落ちた特大のため息。ふかふかな絨毯がそれを受け止めてくれたけど、お礼を言う気力はない。

 変異犬の討伐後、冒険者ギルドで報酬をもらった僕たちはその足で食事をした。その支払いはガイさんがすべてもってくれたんだけど――討伐報酬の半分を彼がもっていったから、はっきり言って損をしている。

 それについて彼曰く。


『勇者の取り分がお前らより多いのは当然だ』


 大抵のゲームでは、装備を整えな(・・・・・・)と新入りに多く配分してくれる展開だ。

 ゲームじゃないからそれが当たり前とは言わないけど、ガイさんの行為は大人の世界で中抜きと呼ばれている悪習に思える。子供の僕は勇者税とでも呼ぼう。さらに曰く。


『お前がほんのちょっとだけ、まあ、無能よりはましだってのはわかったが、信用できるかは別だ』


 これも当たり前と言えば当たり前だ。けど、彼の見下ろすような視線には不信以外のもの――具体的に言えば、僕の強さを見誤ったばつの悪さ――も感じられた。ゲッコさんとユシラさんも同意したから、反論の余地は()の額の半分もなかった。とどめに曰く。


『勇者を妬む奴は多いからな。背中を狙われたこともある』


 それは職業関係なくガイさんだからでは? そもそも声をかけてきたのは誰でしたっけ? それらの言葉は心の日記帳に強めの筆圧で書き込むだけにしておいた。

 そういうわけで僕はみんなとは別の宿にいる。教会が用意してくれたお金でちょっとお高いのを選んだのは心の日記帳だけの秘密だ。それはさておき。


(信用できないにしても、せめて別の階にすればいいのに……)

 部屋どころか、宿単位(・・・)で別にされるのは仲間はずれにされたようで嫌だ――そんなことをぼやきながらの風呂上がり。僕はバスローブだけを着た状態でシャワールームから寝室に戻った。

 とりあえずソファーに座ろうとした――瞬間。


「こんばんは」

「はああああああああ!?」


 クローゼットからマイさん――もちろん服を着ている――が音もなく登場し、僕はバスローブから射出されそうな勢いで仰天した。やっぱり音もなく近づいて来るマイさん。彼女に絶句した表情を向けたまま動けない。そんな僕に優しい微笑みが向けられた。


「わざわざ新しい石鹸を買うなんて、君はとてもきれい好きなのね」

「えっ!?」

「道具は常に新品。いい心がけではあるけど、ちゃんとお財布と相談しなさいね?」

「び、尾行してたんですか!?」

「ええ、そうよ」


 彼女は悲鳴すら上げかけた僕に平然とそう返してからベッドに座った。

 どうしたものかと悩んだけど、僕もとりあえずマイさんの隣に腰を下ろして――気が付いた。


(女性とベッドの縁に並んで座る。おまけに僕はバスローブしか着ていない……)


 深刻にまずい。僕は立ち上がろうと腰を上げたけど、その瞬間、マイさんに肩を押さえられてしまった。行動を予測されているらしい。杖なしじゃ絶対にかなわない。淡い金髪のお姉さんは、僕の肩を抱いたまま続けるおつもり(・・・・)みたいだ。


「……私とガイは幼馴染なのよ」

「そうなんですか?」

「ええ」


 ガズン共和国に住む人々は、変異した動植物に昔から苦しめられてきた。

 だからマイさんは故郷であるこの町を守るため、軍に入隊して斥候兵としての技術を学び、そしてたまたま再会したガイさんが冒険者になっていた。彼の危なっかしい性格をよく知っていたので、退役してパーティーに参加した――ということらしい。


「ガイはそれを勘違いしているけどね」

「なるほど……」


 マイさんは深い嘆息で身の上話を締めくくった。その直後、いきなり僕の顔を見つめてきた。オトナの視線がお子様メンタルに必殺の距離で突き刺さる―― 


「昼間の戦いぶりから死線をくぐり抜けた強さを感じたけど……君は()なの?」

「えっと……!」


 視線と言葉によるダブル(・・・)の圧。僕は思わず言い淀んでしまった。


(話題を急角度(・・・)で変えての質問は、口を割らせる手法のひとつだって聞いたことがある……)


 つまりマイさんは僕に強い疑念をもっているということだ。要は信用されていない。

 斥候である彼女に対して、教会が考えた身分票を音読しようものなら表情や声のトーンから嘘の幕の内弁当(・・・・・)だと見破られかねない。そうなったらこのパーティーにいられないどころか、身の危険――特に両目の――にすら晒されてしまうだろう。


(とにかくなにか言わないと……!)


 言い繕うために思考を全力で働かせても、頭の中は真っ白でなにも思いつかない(・・・・・・)――その時、マイさんはくすくすと笑いながら立ち上がった。


「君はいい子ね」

「え?」

「うふふ」


 彼女はなぜか満足した様子だ。

 理解不能。そんな言葉を思い浮かべている間にマイさんはご機嫌に立ち上がり、窓に向かって歩き始めた。

 困惑の極致にある僕は黙って見ているしかない――数秒後、マイさんは窓の前で立ち止まり、僕に振り向いてきた。優しい口調で続ける。


「冒険者の心得その2。自分の身が最優先。危なくなったらすぐ逃げる。いい?」


 それからお姉さんらしく微笑みながら音もなく窓を開き、ひらりと外に出た。次いで外から窓枠をこんこんとノックする――


「まじで!?」


 それだけで、窓の鍵がかしゃり! とかけられた。仰天の連続でちょっと心が追いつかない。

 戸締まりの天敵であるマイさんは人差し指をぴっと立て、窓ガラス越しに言ってきた。


「鍵を信用しないこと。これが冒険者の心得その3だからね?」

「凄まじい説得力ですね」

「いい教育ってそういうものでしょ? あと、枕の下は財布の典型的な隠し場所だからやめておきなさい」

「そこまで!?」


 僕は天井を突き破ってしまいそうなくらい驚いて――ふと気がついた。


「心得その1はなんですか?」

「わからないの?」

「はい……」

「それは君が本当にいい子って証拠よ」


 マイさんは無邪気に笑いながら夜の闇に身を躍らせ、半分欠けた月に飛び込むように見えなくなった。

 明敏な観察力と技術、そして身のこなしはまさに斥候(スカウト)。戦場で情報を集める専門家(プロ)だ。


すっげー(・・・・)頼りになるとわかったけど……)


 ここに来たのは情報収集――僕が信用できる人間かを見極めるためだったんだろう。

 笑顔で帰ったということは合格ということだ。けど、なにを以て合格としたのかがわからない。冒険者の心得その1がそれなのかもしれないけど――


(さっきだってなにも答えられなかった(・・・・・・・・)のに……なんで?)


 オトナの考えることは子供の僕には理解不能だ。

 気にはなるけど、明日も冒険が待っているんだから考え込んで睡眠時間を削ってしまうのは危険だろう。


「……続きは夢の中で考えよう」


 僕は寝間着(パジャマ)に着替えた後、枕の下に隠しておいた財布をシーツとマットレスの間にしまい込んでから灯りを消した。

お疲れ様でした。

※ちなみに心得その1は……?




仲間から信用されること でした。

癒希は咄嗟に嘘をつけなかった→嘘が苦手→(とりあえずは)信用できる。

毎週日曜日の18時頃更新(の予定)です。

よろしくお願いします。

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