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99話「ええ、多分!」

自称勇者との初冒険。

何も起きないはずがなく……回です。

よろしくお願いします。

 ガイさんのパーティーに加わってすぐ、僕ははじめて(・・・・)の冒険に赴いた。

 パーティーは斥候(スカウト)のマイさん、戦士のゲッコさんとユシラさん。そして。


『オレはガイだ! 勇者の血筋にある勇者だ!』

 重複表現をしてまで強調するなんて、本当に勇者の家系なのかもしれない――マイさんの呆れたような表情がそれを否定しているけど。それはさておき、僕たちは町から離れた森にいる。辺りを警戒しつつ見回すと、木々の形状がどうにも奇抜だ。


(生態系の違い……とは思えないな)

 隣のティアラ神国で目にした木々はS字を描いてはいなかったし、枝が螺旋状でもなかった。

 そのうちの1本に近寄って観察してみたけど、試行錯誤の末の進化というよりは歪められたような印象が強い。または苦痛にのたうち回っているような――と。すぐ後ろにいたマイさんがお姉さん口調で説明してくれた。


「ガズン共和国は魔法の道具(マジック・アイテム)の原料になる鉱物が豊富なの。でも……」

 なにかを通じて多量に摂取すると、動植物に影響を与えてしまうことがあるらしい。

 どこか悲しそうに言い終えた彼女は、それから僕の前方20メートルくらい先を人差し指で示した。


「あの子たちみたいにね」

「……影響に直撃されたって感じですね」

 そこには体毛が剣山のように逆立った犬の群れがいた。舌はだらりと垂れ下がり、牙をがちがちと打ち鳴らしながら、狂気に歪んだ瞳を向けてくる――


(歪められた動物……歪み犬ってところかな?)

 冒険の第1歩目で僕に名付けのスキルはないということが判明した。

 ネーミングライターになる夢をもってなくて良かった――そんなことを考えつつ戦杖を構えると、群れのなかの1頭が襲いかかってきた。


変異獣(フィーンド)なんかに喰われたりしねぇよな?」

「ええ、多分!」

 僕は煽り気味の声を受け流し、標的を見据えた。その闘志に応じるかのように、変異獣の体毛が日差しを反射してぎらりと光る。


(もふもふじゃなさそうだ)

 むしろ硬そうに見えるから、破壊するのは大変そうだ。

 それならこうしよう。僕は長く持った戦杖を変異獣の顎下に突き入れ、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばした。

 変異獣――というか変異犬は宙で体勢を立て直し、着地と同時に飛びかかってくる。その頭部は僕の肩の高さとほとんど同じだ。


 がぎぎんっ!


「狙い通り!」

『ギャヒッ!?』

 戦杖が変異犬の両前脚を横一直線に薙ぎ払った。

 剣山のように逆立った体毛はまさに鉄の強度だったけど、関節を狙ったからまとめてへし折ることができた。


『ギャヒイイ!』

 変異犬は地面でじたばたともがく――でも狂気に歪んだ瞳はまったく変わっていないから、痛みにもがいているわけではないんだろう。

 

(可哀想だけど……)

 仲間と野山を駆け回っていた頃に戻ることができないなら――僕は変異犬の頭部に戦杖を振り下ろした。


 がっ!


『クウゥン……』

 こと切れる寸前、()の瞳は穏やかなものだった。狂気から解放されたんだろう。

 それに微かな救いを求めつつ、群れに向き直って戦杖を構える――背後でマイさんが感心したように呟くのが聞こえた。


「ちゃんと弱点を突いたわね。いい子だわ」

「修練もきっちりつんでるようでがんす!」

「イヒヒ。経験もありそうだし、これはめっけもんてやつっすねぇい」

「けっ……!」

 それに続いたのは打算的な言葉だったけど、誉め言葉ではあったので、まあいいや。締めくくりの舌打ちも聞こえなかったことにしておこう。それはさておき、今度は複数がまとめて襲いかかってきた。3頭だ。


聖なる盾(ライト・シールド)で――おっと!)

 僕はつい奇蹟(チート)を展開しそうになってしまい、慌ててそれをキャンセルした。その間も変異犬たちは迫ってきている。そして鋼のような牙をむき出しにして、喰らいつきの呼び動作に入る――


「……そろそろかしら?」

 マイさんが戦闘態勢に入った気配など感じつつ、僕は懐から短杖を取り出して投げつけた。


『ギャン!?』

 短杖は先頭の変異犬に直撃して速度を削ぎ落し、3頭がほとんど横一列に並んだ。つまりほとんど同じ距離から飛び掛かってくる――


 がががんっ!


「はあああああああああ!」

『ギャヒン!?』

 戦杖を両手持ちにした360度の薙ぎ払い――回転撃とでも名付けよう――が3つの頭蓋骨を一斉かつ強烈に殴りつけ、変異犬たちを跳ね返すように吹き飛ばした。彼らは地面に横たわったままで、起き上がってくる気配もない。


「今の見た!? あの子ったら結構な強さよ」

「めっけもんどころじゃないでがんすね!」

「これで楽できそうっすねぇい!」

「……」

 僕の後ろでガイさん以外のみんなが感嘆の声を上げた。

 褒められて純粋に嬉しいけど、やっぱり締めくくりはガイさん――


「そろそろこの勇者が助けてやるよ!」

「え!?」

 それは舌打ちじゃなかったし、締めくくりでもない不敵な叫び声だった。

 慌てて背後に振り向くと、ガイさんが猛烈な勢いで迫ってくる。顔をザリガニのように真っ赤にして。対抗心が強火で燃え上がっている御様子(・・・)だ。


 どどどどっ!


「うわっ!?」

 僕はタックルそのものの体勢で突っ込んで来た彼を咄嗟に避けた。

 日頃の訓練のおかげで怪我はしなかったけど、ラグビーごっこを始めた覚えはないから冷や汗をかかされてしまった。もちろん自称勇者さんがぺこりと頭を下げるはずはなく、そのまま群れに向かって低く跳んだ。さらに槍で地面を突いて加速する――(はや)い!


「薄汚い犬っころどもがよお!」

『ギャヒン!?』

『ギャン!?』

 そして、その勢いを乗せた薙ぎ払いを変異犬の群れに繰り出し、硬い体毛をものともせずに数頭を胴体から真っ二つに斬り裂いた――その灰色の一閃が彼の背後から助勢に向かっていた僕の鼻先を掠める。


 ひゅんっ!


「うっっっそでしょ!?」

「オレの前に立ってんのが悪いんだよ! 勇者のありがたい攻撃でさっさと死にやがれ!」

 後ろに立ってましたけど――僕は顔を青ざめさせながら飛び退いた。

 鼻は毛細血管が集中している部位だから、深く切られようものなら失血死の危険すらあるっていうのに……。

 そもそも味方の位置を把握せずに長物(ながもの)を振り回すこと自体がありえない。


「おらおらおら!」

「……」

 僕のアウト(・・・)判定の視線の先では、ガイさんが――反省の欠片もなく――灰色の槍を荒っぽく振り回し続けている。威力と速度はかなりのものだけど、やっぱり仲間を気にかけていない。僕の頬が今世紀最大レベルで引きつった。


(ネトゲでは不慮のフレンドリィファイアだって地雷(・・)扱いされかねないっていうのに……)

 おまけにこれは現実だ。なにかあったら取り返しがつかないし、仮にも勇者を自称する人の戦い方とは思えない――勇者というより勇者様(・・・)だ。別名・地雷プレイヤー。目の前のそれ(・・)はリーチが長いから(たち)が悪い。けど、離れた所でポンポン(・・・・)を振ってるだけというわけにもいかないだろう。と。


「あいつの戦い方には慣れが必要だから。君は下がっていて」

「は、はい……!」

 いつの間にかすぐ後ろに立っていたマイさんが下がるように言ってくれた。それから彼女は腰のポーチから投擲ナイフを取り出し、音もなく投げ放つ――


 ざしゅ!


 それは変異犬の眼球に命中した次の瞬間、再びマイさんの手に握られていた。


「瞬間移動……!?」

「ええ。これは魔法の武器(マジック・アイテム)なの」


 ざしゅ! ざしゅ!


 マイさんはそう返しながら、投擲ナイフを次々と変異犬に命中させていく。

 そしてゲッコさんは大きな棍棒を、ユシラさんは拳刃を構えている。どちらの武器も赤い輝きを放っているから魔法の武器なんだろう――彼らもガイさんに続いた。


「どりゃあああでがす!」

「あらよっとっすねぇい!」

「……」

 ガイさんが蹴散らした変異犬たちに次々ととどめが刺されていく。

 それを見て、僕はなんとなくあの3人の関係を察した。


(強いガイさんに引っ付いておこぼれにあずかる……)

 要は取り巻きだ。けど。


(……まあいいや)

 大人の人間関係に子供があれこれ言うものじゃない。僕の偏差値(・・・)もそう判断したみたいだし。

 それはさておき数分後、辺りには変異犬の亡骸が散らばるように転がっていた。かなりの数だ。周囲をうろついていた個体も参戦してきたらしい――


(激戦に近かったんじゃないかな?)

 それを無傷で戦い抜いた連携力はかなりのものだ。

 僕が感心したようにガイさんを見つめると、とても挑発的な笑みが返された。灰色に輝く槍を天に向けて叫んで来る。


「見たか、ちっこいの! これが勇者の力だ!」

「まずはよくがんばったな(・・・・・・・・)、でしょ?」

 マイさんの呆れた表情での指摘。でもガイさんはやれやれと肩を竦めた。さらにマイさんの肩に手を回してにやりと笑う。


「ガキには勿体ない御言葉(・・・)だったろ?」

「ちょっと!」

 その手をびしり! と払いのけ、マイさんが僕の方に早足で歩いてきた。

 それからぽんと頭を撫でてくる――


「よくがんばったわね」

「……もったいないお言葉です」

 僕は頷きながら、ガイさんの様子をやや上目遣いに窺った。

 ただでさえ低い立ち位置なのに、パーティーリーダーに嫉妬されたらやっていけない。けど。


「そう照れるなよ! ははははは!」

「……」

 ガイさんは拒否されたとは欠片も思っておらず、むしろ照れだと判断したらしい。

 そして幸いなことにマイさんは背を向けていたため、彼女の辟易とした表情がガイさんの視界に映ることはなかった。


(……ガイさんの偏差値(・・・)はとっても無口なのかもしれない)

 それとも過信という名の防音壁に阻まれているのか――僕の不安な視線の先で、勇者様は歪んだ森に自信たっぷりの笑声を響かせていた。

お疲れ様でした。

明日(26年1月18日)の18時頃に続きが更新されます。

よろしくお願いします。

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