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98話「いまいちの戦士ですけどよろしくお願いします」

ざまぁ系?的なものを意識した新章の第1話です。

よろしくお願いします。

 200年ほども昔。ミストリガ大陸の南西部はディッシュ鋼国と呼ばれていた。魔法の道具(マジック・アイテム)の材料になる鉱物を巡っての内戦で国とは呼べない状態だったが。

 その激しい内戦は数十年も続いており、国土は死者と飢えと悲しみが溢れかえる――人々がそれにすら慣れかけた時、1人の少年がその国に降り(・・)立った。金色の衣をまとい、右手には神秘の槍を携えて。

 彼は人知を超えた戦闘能力を振るい、たった5年で内戦を終わらせた。が、その生命もまた終わりを迎えかけており、終戦から数日後、多くの人々に見守られながら息を引き取った。


『彼が女神の御許で安らかに眠れますように』

 人々は祈った。そしてすべてを込めて祈る。


『彼がもたらした平和が永遠に続きますように』

 心からの想いは空を濃く淀ませている戦の残煙をものともせず、天まで届いた――が。


『……ふふふふふ♡』

 その穢れない想いを受け取った大いなる存在は、邪悪にほくそ笑んでいた。

 

 それから200年後。つまりは現在――

 ディッシュ鋼国はガズン共和国と呼ばれている。

「……」

 周囲の街並みを圧倒する大きな建物。僕はその足元(・・)から見上げている。

 視界一杯に広がる赤茶色の壁。歴史の重みを感じさせる分厚い煉瓦が、いくつも積み上げられてできている。その真ん中には獰猛なポーズをとった鷲――に似た生き物の彫像がはめ込まれていた。冒険者ギルドのシンボルだ。つまりこの建物は冒険者ギルド。

 僕はその扉の前に立っている。身体にまとった革の防具がやけに重たく感じられるのは、着慣れていないからというだけじゃない。

 不安。僕はそれを振り払うように顔を左右に振り、それから数日前に大司祭様から言われたことを思い出した。


『冒険者として修業してくるのじゃ!』

 おまけに1人だけで。とどめに奇蹟(チート)は禁止。本当にどうしようもない時は使っていいらしいけど、僕の能力の7割くらいを占めている回復系チートを禁止だなんて――


(とんだ縛りプレイ(・・・・・)だ。でも)

 奇蹟(チート)なし。これこそ死と隣り合わせの冒険だ。15歳男子がわくわくしないはずがない。

 そういうわけで僕はガズン共和国の首都――からやや東寄りの町にいて、目の前には冒険者ギルド。心には不安とわくわく。こうなったら次にすることは決まっている。


 ばんっ!


 僕は扉を勢いよく開け放ち、冒険者ギルドに足を踏み入れた。それから警戒するように周囲を見渡すと、酒場風の室内にはいくつものテーブル。それらを埋め尽くしているのは屈強な大人たちだ。


『……』

 小柄で華奢な少年(ぼく)なんか目に入らないらしく、それぞれのすべきこと――武器の確認や分け前の相談、または飲酒――に集中している。少し寂しいけど、からまれる確率も低いだろう。


(……大乱闘スマッシュクエスターズ(・・・・・・)にはならずに済みそうだ)

 ならず者にからまれてからの大立ち回りは冒険者もののラノベで定番だけど、実際に体験したいとは思わない。

 どうしてもと言うのなら、頼りになる仲間を用意してもらわないと困る――そういうわけで僕も彼らに干渉することなく受付カウンターに向かった。そこには僧侶っぽいローブを着た金髪の女性。僕よりは年上だろうけど、幼い顔つきのせいか、年下にさえ見える。それはさておき。


「えっと、これをお願いします」

「はい! 冒険者ギルドにようこそ!」

 僕が身分票――ティアラ神国の教会が発行してくれたもので、名前以外は虚偽――を差し出すと受付の女性は両手で受け取り、煌めくような笑顔になった。それからなにかの書類にペンを走らせ始める――


(この笑顔を見るために依頼を受ける人もいるんだろうな……)

 そんなことを考えながら改めて周囲の冒険者たちを見回すと、さっきと何が変わるはずもなく、誰も僕を気にしていない。世話焼きな光学迷彩(・・・・)が通りかかったわけじゃなくて、まったく関心がないんだろう。


『子供なんか戦力にならない』

 そういう雰囲気だ。でも。


(まずはパーティーに入れてもらわないと……)

 大司祭様からそれを強制されてはいないけど、見知らぬ国の見知らぬ土地で、冒険初心者が単独で依頼に挑むなんて無謀と言わざるを得ない。少なくとも平均レベルの高校入試を乗り越えた僕の偏差値(・・・)はそう提案してきている。そして大正解に違いない。と。


「登録が終わりました! こちらをどうぞ!」

 受付の女性――名札にはアリスと書かれている――が銅でできたメダルを差し出してきた。


「えっと、これは……」

「はい! 冒険者の身分を証明するコインです!」

 要は冒険者の証。依頼をこなすと昇格し、材質が銀や金に変わるらしい。それに伴って依頼の難易度も上昇。報酬と地位も上がっていくみたいだ。

 僕はそれを手に取った――瞬間、体が火照ってきた。


(徐々に身を立てていく……これ系のゲームは大好きだ)

 もちろんゲームと違う点はいくつもあるだろうけど、やっぱり燃える。僕の顔が赤みを増したのか、アリスさんも笑顔に力強さを増した。


 きらり!


「がんばってくださいね!」

「はい!」

 煌めく笑顔。僕も元気一杯に返した。

 それから向かったのは受付から少し離れたところにある掲示板だ。たくさん依頼書が貼られていて、冒険者が何人も集まっている。僕は彼らの端からそっと掲示板を覗き込んだ。


(お使いでも草刈りでも、とにかく依頼をこなして実績を作ろう!)

 まずは簡単な依頼から。この手のゲームの定石だ。

 そして町の中でこなせる依頼なら仲間がいなくてもどうにかなるだろう。

 裏庭に現れた狂暴な巨人(ギガンテス)を退治してくれなんて依頼はないはずだから――その時。


『よお、そこのちっこいの』

「……」

 ちっこいの(・・・・・)が該当するのはこの場において僕しかいない。つまり誰かに声をかけられた。でも、この手の呼びかけは不穏の始まりだ。


(自己紹介をしたら、女性みたいな名前だなとか言われかねない)

 僕はそのくらいで殴りかかったりはしないけど――とにかく大乱闘スマッシュクエスターズに備えながら、全身で声の方に振り向いた。視線の先には青い短髪をつんつん(・・・・)にした男性。灰色に輝く槍を携えていて、年齢は20歳くらい。


(鎧も着てるから戦士かな?)

 彼の2歩隣には同じような年齢の女性がいる。盗賊を連想させる軽装備で、淡い金髪を短めのポニーテールにしている――と。周りの冒険者たちがどよめいた。


『ガイだ……』

『あのガイか……!』

 彼がどのガイにしろ、僕にガイという知り合いはいないから他人なのは間違いない。けど、有名な人らしい。目の前のガイさんはふふん、と得意げに鼻を鳴らした後、文字通り僕を見下ろしながら続けた。


「オレは勇者ガイ。食い詰めたガキが困ってるようだから手を差し伸べてやる」

「……それはどうも」

 言葉も僕を見下ろす(・・・・)ようなものだった。

 この(・・)ガイさんは口から先に生まれたんだろう――これはゲーム序盤で出てくる嫌味なキャラですね。傲慢な感じだし、関わりたくない。でも。


(強い人なんだろうなぁ……)

 人格的にあれでも、強さでは頼りになる大人。悩みどころだ。

 仲間を選べる立場じゃないのはわかっているけど、オレ様ムーブ(・・・・・・)に巻き込まれてヒドい目に遭わされるかもしれない。そうかと言って彼の誘いを袖にして、仲間探しに奔走するのも非効率的だ。と。


「そういう言い方しないの!」

 淡い金髪の女性がガイさんに呆れたような顔を向けた。僕には微笑む。


「私はマイ。君は訳ありなんでしょ? 手伝わせて」

「は、はい。ありがとうございます」

 この人はちゃんとした大人だ。傲慢なタイプと常識的なタイプの組み合わせは、この手のゲームでも定石と言えば定石だ。根拠がゲームなのはちょっとあれだけど、とりあえず安心はできる。


(これならありだ)

 僕も微笑みを返し、それからマイさんに右手を差し出した。頭の中で流れ始めたのは仲間加入時のファンファーレ。


「僕は癒希です。これからよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくね。癒希君」

「はい!」

 マイさんが僕の手を握ってくれた――その時。


 ぐいっ!


「痛い!?」

 ガイさんに右手を思いっきり引き離され、さらに強く握りしめられてしまった。

 握手にしては強すぎる。困ったように見つめると、彼は引きつった笑顔に怒りのマークを貼りつけて言ってきた。


「勇者ガイだ。よ・ろ・し・く・な!」

「……ええ。こちらこそ」

 顔が真っ赤ですけどザリガニの仲間ですか。そんなことを皮肉交じりに考えている間にガイさんは右手の力を増してきた。


 ぎりぎり!


(ていうか手が痛い……)

 握力自慢が彼特有の仲間歓迎の儀式だとしても、僕の右手は軋む様な悲鳴を上げている。

 そろそろ反撃が許される段階かな――左手の戦杖に力なんか込めた時、恰幅のいい男性と細身の男性が近寄ってきた。マイさんが彼らに手のひらを上にした左手を向ける。


「丸い方がゲッコ、長い方がユシラ。どっちも戦士よ。そこそこのね」

「ゆ、癒希です! いまいちの戦士ですけどよろしくお願いします」

 僕はこれ幸いにとガイさんの右手を振り払うと2人に向き直り、握手を求めて右手を差し出した。

 巨漢がゲッコさん。痩身がユシラさん。彼らも手を差し出してきた。ゲッコさんが左手を、ユシラさんは右手を――


「えっと……よろしくお願いします!」

「よろしくでがす!」

「よろしくっすねぇい!」

 僕は左手でゲッコさんと、右手でユシラさんと握手を交わした。左右同時の握手は未経験だったから、少なからず戸惑いを感じる。と。


 ぺしっ!


「じゃ、とっとと行こうぜ」

 ガイさんに後頭部を軽く(はた)かれてしまった。

 僕は壊れかけのDVDプレイヤーじゃないから、(はた)かなくても動きますけど――そんな皮肉はさておき、ガイさんは僕を見下ろしながら続ける。


「てめえのお手並みを拝見ってやつだ。勇者(オレ)のパーティーに無能と腰抜けはいらねぇんだ」

「はあ……」

「ったく!」

 生返事を返すと、ガイさんは鼻を鳴らしてさっさと行ってしまった。ゲッコさんとユシラさんも彼の後にさっさと続く――僕の立ち位置はピラミッドの最下層って感じだ。でも。


 ぽん!


 マイさんは僕の後頭部を優しく撫でつけてくれた。これこそお姉さん。そんな声と仕草で言ってくる。


「君がどれくらい動けるかを知りたいの。無理しないでいいからね」 

「えっと、がんばります」

「いい子ね。さ、行きましょうか」

「は、はい……」

 それから彼女は僕の手を引いて歩き出す――完全無欠に子ども扱いだ。実際のところ子供だから不当な扱いではないけど、生命術士である僕は治癒の輝き(ヒール)を抜いても無能兼腰抜けってわけじゃない。

 僕の戦杖捌きをご覧に入れて差し上げるタイミングかな――そんなことを考えたけど、ただの子供を演じた方がガイさんたちの力量を見定めやすいかもしれない。


(……お手並み拝見といこうかな)

 僕の偏差値(・・・)も反論してこないからそうしよう。心のなかで軽くうなずいた時、マイさんが優しく微笑んできた。


「冒険中って興奮してそわそわしちゃうけど、落ち着いて行動するのよ?」

「ノリの悪さには昔から定評(・・)があるので大丈夫です」

「なら安心ね。さ、みんなに追いつきましょう!」

「はい!」

 僕は遊園地ではしゃぐ姉に連れ回される弟のように冒険者ギルドを後にした。


不定期更新です。

よろしくお願いします。

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