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インスタントきつね

作者: 花宮玄狐

 私は鴨川ミサキ。

 三度の飯よりも、ちょっとかわった食べ物が好き。


 つまり、ちょっとかわった食べ物が三食出てくるのが一番の理想。

 でもそれだと嬉しくて死んじゃうので、まぁ今のままでもそこそこ満足しています。


 そんな私が今日食べようと思っているのはこれ。


 でっでれー。


「インスタントきつね」



 パッケージは明らかに某カップなヌードルが元になっている感じ。

 つまりちょーパチモン感。


 たまらんですわ、これは。



 コンビニのカップ麺コーナーのはじに鎮座していらっしゃったのを走って買ってきた。


 特に走った意味はない。

 軽い食前の運動的な何かだと思ってもらっても構わない。



 まぁ商品名的にも、普通にインスタントきつねうどんなのかもしれん。

 それはそれで一興。普通に美味しければ二興。


 だけどもこのパチモン感あるパッケージはいかにも何かありそうじゃん?

 ちょっと、期待してもいいかな?(イケボ)


 なんでイケメンボイスは一般的なのに、美少女ボイスって言い方は一般化してないんだろうな?



 違う、今はそれどころじゃない。

 とりあえず説明を読もう。


 ちょっとかわった食べ物は好きだけど。

 ちょっとかわった作り方をしたいわけじゃない。


 私は普通に作ってかわってるものが食べたいんだ!


 わかるかな?

 私はメンヘラ女子が好きなんじゃなくて、地雷系ファッションの女の子が好きなの!

 そう言うこと!


 いやそう言うこと?

 なんか、違う気がしてきた。



「まずは、蓋を点線まで開けて、そこにお湯を注ぐ…。」


 そうだった、しまった。

 うっかりしていた。


 インスタント麺なんだから、お湯なんて必須じゃんか。

 なんで用意してなかったんだ私。


 もう!私ったらおバカさん!


 うざ。



 とりあえずお湯を沸かすのです。


 我々は賢いので。

 我々は宇宙人なので。

 なので…。



 とりま、やかんを火にかけまっしょい。

 わっしょいわっしょい。


 やっぱ火を見てるとテンションぶち上がるよね。


 田舎にヤンキーが多いのはきっと焼畑農業が盛んだからなんだ、きっと。



 と言うわけで、沸かしたお湯をカップに注ぎまっしょい。

 いやもうこのテンションはいいよ。


 そして、「出来上がるのを待つ」か。


 昨今火薬とかなんとか面倒なものがカップ麺に付属しがちな世の中ですが。

 こういうのもたまにはいいですよね。わかります。


 なんてシンプル。

 シンプルイズベストオブザベストオブザベスト。


 シンプルイズベストの表現が一番シンプルじゃないことってある?



 あとはワクワクドキドキしながら待つだけか…。

 ワクテカが止まらん。


 いや、一応現役JKの私がテカってるわけないじゃないですかいやだなもう。



 いや、しかし、でもなんか引っかかるな?


 子供に優しいイケメンが出てくる少女漫画の、子供の風船ぐらい引っかかる。

 そしてイケメンによって木の枝から外された風船はイケメンを空高くまで連れて行き、大気圏でイケメンもろとも焼け消える…。


 それにしてもなんだこの引っ掛かりは?

 魚の小骨か?ナナフシか?

 多分そのどっちかだ…。



 いや違った。

 気づいた。


 我々は賢いので…。

 ってそれもうやったか。


 この説明には「〜分待ったら」と言う表記がない。


 書いてあるのは「出来上がるのを待つ」…。


 ただ、それだけだ。



 ニュルン。



 私がカップの側面に書いてある表記とにらめっこしましょあっぷっぷをしていると、突如横に、白い何かが飛び出してきた。


 どうでもいいけど「あっぷっぷ」って何?

 私が知らないだけで、ギャル語でテンション上げてけ的な意味だったりする?


 いや子供あやすギャルとかギャップ萌えかって。



「お呼びですか?」


 しかもその飛び出してきた物体は、こともあろうか私に話しかけてきた。


 流石に麺はしゃべっちゃダメだろ。


 この国で、しゃべったり動いたりが許される食べ物は、たい焼きだけなのをご存知ない?


 確かに何でもかんでも擬人化すりゃいいよ!もう!勝手にして!的な風潮はあるけど。



「あれ?驚いて目を開いたまま気絶しちゃったかな?」


「そんなわけなくない?」


「しゃべったまま気絶してる!?」


「そんなわけなくない?」



 その白い物体は、どうやら麺ではないようだった。


 つまり、麺型最終決戦兵器ラーメンゲリオンでもない。


 なんだそのいかにも腹くだしそうな食べ物は…。



「こんにちは、『インスタントきつね』です。」


 と彼女が言ったから、今日はインスタントきつね記念日。


「なわけあるか!?」


「え!?何が!?」


 おっと、あまりの字余りについキレちまったぜ。

 あまりの字余りってちょっと面白いな。


 ちょっとだけね。



 その物体は、ケモ耳少女の姿をしていた。

 そして名前的に、まぁ多分その耳はキツネの耳なんだろう。


 現状、上半身だけ出てきて、下半身は蓋に突っかかっている。


 いやそもそも、突っかかるとかそう言う話なのか?

 どう考えても、人間が通れるサイズの穴じゃないが?


 というか、何がどうやって私とほぼ同じサイズの生命体が、カップ麺サイズの入れ物に入る?


 お湯入れたら膨らむとか言うレベルじゃねーぞこれ!


 そもそも買った時そんな重くなかったはずだし。


 質量保存の法則どこいったん?

 宇宙旅行?



「で、どうやって食べればいいの?」


「え?食べる気ですか?性的に!?」


「そーじゃねぇだろ。」


「あ、そうなんですね。」


 なんでちょっと残念そうなんだよ。



「よっこいしょういちろうざえもんのみこと。」


 キツネケミ耳の少女は、そう言ってカップ麺から出てきた。

 手をカップ麺のフチにあてがって、わりと力づくで出てきた。

 

「今なんて?」


 当のしょういちくんもびっくりするくらい名前長かったけど大丈夫そう?



「なんというか、あまり驚いてないですね?さては?」


「いや、なんと言うか、驚きよりも驚きがまさって逆に冷静になったよね。」


「あーわかります。」


 いや、私はわからないが?



「で、何用でしょうか?」


「何用って言ったら無用かな。」


「なんでそんなすらっと人の心を抉る言葉が言えますか?」


 そんな英語をAIで翻訳したみたいなつたない疑問文投げかけられても困るんだが…。



 と言うかそもそも「人」なん?


 多分人って、乾燥したら小さくなるとか、水に入れたら大きくなるとかないと思うんだけど。

 もしかして私の方が人間の概念見誤ってたりする?


 「人」という字は片方の人がもう片方を踏み台にしている様子っていう私の解釈間違ってたりする?



「用があったから呼んだんですよね?」


「まぁ、仮に君が食べ物だったら用はあったけどね?」


「性的に!?」


「それはもういい。」


 なんなんだこいつは…。



 と言うか今更だけど、服装もやばいな。


 白いワンピースみたいなの着てるけど、お湯で濡れてるせいでめっちゃ体の線出てるけど?

 なんかすごいグラマラスでムカつくけど?


 …やっぱり食うか。

 腹たつし。


「どうぞどうぞ。私の胸に飛び込んできてくださいな。」


 こいつ…私の心と直接会話しようとしてきやがる…。


 っていうかインスタントに心を読むなよな。



「そりゃもう、『インスタントきつね』ですから。」


「って言うか、そもそもそれってなんなのさ?」


「え!?あの『インスタントきつね』をご存知ない!?あの有名な!?」


 ちょっとイラッと来たけど、ここはグッと我慢の子。


 このままでは話が進まなすぎる。



「説明してもらえるかしらね?」


「あのーめっちゃヒロインがしちゃいけない顔してますけど大丈夫ですか?

 それともそれが素の表情だったりしますか?だったらごめんなさい。」


 するわけねーだろこの野郎。

 誰のせいだと思ってんだバカ野郎。

 この野郎バカ野郎。


「そんなに罵倒されると照れてしまいます…。」


 罵倒のどこに照れる要素があるんだよ。


「まぁいいや。コホン。

 『インスタントきつね』とは、魔法を使ってなんでも願いを一つ叶えられるすてきアイテムなのですえっへん。」


「うざ。」


「ちょっと、心にもないこと言わないでくださいよ!」


 なんで今のが本心だっていう選択肢がないんだ?


 そもそも、心にもないことって普通言われた側が決めることじゃないだろ。



「って言うか魔法って言った?」


「まぁ言ったか言ってないかで言ったら言いましたね。」


「なんで言ってない可能性を忍ばせてくるんだよ。」


 漫才やっとんのと違うぞワレぃ。



「魔法なんてないさ、魔法なんて嘘さ、じゃないの?」


「そんな有名な某童謡のリズムで、じゃないの?と聞かれましても!?

 寝ぼけたひとの勘違いじゃないです。普通にありますよ、魔法。」


「な訳ないじゃん?」


「だってほら、にゃん分クッキングーでも、存在しないはずの完成品が次々と出てくるでしょう?」


「あれは魔法じゃなくてそう言う演出と編集だろ…。」



「ともかく、魔法はあるんですよ!

 呼び出した以上は、ちゃんとお願い事してくださいよ!」


「えぇ〜。」


 なんでお願いされる側がお願い事をお願いしてるんだ…。

 わけがわからん。



「ちょっとなら、エッチなことでも、い・い・で・す・よ?」


「しばいていい?」


「ダメです。」


「なんでもって言ったじゃん!?」


「なんでそんな意外そうなんですか逆に!?」


 そりゃもう、むしろこの状況で、キレない方が無理ってもんだ。


 だって意味わからないし?


 意味わからない上でもやっぱりそのナイスバディは腹たつし!?



「なんかこう、叶えたい夢とか、将来への希望とかないんですか?」


「そんな抽象的なことでも叶えられる感じなの?」


「いえ、叶えられない感じです。

 いってみたかっただけです。」


 こいつ本気でしばいたろうかな…。


 「いってみた」んじゃなく「いってみたかった」っていうのが余計腹立つよな。

 知らんけど。



「何か願ったらあんたは消えるわけ?」


「まぁそうですね。そしてそこにはあんまり美味しくないきつねうどんだけが残ります。」


「あんまり美味しくないのか…。」


「はい、あんまり…。」


 せめてそこは頑張れよ。

 一応カップ麺なんだから…。


 と言うか麺がなくなってると思い込んで、食べそびれたから別の食べ物をってお願いすると、残ったきつねうどんの処理に困ることになりそうだ…。


 なんて卑劣な罠なんだ…。



「それで?何かないですか?

 あいつが1キロ太ってほしいとか。視力が0・1落ちてほしいとか。」


「なんでお願いの可能性が全部マイナス方面なの?」


 そしてなんでそんなに微妙な数値なの?


 まぁ確かに、人によっては一キロ太るって結構嫌だと思うし。

 ちょっと視力が落ちるのも、将来的に考えると普通に困ると思うけども。



「えーうーん。えー…。あ、そうだ。」


 私は思いついた。

 この状況を考える打開策を。


「ちょっと『考える時間が欲しい』わ。」


 これは魔法のランプ系の話でよくあるオチ。

 「ちょっと待って」を願い事と間違えられて、願いが叶わなくなるやつの応用。


 これでこのイラつくキツネ耳の謎生命体ともララバイ…。


「あ、じゃあ五分後くらいにまた来ますね。」


「えー。いや、じゃあいいや。」


「なんなんですか!? まさか冷やかしですか!?帰れこの野郎!」


 帰れこの野郎は、まんまこっちのセリフだ。


 と言うかここは私の家だ。


 しかも、今はいないけど両親と一緒にぬくぬく実家生活なので、本当に帰る家はここしかない。


 帰れこの野郎!

 ぶぶ漬け浴びせるぞこの野郎!


 いや、それは流石にダメだ。

 食べ物を大切にしろって各方面からクレーム来そう。



 ん?

 いや待てよ?



「じゃあさ、帰ってくださいとかダメ?」


「まぁ、ダメではないですが…。」


「じゃあこの世からいなくなってください。」


「なんで突然死刑宣告!?

 そう言うバイオレンスなのはダメです!」


「えー。」


 逆に視力落とすとかはバイオレンスじゃない判定なのか…。

 基準がわからん…。



 とはいえ突破口は見えた。


 まぁこういう話って結局、願いを叶えないのが正解パターンの方が多いもんな。

 ただより怖いもんはないって言うし…。


 いやちょっと待て、そういえばカップ麺代払ったな普通に?


 私はお金払ってまで何やってるんだ今!?


 確かに私が男なら?

 下着透け透けの美女と戯れられるっていうプレイがたった百数十円でできるのは価格崩壊もいいところだが?

 残念ながら私にはそっちの趣味はないので。


「ちっ。」


 だからなんでそんなに百合展開が御所望なんだよ。

 よそいってやれよ。



 とはいえ、そう思うと途端に、普通に返すのが勿体無い気がしてきたぞ?

 だがそうなると、なんかせめてカップ麺代が返ってくるくらいの願い事はしたいな…。


 ついでなら、こいつがなるべく困るような願い事にしたい気持ちはある。


 でもバイオレンスなのはダメなんだろ…どうしようかな。

 やっぱりちょっと時間もらって考えようかな。



「願い事が何も思いつかないなんて、幸せ者ですね!」


「それは頭お花畑のバカって言いたいのか?」


「え!?なんでそうなるんですか!?

 普通に言葉通りの意味ですが…まぁでも言われてみると?」


 言われてみるとってなんだ。

 言われてみるとって。



「なんかもういっそ世界平和とかじゃダメ?」


「うーん。まぁ平和って相対的なものですからね。

 全員にとって平和な社会なんてありはしないんですよ。ふっ。」


 こいつ、ハナからできないような願い事は抽象論でケムに巻く気でいやがる…。


 あと「ふっ」ってなんだカッコつけんな。

 無駄にAPP高いせいで様になってて余計うざいだろうが。


 数分前にカップ麺から出てきたくせに…。



「あーもーじゃあなんだったらいいのさ!?」


「まさかの逆ギレ!?」


 まさかも何も、これは普通に正当ギレだと思うが。


 いや正当ギレってなんだ。



 まぁでも、別段願い事なんてするような程のことは何もないのは事実なんだよな…・

 最近念願だったスライムシチュー激辛も食べたし。


 色以外普通にカレーだったけど。

 カレー味のシチューってもうただのカレーではって思ったけど!



 あーもーなんかめんどくさくなってきたな。



「じゃあもう、あんたが願い叶えたら?

 私が願ったってことにしてあげるから。」


「え!?…え!?

 な、何が目的ですか!?もしかして体ですか!?

 私実はちょろいのでわりともうそろそろいけると思いますよ!?」


「なんで常にそうなるんだ…。」


 と言うか「実は」も何もちょろさ全開だったじゃないかさっきから。



「うーん。でもそう言われてみると、私も特に願いとかないような…。

 私たち、似たもの同士ですね?」


 とすり寄ってくるキツネさん。


 を押し除ける私。


「もう!いけず!」


「いや、別に。願い事がないとかわりと普通では…。」


「もはやがっつり無視ですねー。」


 キツネは遠い目をするが、当然私はそれも無視する。



 普通、いきなり目の前に現れたやつになんでも願い叶えてあげるって言われて信用するはずない。

 しかも相手がカップ麺の容器から出てきたなら尚更だ。


「じゃあ、私も考える時間もらっていいですか?」


「三十秒だったら。」


「イヤイヤだってそうじゃないですか?

 私もあなたも願いはない。でも願いがなければ私は帰れない。

 ならいっそ腹を括って結婚するしかなくないですか?」


 イヤイヤだってもそうじゃないが?


 と言うかそれはもう考える時間とかじゃないじゃん。

 人生の全部じゃん。


 確かに結婚は人生の墓場っていうけれども。



「じゃあもう捨てるわ、カップ麺。」


 ちょっと、いやかなり良心は痛む。


 何せ、悪いのはこのキツネであって、きつねうどんではないのだ。

 それがいくら美味しくなかったとしても…。


 だが、仮にこいつに本体があるとすれば、おそらくそれはこのカップ麺なはずだ。

 魔法のランプだって、ランプを壊せば中の魔人は死ぬか消えるか逃げるかするだろう。


 ならば、こうすればこのキツネも…。



「いや!ちょっと待って!早まっちゃいけませんよ!」


 そしてこの慌てようである。

 どうやら、これが正解のようだ。


 このキツネを困らせることもできるし、最終的に消すこともできる最良の手。



「はぁ、ごめんなさい。」


 育ちのいい私にとって食べられるものを捨てるのは申し訳ないにも程があるが、まぁ仕方あるまい。


 私はカップ麺の汁を流しに、そしてそれ以外を全部燃えるゴミ箱に放り投げた。



「あ…。」



 キツネの絶望した声が背後で聞こえた。


 そして振り返るとそこには…。



 相変わらず無駄にセクシーな格好の嫌味のようにグラマラスなキツネ耳の美少女が立っていた。



「え?なんで消えてないの?残像?」


「いやむしろなんで消えると思ったんですか!?」


「いやいやだって、本体はカップ麺じゃないの?」


「そんなわけないじゃないですか!?

 あれはただの家ですよ!家捨てちゃってどうするつもりですか!?」


「えーいやーごめん。でもほら、拾ったらこの通り?」


 流石に申し訳ない気持ちになりつつも、今し方捨てたばかりのカップ麺を拾い上げる。



「いえ、無理です。

 私たちのカップ麺とのつながりは、概念的なものなので。

 捨てられてしまったらそのつながりは切れます。

 もうそこに帰ることはできません…。」


 おいおい嘘だろ。

 なんだその取ってつけたような設定説明!?


 というかそういうのってありなのか?


 そもそも願い事叶えたら帰るんじゃないのか。

 それで食べられて捨てられた場合はどうなるんだ逆に…。



「なので私、ここに住まわせてもらいますね。」


「え?今なんて?」


「というか、カップ麺の容器へのつながりが切れたせいで、そのつながりがこの家とくっついたみたいです。

 つまり私は今、この家から出られません。

 蓋を開けられ、お湯を注がれるのを待たない限りは…。」


「何言ってんだまじで…。」


 どっかのショートショート小説のオチみたいなこといいやがって…。



 だが、彼女が言った通り、どれだけ無理やり家から出そうとしても、キツネは窓やドアから全身を出すことができなかった。


 何か透明な膜に押し返されるかのように、部屋に戻ってきてしまう。


 だからと言って、家には蓋もない。

 蓋がない時の茶壺のようなものだ。


 これはつまり…。


「結婚ですね!」


「違う。」



 とはいえ、物理的に追い出すことができない以上は仕方ない…。


 この騒がしい新たな住人を、同家族に説明するか、あるいは隠すか、それが問題だ。


 いっそ殺すか…と、そんな物騒なことができるはずもなく。



 やっぱりあの時、素直に帰って貰えばよかったよ、とほほ…。



 ちなみに、このキツネが魔法の力で私の家族を誤魔化し、当然のように家族として生活するようになったのは、また別の話である。


 いや、魔法の力、普通に自分のためにも使えんのかよ!

〜偽・次回予告〜

きつね:「いやぁ、というわけで私とミサキさんはめでたく結婚したわけなんですが。」


ミサキ:「まだ言ってんのそれ…というか早く出てってくれない?」


きつね:「まさか、夫婦別姓ならぬ、夫婦別居を御所望ですか!?

 あれですか?会えない時間ほど愛を感じる的な!?」


ミサキ:「いや、そういうんじゃなくて普通にウザいから。」


きつね:「まさか、そういうプレイなんですか!?

 意外にハードなのがお好みなんですね!とはいえ他ならぬミサキさんの頼みなら、私、頑張っちゃいますよ!」


ミサキ:「…。もう突っ込む気もしないわ…。

 ん?というか、むしろ私が実家を出れば、こいつはここから出られないし、完璧なのでは!?」


きつね:「なっ!?そんな!?そんなことが許されると思ってるんですか!

 そもそも私はミサキさんのせいでここに封じ込められちゃったんですよ!?」


ミサキ:「うっ。自分に都合のいい時だけ正しい過去を思い出しやがって…。」


きつね:「というわけで次回は!」


ミサキ:「どういうわけだよ…。」


きつね:「もう、わかってないですねミサキさんは…。

 こういう収集つかない時はノリと勢いで無理やり話を戻してなんとかするんですよ!」


ミサキ:「それ言っちゃったら、意味なくない?」


きつね:「はっ!?…ってどうしてくれるんですかこの空気!

 もういいや!というわけで、次回は『第二話:早くもライバル登場!?インスタントたぬき』をお送りします。」


ミサキ:「ほんとにノリと勢いだけだな…。」


きつね:「次回に続け!」




 この話が面白いと思っていただけた方は、評価のほど、よろしくお願いします。

 初めから最後までノリと勢いだけの話でしたが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。

 ではまた、どこかでお会いしましょう。

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