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第8話  『始祖の勇者伝説』(1)

「……やっぱりソウマの言うとおりだ。伝説には酷い改ざんがなされてるらしい」

「改ざん!? 始祖の勇者は、三日間の激闘末に魔獣を九割打ち倒したんじゃないの!?」


 私は思わず身を乗り出して叫んでしまう。


「大間違いさ、始祖の勇者は魔獣に敗北している。大体、数が大きく減らされているなら壁を建てる理由なんか無いだろう? 検閲局もさすがにこの事実との整合性は取れなかったか」

「そ、そんな」

「スイ、僕はこれから君の理想を粉々に砕く話をする。けどこれは、ユウキ・ソウマという男と接していくうえで知っていなくてはならない事実だ。聞く準備はいい?」

「……ちょっと怖いけど、いつでもいいよ」

「わかった」


 リュウは眼鏡を掛け、ページに目線を落として静かに読み始めた。


 今から遙か昔、魔力を持たない「真人間」と魔力を持ついくつかの少数民族達は一つの大陸で共存していた。特に争いや仲違いなども起こすこと無く、平和な時間が流れていた。ある事件が起きるまでは。その事件こそが、魔王の出現だ。


 僅か数週間で世界の半分を平らげた魔王が、あと数日後にはこの都市に到着する。生き残るためには、魔王及び魔王が引き連れる魔獣の群れを殲滅する必要があったのだ。


 真人間には魔獣に対抗する力が無いので、少数民族達に撃退を依頼する。それを受け、少数民族に位置するそれぞれの種族は、自分たちの中から最も強い戦士を勇者として選び出す。こうして集まった六人が、後世において始祖の勇者達と呼ばれる団体を形成した。


 彼等は血の滲むような特訓を重ね、遂にその日を迎えた。その日、多くの希望を一身に受けた彼等は魔獣に襲われている都市を助けるために出陣する。


 そこで彼等は見た物は、地獄そのものだった。既に多くの人間が魔獣によって食われた後であり、彼等は生存者を見つけることが出来なかったのだ。激昂した彼等は魔獣の殺戮を開始。確かに一度は九割近くの魔獣を殺していた。


 しかし、魔獣は始祖に斬られた事で学習し、再生能力を獲得したのだ。みじん切りにしたはずの魔獣がその場で再生する光景を見て、始祖達は戦意を喪失してしまう。


 ただ、始祖達にもプライドがあった。タダでは負ける物かと、その命を以て始祖は自分たちの中から一人の男を逃がした。その男こそが現世界王の「シルヴァ・クラウノス」。街に帰った彼は、一人の協力者と共に王権を手に入れて魔獣の侵攻を食い止める事に成功する。


 ――始祖の意志を継ぎ、彼は世界を守った。しかし彼の胸の中には未だに、仲間達を救えなかった事への大きな後悔が残っている。


 リュウの語りはここで終了する。話を聞き終えた私は、動揺を隠せずにいる。


「……は?」

「今朗読したこの本はソウマが書いた物。彼は世界王に検閲無くこの本を出版しろと迫ったみたいだけど、さすがに却下されたみたいだね」

「なんで、そんな事」

「考えてもみてよ。壁の向こう側に史上最強を五人も食った獣の群れが居る、なんてバカ正直に伝えたら民衆まともに生きていられないでしょ? でも始祖のお陰で今の世界がある、と言うこと誰にもを忘れて欲しくない。だから王様は、伝説の中身を民衆にとって毒にならないように改ざんして流布した。そんな苦労も今となっちゃ水の泡だけどね」

「そう、だったんだ」

「ここで話は終わり、って言いたいんだけど――」


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