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第5話 ディスリスペクト

「演じるって……貴女、何者?」


 その質問に対してリュウは一瞬答えるのをためらう。ちょっと時間を置いた後、彼女は真剣なまなざしで私の目を見て言う。


「ねぇ、破龍族って知ってる?」

「知ってるよ。三百年前まで最東端の街で暮らしていた少数民族だよね。でも、そこに魔王が降臨してから行方知れずになってたような。それがどうかした?」

「僕はね、その破龍族の生き残りなんだよ」

「……なんだって?」


 この世界では稀に魔力を持つ少数民族が生まれることがあり、かくいう私も彗星族という少数民族の生まれだ。今やその民族も私一人になってしまったけれど。


 その破龍族が暮らしていたという最東端の街は、現在私達がいる地域の真反対に位置する。故に一族に関する情報が少なく、ただそこに居たという情報のみが伝わっている。そんな民族の生き残りが目の前に居るんだ、そりゃあ強く好奇心も抱くだろう。


「これでも僕は五百年生きてるんだぜ? 一族からすりゃまだまだガキも良いところだが、君らに比べれば立派な大人だ」

「……ところでさ。信用できないってわけじゃないんだけど、証拠ってある?」

「うーん証拠かあ。一つ代表的なのは、魔法を使う時に出てくるこの模様かな」


 リュウの右手が赤く光る。すると、リュウの顔の右半分が赤い線が電子回路のような模様を描くように数本出現し、それに対応するように右目が青くなる。


「これ顔全体がが熱くなって結構痛いからあまり長くやりたくないんだよね……」

「そうなの? ごめんね、そんなことやらせちゃって」


 リュウが右手を下げると、いつも通りの顔に戻る。鍋を洗い終えて帰ってきたソウマさんは、振り返るリュウの顔に少し赤みが残っているのを見て眉をひそめた。


「あの紋様、見せたのか。俺がどれだけ見せてって言っても見せてくれなかったクセに」

「どれだけと言っても三回くらいでしょ? 気が向いてたらいつでも見せるつもりだったよ」

「言ったな? あとで発言を取り消すのはナシだぜ。それはそうとスイ、お前もしかして彗星族か?」

「!」

「やはりそうか。髪はともかく瞳まで青色というのは、彗星族以外ありえないからな」

「……え? 貴方にはこの髪と目が青く見えるんですか?」

「ちょっと紺色に近い気がするが、まあ紺も青色の一種だろ。それよりもだ」


 ソウマさんはリュウを手招きで呼び寄せ、小声で会話し始めた。聞き耳を立ててみると、私をここへ連れてきた理由を聞いているのが分かった。それからソウマさんは、夕食の時に座った丸太の上にもう一度座るように促す。


「お前、始祖の勇者伝説の信奉者だってな」

「ええ。あなた方の他に勇者は存在しないと思っています」

「珍しい事もあったもんだ、殆どの現代人は伝説の中身を読んでいないというのに」

「え?」

「本当だ。民間人は勇者という概念を作ったって理由で俺達始祖を恨み、自称勇者共は俺らの栄光を利用して儲けている。お前にとって今の世は地獄そのものだろうな」


 開いた口が塞がらない。この世界に生きる者は全員あの伝説を理解し、始祖に対し永遠の崇拝を行うのが当然だと思っていた。


「……納得です。知っていたらあんなこと出来るわけないですもんね。街に火をつけ、さらに無抵抗人々を斬りつけ財を奪うなんて事」

「知っていようがそうするに決まってる。始祖は世界を守った、ならその後継者を名乗ってもっと多くの金を集めようって思うだろうな」

「決まってるって! ソウマさんはこの現状をどうにかして変えようと思う気持ちは無いんですか!? あなた方が作った名誉が、悪党どもに利用されているんですよ!?」


 思わず立ち上がって彼に吠えてしまう。彼に言ってどうにかなる話じゃないのは分かっているが、彼の消極的な態度に対し口に出さずにはいられなかった。


「どうにかしたいという気持ちはある。だが、俺が直接手を下すわけには行かない。俺が殺人者になって始祖の名に泥を塗りたくないからな」

「……まあ、わかりますよ」

「だから俺は、今日まで俺達の理想に適う勇者候補を探していた。俺の代わりにあの不届き者共に手を下し、次世代の勇者となってくれる人間をな。そして、その候補は無事見つかった」

「へぇ、それは誰なんです?」

「いや誰も何も――」


 ソウマさんは私を指さす。

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