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第16話 勇者スイ、再起動

 ご存じの通り、当時の私は町を挙げた壮絶ないじめを受けていた。。しかしある時期から、そのいじめの矛先が両親にも向くんじゃないかという恐れを抱くようになっていた。


 私が虐められるのは構わない。しかし両親に手を出されるのは本当に嫌だった。だから、なんとかして二人を助ける方法を日々模索していた。


 そして私がたどり着いた答えは、二人が私との縁を切ることだった。その後どう生きていこうなんて、二人を救った後で考えれば良い事だ。決行は三日後に迎える誕生日パーティー当日。そこに向けて、私はどんな言葉が二人の地雷なのかを必死に考えた。


 そして迎えたパーティ当日、テーブルいっぱいのごちそうを頬張る二人に対し、私は注目を呼びかけこう言い放つ。


「私、勇者になりたい」


 二人は食器を地面に落とし、目の色を変えた。不服ながら、コレが二人を激昂させるのに最も最適な言葉なのだ。勇者は絶対的な悪だ、そうなりたい娘なんて捨てるしか無い。そう思って二人は縁を切ってくれると、そう思ったのだ。


 しかしそうはならなかった。二人は怒るどころか、むしろニッコリ笑顔を浮かべていた。困惑する私の目の前に、父は一冊の本を置く。


「もしかして、この本を読んだのかい?」


 私は素直に読んだと答える。すると二人はさらに大喜びし、あまつさえ私のその夢を全力で応援するとまで言い出した。その時両親が持ってきた本こそ「始祖の勇者伝説」で、伝説の熱心な信者である二人はこの本をプレゼントとして私に渡すつもりだったらしい。


 その晩、私は両親に隠れてこっそりこの本を読んでみることにした。すると、作中で大活躍する勇者達にたちまち魅了されてしまう。読めば読むほど登場人物の人格に惚れていき、いつか彼らのような偉大な勇者になることを夢に見るようになった。


 それから私は通う予定だった小学校をキャンセルし、父親からは馬術や剣術をはじめとした様々な実技を、母からは魔法や一般常識などの座学を教わった。


 二人から受け継いだ知識は、リュウやソウマさんが私の可能性を見いだす今に繋がった。その事に気づいた私は、両親への多大な感謝を思い出す。


(そうだ、私は両親へ恩を返すためにも勇者にならなきゃならない。そのためにあの剣を握る必要があるなら、気持ち悪くても振るってやる)


 私自身が新たな伝説の勇者になる事こそが両親への最大の親孝行になる。それに気づいた瞬間、とうに枯れ果てていたはずの活力が再び身体の底から湧き出てくる。


 でも、既に鍛冶屋が作った剣は使いたくない。だって私をいじめてた人が作った剣だし、その剣で歴史を刻みたくない。願わくば、二人の遺灰が剣になればと――


(――そんなこと考えている場合じゃ無い! 早く壊して肉体から魂を切り離さないと!)


 急いで地面に落ちていたハンマーを拾い上げ、粉々に砕く。それから私は、ドレッサーの上にあった麻袋に宝石の破片を詰める。全て詰め終え袋を肩に担いだ私は、ある事に気づく。


(この袋の重さ、恐らくあの青い剣と同じだ。もしかして、本当に剣に出来るのか?)


 叶わぬ夢だと思っていた、両親の遺灰を使った青い剣の制作。それが叶いそうだと気づくと、嬉しさに消耗した体力はすっかり元通りに回復する。


 私はそのまま街を出て、みんながいる藍の墓場へ向かった。

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