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第15話 燃え尽きた過去、その供養

「……気づいてないなら教えてあげますよ。貴方がいま持っているその鉱石はね、私達彗星族の死体なんです」

「なんだって!?」


 私たち彗星族は死後、その体は三日間かけて青い宝石に変わっていく。そしてこの村にはその宝石塊を親しい人々が壊し、この藍の墓場に撒くという習わしがある。


 墓場の光源は宝石の破片であり、すなわち彗星族の死肉なのだ。だから私はこの光に良い印象を抱いていない。既に道中で私の精神はかなり追い詰められているのに、あの光を見て、さらに目の前に死肉の塊を出されたら――そりゃあ、心も壊れるでしょう。


「そうかその青い髪……なんてこった、まさか生き残りがいたなんて。そしてそれが、ソウマが連れてきた勇者候補だったなんて」


 ギドは額に手を当て、溜息をつく。その表情には後悔が滲んでいたが、今更そんな顔を見せたところでもう遅い。


 私は彼等に背を向け、頼りない足取りで歩き出す。自我は遙か遠くにあり、瞬きもせず大きく開いたままになっている目からは絶えず涙がこぼれている。


「スイ待って――」

「追うなリュウ。好きにさせてやれ」

「……そんな」


 そんな会話が聞こえた気がしたが、気にする余裕はとうに失せていた。こうしてしばらく歩き続け、気がつくと私は流星街跡に着いていた。それに気づいた瞬間、かつての平和な町と燃えている町の光景が交互にフラッシュバックしてしまう。


「!!」


 思わず尻餅をつく。恐怖のあまり息が荒くなり、手足が細かく震え出す。ギュッと目を堅く閉じて精神的苦痛に耐えながら、己のトラウマの重大さに気づかされる。


(思い返せば、そういうのは何度もあった。街の焼け跡や都市でのボヤ騒ぎ……そういう火絡みの事故を見ると、トラウマで足が竦むんだ。勇者になるならそんな情けない姿は見せられない、しっかりこの景色と向き合って、トラウマを解消していかないと)


 胸を強く抑えたままゆっくりと立ち上がり、再び歩き出す。いまだに息は荒く、全身は汗だくだ。それでも私は一歩一歩強く足を踏みしめ、恐怖の波をかき分けて前へ進んで行く。


 しばらく歩いていると、見覚えのある形の焼け跡を発見する。炭化していてもはっきりと分かる。ここは私の家だ。


(家全体が炭化してる、恐らく父さんも母さんも死んでるだろう。恐らく宝石塊になったまま今も成仏出来ず苦しんでいる……なら、私が助けてあげないと)


 覚悟を決め、扉を蹴破って中に入る。家中が煤で真っ黒に汚れており、地面のそこかしこに炭の塊が転がっている。


 それらは拾い上げるとすぐに粉々になってしまい、まるで幼少期の思い出を自分で破壊しているような罪悪感を覚える。以降、私はその塊を避けながら歩くようになった。


 二階に上がると、ベッドの上で抱きしめ合う二つの人型の宝石塊が見つかる。二つともお互いの背中に手をめり込ませており、めり込んだ箇所からヒビが入っていた。


(体を焼かれる痛みを、相手を強く抱きしめて耐えていたんだ。そんな辛い思いをしていたのに、どうしてもっと早く楽にしてあげられなかったんだろう)


 思わずその塊をぎゅっと抱きしめる。暖かさはなく、触っているこっちも凍ってしまいそうなほど冷たくなっている。


 塊を抱いたまま目を閉じると、いろんな記憶が蘇ってくる。私にとって唯一の味方だった両親との思い出は、どれも素敵で尊い物だった。その中でも特に印象に残った思い出が、勇者になりたいと両親に打ち明けた日の事だ。


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