破る為にあるのか否か3
「ちょっと、あんたたち! 新入りの小田切がレギュラーメンバーに選ばれたからっていじめるってどういうことなの?」
小田切と並んで集まった部員たちを前にして、コートに唾を飛ばしながら永巣尾根が竹内と補欠選手達に言う。
「だって、ミサトが小田切さんがレギュラーに選ばれたのは代理人委員で羅絵について来たからだって、そのせいでうちらがレギュラーに入るチャンスが無くなったんだって……ちょっといじめてやれば小田切さんなんて直ぐにやめちゃうからって、そうしたらレギュラーに入れるからってぇ……ううっ……」
補欠選手たちは涙を流す。
「バカじゃないの! 小田切さんがレギュラーに選ばれたのは彼女の実力でしょう! 小田切さんに謝んなさいよ!」
永巣尾根が折られた小田切のチョップスティックを補欠選手達達に突きつけた。
それを見たレギュラー選手達から「最低」と声が上がる。
場は非常に凍り付いている。
寒いくらいだ。
永巣尾根は竹内を睨み付ける。
「ミサト、どうしてよ! 全国大会を目の前にして、どうしていじめなんてするのよ! あんたらしくないじゃない!」
永巣尾根がそう言うと竹内は苛立ちを隠さずに言った。
「うるさい! 偽物に私の何がわかるのよ!」
そう言うと竹内が勢いよく永巣尾根を突き飛ばした。
永巣尾根は後ろにつんのめる。
部員達の悲鳴が上がる。
とっさに手をついた永巣尾根のその手は嫌な方向に曲がっていた。
竹内と永巣尾根以外の全員から壊れたギターの様な悲鳴が上がる。
竹内は、冷や汗をかきながら、はぁっ、はぁっ、と激しい呼吸を繰り返した。
「おまえなんて羅絵じゃない! おまえなんて……」
興奮した様子の竹内に永巣尾根は痛みで歪んだ顔をしながら竹内に握りしめた手を差し出し、言った。
「み、ミサト、それ以上は言わないのが身のためよ。これ以上私の邪魔をしたら、あんた……あんた……ルール違反で……そうしたら」
ああ、遠くから救急車のサイレンの音がする。
「全国大会優勝おめでとう、小田切」
小田切はどういたしましてと肩をすくめた。
国広は、女子チョップスティックテニス部全国大会優勝と書かれた垂れ幕と部員達の写った写真を見ている。
写真の真ん中には笑顔のレギュラー選手達。
竹内に副キャプテンに小田切に……。
永巣尾根は包帯を巻いた手で器用にピースをして写真の端に写っていた。
「蒲郡委員長はどうやって竹内さんをおとなしくさせた?」
「これを渡して見せた」
国広は小田切からくしゃくしゃの紙きれを受け取る。
ミサトへ
もし、私が死んだら私の代わりはあんた。
レギュラーになれ!
私がついてる!
大丈夫だから!
あんた用に練習メニュー作った。
私の代理人が行く。
一緒に頑張ろう。
ミサト、私はあんたと
文字はここで途切れている。
「なあ、小田切、チョップスティックテニスってどんなスポーツかな」
国広の声がかすれて聞こえた。