破る為にあるのか否か2
「そうか。無理なら仕方ないな」と影山は肩をすくめる。
「僕がやりましょうか」
すっと手を上げた国広の志願に残念そうな顔をする影山。
国広は女子じゃない。
女子部員の代理人は国広には無理だ。
「無理だろ」と影山は柔らかく国広を諭す。
国広は不満そうであったが異論は唱えなかった。
「なんか、皆、無理みたいだね。永巣尾根には申し訳ないけどこの依頼は無しかなぁ」
いかにも残念、と言う風に影山は言う。
「先生、わたくしがやります」
その声の主に注目が集まる。
声の主は蒲郡だ。
「がっ、蒲郡委員長が?」
「蒲郡委員長に依頼をお任せするなんて、そんな、私達の面目が……」
「おだまり! 先生、不甲斐ない委員達に代わり、この蒲郡華枝薇、代理人委員委員長として、永巣尾根羅絵さんの代理人を引き受けますわ!」
そう言うと蒲郡は立ち上がり言った。
「女子チョップスティックテニス部のエースの代理人が我が代理人委員会のエース、蒲郡か。いいねぇ。よし。それでいこう。皆、いいね?」
面白そうに語る影山。
皆は黙って頷いた。
影山が口角を思い切り上げて頷く。
「先生、永巣尾根羅絵の手紙やら何やらも見せて下さい。あと、チョップスティックテニス経験者の小田切を補佐役に欲しいわ。小田切がついてくれたら助かるんですけど」
蒲郡がキラキラした目で影山に言う。
「許可する」
「え」
小田切は絶句する。
「面白い事になりそうだな」
そう言って国広が小田切の肩をポンッと叩いた。
次の日。
黒色のネームプレートを付けた永巣尾根と小田切は女子チョップスティックテニス部で汗を流していた。
永巣尾根はプレイするのが初めてとは思えないほど華麗にチョップスティックを振っている。
蝶の様に舞う永巣尾根のプレイを見ながら部員達は涙を浮かべている。
「ああ、羅絵そのものだよ。あのプレイがまた見られるなんて。信じられない」
「馬鹿! あれは羅絵だよ」
「そうだったね」
「ちょっと、あんたたち! 何をボヤっとしてんの! 練習! 練習! 全国大会まであと十日しかないんだよ!」
永巣尾根が動きを止めて自分を見ている部員達にそう言うと、部員達の顔が明るくなった。
「ほら、皆! 気合入れて!」
永巣尾根は部員達にガッツポーズをして見せる。
「はいっ! キャプテン!」
部員達が練習に戻る。
部員達の顔は生き生きとしている。
小田切は球拾いをしながら永巣尾根と部員達のその様子を見ていた。
「流石、蒲郡委員長だわ」
小田切は感嘆の声を漏らす。
「ふん、羅絵の代理人なんて下らないわ」
「え?」
小田切が声のする方を振り返ると永巣尾根の親友で部の補欠選手、竹内ミサトがいた。
竹内は冷たい目で小田切を見返すとコートから去ろうとする。
「ミサト! どこ行くの! まだ練習終わってないよ!」
永巣尾根が竹内に向かって叫ぶ。
「気安く呼ばないでよ」
竹内がそう呟く声は小田切にだけ聞こえた。
数日後。
女子チョップスティックテニス部には問題が起こっていた。
いじめだ。
いじめられているのは小田切だった。
いじめているのは補欠選手達。
いじめのリーダーは竹内ミサトだった。
今日は永巣尾根が部員達を集めて話し合いの場を用意していた。