破る為にあるのか否か1
この学校には代理人委員会というものが存在する。
その名の通り、生徒の代理人を委員が勤める委員会である。
この代理人委員会について、校則にはこのようにある。
本校生徒は代理人委員会に代理人を依頼することが出来る。依頼できるのは生徒のみとする。
代理人委員会による代理人の依頼は、依頼人本人によるもののみ受け付ける。
代理人の依頼は代理人委員会委員四名以上と顧問、学校長による厳選なる審査の上、受理されるものとする。
代理人委員は代理人である間は依頼人の生徒本人として活動すること。
本校生徒は代理人委員の勤める代理人を、代理人委員が代理人を務める間は本人として接しなければならない。
本校生徒は代理人を依頼した生徒および代理人委員の活動を妨害する行為を一切禁止する。教職員もまた同じである。これに反した生徒は内容、程度に関わらず退学処分とする。
「守ろう、ルールとマナー。校則を守ってね! じゃなきゃ、退学処分になっちゃうぞ! テヘペロ……か」
国広平が掲示板に貼られた生徒会が制作した校則見直し月間のポスターに目を止め、立ち止まる。
国広の横に並ぶ小田切雪は、生徒会のポスターよりも、その隣に貼られたポスターが気になっていた。
女子チョップスティックテニス部全国大会へ!
「チョップスティックテニスって何?」
国広が小田切に肩を寄せてポスターを覗き込む。
その時、国広の学ランのボタンに小田切の長い髪が絡んだ。
「国広君、知らないの? 今一番クールなスポーツじゃない。うちの女子チョップスティックテニス部、結構凄くて、ほら、全国大会だって。でも、キャプテンでエースの永巣尾根さんが、昨日、交通事故に遭って入院して。永巣尾根さん、人気者だから今、学校中で噂になっているじゃない」
小田切は髪を国広の学ランのボタンから外しながら言った。
「知らないな」と国広。
「冷めているのね」
小田切は呆れた顔をした。
しかし、国広はそんな小田切を気にしない。
「委員会の会議に遅刻する。小田切、委員会室へ急ごう」
国広が腕時計を見ながら言う。
「え、まだ髪が……」
国広のボタンに絡まった髪を必死で解く小田切だった。
ここから数日後。
放課後の代理人委員会室。
これから代理人委員会の会議が始まる。
小田切と国広、代理人委員会顧問の影山翔と二人の代理人委員、そして代理人委員会委員長、蒲郡華枝薇の六人が席についている。
他の委員は代理人の依頼を受けていて席を外している。
「では、会議を始めようか。さっそく、今回の代理人の依頼の件についてだが、女子チョップスティックテニス部キャプテン、永巣尾根羅絵からの依頼が入っている」
影山がそう言うと、皆の顔が固まった。
「あの、チョップスティックテニス部の永巣尾根さんって、交通事故の怪我が原因でしばらくの間入院していて。それで、昨日亡くなったって、今朝の全校集会で……その亡くなった永巣尾根さんからの代理人依頼って、先生、どういうことなんです?」
誰かが震える声で言った。
「永巣尾根は病院で、亡くなる前に手紙やメモを書いて残していたんだ。永巣尾根も、何か予感があったのかも知れないな。その手紙に、もし自分が死ぬようなことがあったなら、代理人委員会に自分の代理人を頼みたい。自分の代わりにチョップスティックテニス部を全国大会優勝へ導いて欲しい。自分の代わりに全国大会の場に皆といて欲しい……などと書いてあってね。彼女のご両親は娘の願いを是非、叶えてあげて欲しいって校長に話した。手紙のことを知った部の副キャプテンとレギュラー部員達にも泣いてお願いされて。亡くなった生徒の代理人だなんて前代未聞だが、校長は依頼を受ける気だよ。君達、どうする?」
「どうするって……永巣尾根さんの代わりなんて」
誰かが下を向きながら消え入りそうな声で言う。
皆、チョップスティックテニスの女王とまで言われた永巣尾根の代わりなんて誰も出来ないと考えて、ただただ下を向いた。
「小田切、そう言えば、お前、チョップスティックテニス経験者だったよな。どうだ、永巣尾根の代理人、お前が引き受けてみる気はないか?」
影山に言われて、小田切は首を横に振る。
「私には無理ですよ。あんな、才能とカリスマ性のある人の代理人なんて」