紙コップとペンとコーヒーの味2
暇を持て余した図書委員二人が本の整理のついでにカフェコーナーのドリンクで喉を潤している。
今日の紙枝は昨日に比べて、本に集中出来ていないようだった。
さっきからずっと自分の紙コップをチラリチラリと見ていてページが進んでいない。
チャイムが鳴る。
玉木は机の上の二つの紙コップを見る。
玉木のブラックコーヒーの入っていた紙コップには赤色のペンで、月なんか見ていたらダメだよ。
早く寝なきゃ。
かぜ、だいじょうぶ?
と書かれている。
紙枝のミルクティーの入った紙コップには青色のペンで、夜、たまたま、まどを開けて外を見たら月がきれいだった。
ひさしぶりに夜空見た。
と書かれている。
このメッセージのやりとりは三十分前のものだ。
紙枝のミルクティーは一口も飲まれないまま冷めきっていた。
三日目。
放課後。
以下、紙コップでのメッセージでのやりとり。
勧めてもらった本、読み終わったよ。
うん。
一番残酷だけど、お姉さんが死んじゃう話が一番印象に残った。
そう。
あと、飛行機の中で起こる話。
なんだか切なくて。
そう。
えーと。
へえ。
四日目。
紙枝が図書室に姿を見せない。
玉木は図書室にしばらくいたが、紙枝が来ないことが分かると図書室を出た。
五日目。
放課後。
玉木と紙枝は図書室のカフェコーナーにいた。
玉木は紙コップに入れすぎたミルクティーを慎重に席まで運んでいる。
席にたどり着いた玉木が紙枝の前に紙コップをそっと置き椅子に座ると、紙枝は紙コップを持ち上げて、青色のペンで書かれたメッセージを見た。
紙コップにはこう書かれている。
昨日は一晩中本を読んじゃって眠るのを忘れちゃったよ。
目の下のクマがひどくてまいったよ。
紙枝はくすりと笑って席を立つ。
しばらくすると、玉木の後ろからポットで飲み物を注ぐ、トポトポという音が聞こえる。
紙枝が席に戻る。
紙枝は椅子に座ると紙コップを、手をそえて机の上を滑らせて玉木に差し出した。
その時、玉木の顔を、紙枝は見ない。
玉木も紙枝の顔を見ない。
玉木はブラックコーヒーの入った紙コップに赤色のペンで書かれたメッセージを見る。
私は昨日は月を見たよ。
この日の放課後、玉木と紙枝は図書室でしばらく読書とメッセージのやりとりをして過ごした。
土日を除いて六日目。
放課後。
学校の代理人委員会室。
玉木が深刻そうな顔をしてパイプ椅子に座っている。