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風笛の鎮魂歌~緑銀の笛の音が響き渡るとき~  作者: 森川トレア
第1章 リーシャの家族と真実
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「僕は……リーシャを守りたいです。」


 父と目を合わせたマティアスが、少しだけ言葉を詰まらせながらも思いを口にすると、ユリウスは頷いて、マティアスの言葉も否定することなく受け止めた。


「マティアスの願いは小さい頃から変わらないな。今回だって鍛錬を急がせてしまって、本当にすまないと思っている。」

「父上、これは僕も望んだことです。」

「それでも、マティアスの思いに頼ってしまうことを申し訳なく思っているよ。」

「リーシャが領地から出るのですから。一番近くにいる事ができる僕がリーシャを守るのは当然です。」


 マティアスは、昨年から風龍ヴィルフリートの下で魔力をコントロールする鍛錬をはじめていた。本来は学園に入学してから学ぶべきものなのだが、今ではほぼコントロールできるようにまでなっていた。





 時折、この世界には膨大な魔力量を持つ子どもたちが生まれ出てくる。ここローリア王国も例外ではなく、年にひとりもいない年もあれば、複数いる場合もある。10年にわたり生まれなかった時もあり、その発現率は謎に包まれてはいる。

 そのような膨大な魔力量を持つ子どもたちは、感情と共に魔力が暴走し、周囲や自分自身を傷つけてしまう恐れがあるため、学園に入るまでは魔力の暴走を防ぐために魔術具を身に着けて過ごすのだ。


 マティアスも、その魔力量の多さから小さいころは感情と共に暴走し、家族を心配させたものだった。魔力が外へと放出された時の被害も大変だったが、それが内側へと向かった場合、マティアス自身を傷つけてしまうほどの力があることがわかり、生まれて間もない時期から神器(じんき)のブレスレットをつけていた。

 神器とは、天の神の使いとされる龍の神力が付与された術具のことをいう。本来であれば簡単に手に入るものではなく、国が厳格に管理し、国宝として保管されていたりするものもある。しかし、ペイレール辺境伯領には風龍ヴィルフリートがいる。ヴィルフリートは、マティアスの力が魔術具では抑えきれないとわかると、早々に自身で神器を作りマティアスへと与えたのだった。

 大抵は魔術具で抑えられるものであり、神器が必要なほどの子どもは、ごく稀な存在なのだ。それでも、魔術具では抑えきれない程の魔力を子どもが、神器が間に合わなかったことにより、自らを傷つけ儚くなってしまう出来事も過去には起こっている。


 魔術具や神器をつけるほどの魔力がある場合、学園に入学した後に魔術庁の協力の下で組まれる『魔力制御のための特別カリキュラム』を受けなければいけない。そうして1~2年ほどかけて魔力を慣らし、魔術具や神器を外してコントロールできるまでに導かれるのだ。

 だから国の許可を取ったとはいえ、神器をつけているマティアスが学園入学前に魔力制御の訓練に取り組んだことは異例のことだった。もちろん、その許可も風龍ヴィルフリートがいたからこそ下りたものだったのだが。


「エミリアとルーカスが同じ学園にいるとはいえ、ふたりはずっとリーシャと一緒というわけにはいかないからね。申し訳ないが、マティアスに頼らざるを得ない。特に、出自については出来るだけ長く隠しておきたいと思っているのだが……。」

「父上、それは家族皆が思っていることですから。僕だって、リーシャにこれ以上の価値を上乗せしたくはありません。ただでさえ、ペイレール辺境伯との繋がりに魅力を感じる人たちは多いでしょうから。

 それにあの魔力の量が知られてしまえば、誰もがリーシャを欲しがり、息子を使ってリーシャに近づこうとするでしょう。

 ……それでなくても……リーシャはあんなに可愛いい……。」


 最後は、瞳を伏せてつぶやくマティアスを見て、ルーカスは昨晩久しぶりに会ったリーシャを思い出していた。

 辺境伯領に来た時から、可愛らしい天使のようだと思っていたけれど、成長するにつれ光り輝くようになった。そんなリーシャに、兄として育ったルーカスでさえ見とれてしまったのだ。学園に入学すればたちまち注目されるのは間違いない。マティアスが不安に思うのも当然だとルーカスは思った。

 ペイレール辺境伯家は風の精霊の血筋と風龍の加護がある故に、これまで何度も王家の姫が降嫁しており、強い魔力を持つものが多く、容姿においても端麗な顔立ちをしている。しかし、リーシャは人外とも言えるほど見目麗しさが際立っており、可憐でありながら神秘的な輝きを纏っている。―――そう、少なくとも外見は可憐なのだ。中身が、マティアスやヴィルフリートと外で遊びまわり、服が汚れることも気にしないほどのお転婆だとしてもだ。


「父上、僕と姉上も出来る限りのことはしますから。

 そういえば、リーシャはマティと同じクラスになるよう手は回していらっしゃるのでしょう?」


 ルーカスが父に尋ねれば、ユリウスは良く聞いてくれたとばかりに嬉しそうな顔をする。


「ああ。本来であれば魔力制御のための特別カリキュラムを受ける生徒たちは同じクラスになるのだが、マティアスはここで制御を学んでしまったからね。しかし、学園でも毎回とはいかないまでも、定期的にカリキュラムを受けられるように交渉してきたよ。稀代の魔術師のザイツ殿に教わりたいというのはマティアスの希望だからね。

 それに、リーシャは領地から出さないでいいように、これまでずっと体が弱いことにしているだろう。そのことも、学園長に会って念を押してきたから、間違いなくマティアスと同じクラスだよ。」


 辺境伯ユリウスの答えに、ルーカスは楽しそうに笑い声を立てた。


「失礼しました、父上。

 でも、リーシャの体が弱いだなんて。本人を見たら、誰もが嘘だと気がつくでしょうね。」

「そうかい?見た目だけなら、そう見えなくもないだろう?」

「確かに。おとなしく座っていれば、そう見えなくもありませんが、リーシャにそれが出来るかどうか……よくよく、リーシャに言い含めないといけませんね。

 それに、姉上が治癒魔法を使えるというのに、病弱設定は無理があるのでは……。」


 マティアスも苦笑しながら意見を述べるが、ユリウスは痛くも痒くもないといった表情だ。


「エミリアの治癒魔法の力のおかげで、リーシャは学園に行ける程までになったことにすればいい。そうすれば、これまで領地から出さなかった理由にもなるだろう。」


 言い考えだとばかりに、ルーカスとマティアスに視線を送る父ユリウスを見て、ふたりの息子は同時に笑い出した。ひとしきり笑った後、マティアスが口を開く。


「なるほど。王都では常に姉上の治癒魔法が受けられるから、健康になったということにすればよいですね。

 ところで……リーシャの魔力は全て開放させるのですか?」

「そのことも含めて、これからヴィルフリート殿と話をするつもりだよ。また今夜話そう。」

「では、僕たちから姉上へ話しておきますね。」

「ああ、頼んだよ。くれぐれもリーシャに気づかれないように。」


人間は魔力をもとに魔術を使い、魔術具も創り出します。

龍は神力を使い、神器を創り出します。

―――という設定です。


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