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風笛の鎮魂歌~緑銀の笛の音が響き渡るとき~  作者: 森川トレア
第1章 リーシャの家族と真実
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 風龍ヴィルフリートはカル山脈を眼下に北から吹く風を受けながら日課である早朝の飛翔へと飛び立った。昨日まで降っていた雪も止んでいる。重く垂れ込めていた雲も今日はなく、清美な光が辺りを照らし始めている。身体を冷たい空気がまとうのが心地良い。


 ヴィルフリートは、夜明け前の薄暗がりの空が朝焼けに染まっていく様を見るのが好きだった。久しぶりの朝日を身体いっぱいに浴びて、大きく息を吸い込むと、輝く銀緑の鱗を震わせた。大気を取り込んだ身体が満たされていくのを感じながら、ヴィルフリートが小一時間ほど空の散歩を楽しんでいると、神殿の方から風に乗って笛の音が聴こえてきた。


(おや?今日は心ここにあらず…のようだな。)


 ヴィルフリートは、ふふふっと思わず笑みを漏らした。


(さて、戻るとしよう。)


 そう決めると、うす金色の髪をした笛の音の主に元へと悠然と舞い降りる。神殿の横に降り立つと、笛の音の主がぴょんと駆け寄ってきて、ペリドット色の瞳を輝かせた。


「おはよう、ヴィル。おかえりなさい!」


 そう言うと、駆け寄ってきた少女は腕を広げヴィルフリートに抱き着いた。

 ヴィルフリートもそっと翼を動かしやさしく少女を包み込む。


「ただいま、リーシャ。もうルラの花は供えてきたのかい?

 それにしても、そなたが早朝からここへ来るとは珍しいことだ。何があったのだ?」

「やっぱり、ヴィルにはわかっちゃうのね。あのね……嬉しいことと、悲しいこと、なの。」


 上目遣いにわたしを見上げる顔は、複雑そうな表情を浮かべている。

 そういえば昨夜、王宮に呼ばれ王都に行っていた当代辺境伯のユリウスが帰ってきたことをヴィルフリートは思い出した。冬期休暇に入った上の子どもたちも一緒に帰ってきたようだったから、きっとあの話を聞いたのだろう。


(なるほど、それで朝からここへ来たのか。嬉しいこととはそのことだろうが、悲しいこととは、さていったい……。)


 ヴィルフリートには見当がつかなかったが、きっと今からリーシャが話してくれるのだろう。


「リーシャ、外はまだ寒い。風邪をひかせてしまったらユリウスに心配をかけてしまうであろう。さあ、神殿の中で聞かせておくれ。」


 人型となり神殿に入ると、神殿付きの使用人たちが温かい飲み物と朝食が準備してくれた。どうやらリーシャは一緒に食べるつもりで、朝食も取らずにこちらへ来たらしい。


 龍は天の神が地に使わした至高の生き物だ。そのため神から力分け与えられた力、すなわち神力を使うと言われている。そして、その体や神力の維持には、人間のように食事に要る栄養素を摂取するのではなく、直接大気から取り入れることで賄える。しかし、人が食べる食事を取れないわけではない。風龍ヴィルフリートはペイレール辺境伯領に住み着くことを選択して以来、時折、人型で代々の辺境伯と食事やお茶を共にすることを楽しむという、とても人間くさい龍へとなっていたのだった。


「それで、何があったのだ?」


 先だって、当代辺境伯ユリウスが王都に向かう前に話していたことだろう。そう見当がついていたのだが、ヴィルフリートはあえて知らないふりをして尋ねてみた。


「あのね、嬉しいことも悲しいことも一緒のことなの。

 お父さまから、学園への入学の許可が正式に下りたから、新年のお休みが終わったら王都に行くのですって。」

「リーシャも12歳になった。姉のエミリアも、兄のルーカスも12の歳から王都の学園へ通っておるではないか。それに、双子の兄であるマティアスも一緒なのであろう?」

「そうなのだけれど……。」


 上のふたりを見ていたから、リーシャも12歳になれば王都の学校に通うことはわかっていたはずだというのに、リーシャの表情は沈んだままだ。


「学園へ通うのが嫌か?」

「いいえ、エミリアお姉様やルーカスお兄様と一緒の学園へ通えるのはとっても嬉しいわ。マティだって一緒だし、嫌じゃないの。

 学園では、いろんな勉強ができるのだってお姉様やお兄様が教えて下さったわ。魔術の勉強だってできるのですって。それに、お友達だって作りたいわ。」


 嬉しいと言いつつも、ペリドット色の瞳の中にある金色の光は、先ほどヴィルフリートを迎えた時と違い、輝きを失っている。


「でも……。」

「でも?」

「王都に行ってしまったらヴィルとは毎日会えなくなるのよ。寂しいわ……。」


(なんと!リーシャがそのようなことを言ってくれるとは!)


 ヴィルフリートは嬉しさのあまり口もとをほころばせた。龍の姿であったなら、嬉しさで鱗は輝き、髭を震わせていたことだろう。


「嬉しいことを言ってくれるのだな。」

「え?」

「わたしに会えないのを寂しがってくれるとは。」

「当り前じゃない!」


 リーシャはバラ色の頬をぷうっと膨らませた。


(ふふふ。まだまだ令嬢と呼ぶには程遠いようだな。)


 その言葉は心の中にとどめ、ヴィルフリートはこの愛し子を眩しそうに見つめた。

 あれから7年。こうも素直に愛らしく成長してくれるとは。風龍ヴィルフリートは慈しむような笑顔で、リーシャを見つめ続けたのだった。


 はじめての章設定。少し戸惑いつつも無事に出来たので、嬉しくて「よし!」と小さくつぶやいてしまいました(*^艸^*)


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