ナースコール
私は典型的な夜型人間で、これまでは酒で無理やり夜に眠っていたが、一週間前に入院してからは、もちろん酒が飲めないため、夜はパッチリ昼はグッスリという生活を続けている。
入院初日から気づいていたのだが、毎日朝二時頃になると、ナースコールのスピーカーから男の話し声が聞こえてくる。内容に興味は無いし音質もほぼノイズに近いためやり過ごしていたが、うるさいと言えばうるさい。私の病室は個室なので夜に何をしても良いのだが、大部屋のように他人の話も聞けず、深夜のテレビに見たい番組は無く、スマホで一晩中相手をしてくれる友人も思い浮かばず、スマホゲームは腕が疲れるし本当にやることが無い。そこで思い付いたのは、例のナースコールが何を話しているか解析する事だった。
早速メモ用紙とペンを用意して二時を待った。ノイズを良く聞いていると、まず話しているのは一人らしいこと、短い文章の羅列であること、人の名前が出て来ること、などが判った。そこで一番始めの文章に注目し「アマノヨシミ」と言う名前を見つけた。早速スマホ検索したが出なかった。そこで友人に図書館で調べてもらったがこれも不発だった。するとベテランの看護師が「アマノヨシミって何処かで聞いたことがあるな」と言い出した。必死で思い出してもらうと「確かこの病院で最初に亡くなった方よ、西暦二千年になる少し前の真夏だったかな」そうか、ノイズの始めのゴチャゴチャは日付か。そう思い最初の文章を再度聞くと「1998.8.5 アマノヨシミ シンフゼン」とはっきり聞こえた。
私は興味に駆られ、看護師に「最近亡くなった患者さんはいますか?」と聞いてみた。するとプライバシーを飛び越えて「村田さん、昨日よ」と帰ってきた。
私はノイズの最後の文章を解析した。「2023.12.22 タケダナオキ カンシュッケツ」そして最後から二番目が「2023.12.21 ムラタミノル シンキンコウソク」だった。
このノイズはこの病院の死の順番を記録したリストだった。そして私は今日手術を受ける。
「竹田直木さん、手術の時間ですよ。」