表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後のとどめはあなたの牙で  作者: くびわつき
頭が先か胴(はら)が先か
8/25

馬車の前4

 メグリはいろいろと見なかったことにして、肩をすくめ「無事墨がついたようだ」とお茶を濁す。

 コームは自作の香が効きすぎてかえって驚いているようだった。もしかしたらモモの体調不良も漏れ出た香にやられていたのかもしれない。


妙な雰囲気になったので、先程気になったコームの言葉の意についてメグリは聞くことにした。


「主人、先ほど龍人の血があればといっていたが」


あぁ、とコームは頷いた。


「やつらの血は、怪物、幽鬼共、いわゆる魔物が皆こぞって逃げるという話があるんですよ」


 メグリは龍人についての記憶を呼びおこす。といってもすべては龍人から縁遠いスロノレア公国での伝聞でしか無い。

 龍人はアダスタムン帝国の帝都、ナシャージャ付近に住む少数民族らしく(・・・)、半人半龍のような姿をしているという噂で(・・)、戦場では恐ろしく強いという評判(・・)、程度のことしかわからない。


 龍人は広大な帝国外に出ることはほぼないようで、この世界に来てから見たことはない。モモは、はっ倒してやるわと息巻いているので、アダスタムンには近づかないほうが面倒にならないというのは知っている。


「逃げる?」

「龍人と言っても辺境にいる奴らではなく、血が濃い――いわゆる純血のみということですが」


メグリは龍人について少し話題を広げることにした。龍の話をすることさえ嫌がるモモが気絶しているならなおさら良い。


「主人。私はあまり龍人とやらに詳しくないんだ。少し教えてくれないか。……(この隣で気絶)(しているやつ)なら知っているかもしれんが」メグリは苦笑し腕を組んだ。モモが知っているとは思えないが、レイアヴィエンナの聖女が龍人を知らないとも考えづらい「職業病なのか、話すと長いんだ。聖女ってやつは」


コームは一瞬ぽかんとしたあと、たしかに私も覚えがあります。と笑う。聖職者の話(ありがたい説法)が長いというのはどこも一緒だと、メグリは最近学んだところだった。


「といっても私も感情が入ってしまいそうなので、短くできるかわかりませんよ」


そうコームは前置きした後、メグリに龍人について語り始める。

『感情がなくて冷血』や『災いをもたらす』などコームの偏見が多分に混じった説明ではあったが、概ねメグリの知識と差異はなかった。


新たにわかったのは、先程も話が出たが、アダスタムン帝国は、ノウドシアやハドリアのリアエナ教の勢力と対立しており、小競り合いを繰り返していること。そして龍を信奉していること。


なによりメグリの興味を引いたのは、辺境にいる龍人の兵は魔物を操る――少なくともコームはそれを見た――ということだった。

他に、龍人のことを指す文脈で、トカゲ目という単語が出てきて、おそらく蔑称のようなものなのだろうと当たりをつけた。


「正直……にわかには信じがたいが」

「わたしも信じられない思いでした。しかし私はワイバーンとともに戦うトカゲ目(龍人)を確かに見たのです」


今思い返しても恐ろしい光景でした。というコームの口調には真実味があった。


「しかし、龍人の血は、先程魔物が避けるとあなたから聞いたばかりだ。少しおかしいように思えるが」


戦場では血を流さず戦うなどと、ほぼ不可能なはずで、血を流す度、戦力(魔物)が散ってしまうのでは戦いにならないように思える。


「それについては私達――薬師や魔術師の中で仮説がありまして」


コームは話すうちに興が乗ってきたのか、少し長くなってしまうのですがいいですか?とメグリに確認をしてきた。

メグリが続けてくれと先を促すと、結局長くなってしまいますね。モモ様のことは言えません。とコームは笑った。


「そもそも龍人といえば、アダスタムンの奴らが信奉する龍の末裔という話です。龍の血を飲んだものは、呪いをその身に受け、運命と魂を歪められ、破滅への道を歩むという伝承がありまして」


 メグリはうなずきを返した。元の世界でも神話のジークフリートなど、似たような話は聞いたことがある。


「その血を引いたという龍人の血も同様ということで」


 本物の龍ほどではないでしょうがとコームは捕捉する。


「龍の力による破滅をおそれ、その血を避ける、か」


 ありえない話ではないと思いメグリはひとりごちた。

 魔に近いほど、呪いに対して本能的に危機を感じ、避けるというのは経験則でもそれほど外れてはいなかった。


ここからがなぜ魔物を操れるかの仮説のなのですが、とコームが前置きし、あごに手をあて、うすい髭をなでる。


「その龍人の血が薄くなると、魔物を集める、あるいは操る、そういった効力が表に出る(・・・・)のではないかと」

「薄くなる?」


血が薄くなるという表現にメグリは腕を組み、聞き返した。


「えぇ、たとえば龍人以外と交雑した結果生まれた子のことです」

「交雑?龍人は他の種族……たとえば人間と子をなせるのか?」

「成体であれば、龍人には人間同様に肉体的な性別の差があります。狼の一族(狼人)空の民(鳥人)など他の祝福されしものと同様に他の種族と子をなせます」


それらの種族についてはメグリも見たことがった。それこそ空の民と言われる半人半鳥の種族の一部のものが空を飛ぶ様をメグリは見ている。


「龍の血の呪いはありとあらゆる生物に対しての毒です。ただし、その呪いは血が故に他の種と交雑す(・・・・・・・)ることで薄まる(・・・・・・・)


コームは手を水位を示す計器のように水平にして、少しづつ下げはじめる。


「薄まった結果、呪いが転じ(・・・・・)」コームの下がっていた手が、一点で止まり手のひらを裏返す「魔物にとって好ましい(・・・・・)または支配されてもいい(・・・・・)と感じる濃度があるんでしょう」


なんで龍人がパクっといかれないのかは謎ですが。と最後に笑ってコームは締めた。


濃度のくだりがどこかで聞いた話だと思い返し、至った答えをメグリはつい口に出してしまう。


「花の香のようにか」

「ほう、よくご存知で」


 驚いたようなコームに、思わず声に出してしまったメグリは肩をすくめる。現代で聞きかじった知識だ。あまり突っ込まれても困る。

 しかしコームは話にオチがついたと持ってくれたようだ。


「モノは同じでも、毒にもなれば薬にもなるということですね」

「なるほどな。勉強になった。礼をいう」


納得し、頷くメグリの視界の下方で、モモの触角が動きはじめ、目を覚ますように頭を振る様子が目に入った。気がついたらしい、今日は災難続き(半分自己責任)なので、後で優しくしてやろうと思う。


 それと、呪いと祝福は紙一重ともいうしなとメグリは胸中でつぶやいた。今の自分ははたして呪われているのか祝福されているのか。モモに聞いたらなんというだろうか。とても嫌味っぽいので、今度喧嘩したときにでも聞いてみようか


どこかそわそわとしたコームの表情が伺え、メグリは体をそちらに向け直した。

「私個人の興味本位の話なのですが」

話足りないといったコームの言葉に視線と手の動きでうながす。


「龍人の血を希釈した場合、どうなるのか薬師として興味がありまして」

「希釈?」人の手で薄めるということか?とメグリは問い返した。


「はい。ただ水で薄めればいいというものではないとおもいますが」コームはそこで一息し、たまらないといった様子で口にした

「どの濃度でどのような効果がでるのか。交配ではなく人工的に他の血と混ぜたらどうなるか、等についてはとても、興味があります」

「……ほう?」

「私の知り合いの魔術師は、捕虜などの世代毎の血を検証すればいいというんです」

ピッチが早くなり狂気的な色を帯びていく。

メグリは一瞬面食らったが、喋らせたほうがいいと判断した。


そんな事待っ(・・・・・)ていられない(・・・・・)。そんなのは長命のもののおごりだ。だから龍」


そこでコームの口がピタリと止まる。メグリは惜しいと思った。もう少しで役に立つ話が聞けそうだった。


「……失礼しました。少し一人で喋りすぎましたね」

「構わん。興味深い話だった」


さて、どうするかとメグリは思う。もう少し聞き出してみたいという考えはあったが、話しすぎていることを自覚されてしまったし、これ以上は成果は得られなさそうという感触もある――


「――すごく効きました!」


わずかののち、突然、モモが空気を破るように声を張り上げた。


「コーム様。素晴らしい腕です!わたくし、恥ずかしいところを見せていまいました……」


モモは恥ずかしそうに両手で顔を抑えながらうつむく。

コームは声に驚いたようだったが、モモの体調を気遣い、大丈夫でしたか、体の何処かに影響は出ていませんか問いかけた。


メグリは潮時だと感じた。

馬車の様子を見るとカロも水を飲み終え、りんごでは足りなかったのか間近の草を食んでいる。そろそろ出発したほうが良いかもしれない。


メグリは先送りにしていた事を思い出した。


「店主、そういえば、あの虫よけの小瓶だが――」


「――コーム様。魔物よけの小瓶(・・・・・・・)、いただけませんか?」

貸しをなしにするため、虫よけの小瓶を貰おうとしたメグリの声をモモが遮った。


「あ、いえ。そちらは」と言いかけたコームに

もちろんお代はお支払いいたします!とモモは詰めた。


「わたくしはコーム様の腕をこの身で感じました。とても素晴らしい薬師としての腕をお持ちです。そのような方が作られた魔物よけであれば、充分な効果があるとおもいます!!」

「あ、ありがとうございます」


モモの勢いにコームが少しおされる。

それに、とモモは続けた。指をつきあわせ、うつむき、しおらしく恥ずかしそうな声で

「あの緑の小瓶をメグリに使われたら、わたくし、くしゃみが止まらなくなってしまいます」モモは上目遣いでコームを見上げた。「もしかして、不都合がおありですか?」

「……いえございません。どうぞお持ちになって下さい。お代はいただきません」


モモがありがとうございます!といいながら瓶を受け取り、ローブの懐にしまう。

メグリはモモの振る舞いが気になり後で聞くことにした。


さて、と会話が落ち着いたのを感じ二人で馬車に戻る。

モモは、演技に疲れたのか荷台にそのまま引っ込んだ。


水桶を返さなければならないことを思い出し、店に戻り、水桶を置いて、コームの確認を得る。

メグリには目的はもう一つあった。


「おや、なにか不足のものがございましたか?」


商品棚を見ているメグリにコームが声をかけてきた。

メグリは木細工の中の牛の形をした素朴で、顔に味わいがある木細工を手に取り入った。


「この、牛の木細工は主人が?」

「えぇ、子供にと思って作り始めたもので、なかな内気な子でして、おもちゃにでもと」


メグリはモモがどういうリアクションを取るか少し想像した。

腕時計であれPCパーツであれコスメであれVR機器であれ、モモがプレゼントを喜ばれなかったことはないが、ここ最近でいちばんシンプルだし、暇つぶしにしても……とといったものなので、どういう反応になるかいまいち予想できない。


「これ、もらえるか」


結局、メグリは買うことにした。こちらに来て最初のプレゼントになりそうだったし、良くも悪くも記憶と物が残るものを持っていてほしいなと思ったのだ。なんとなく今プレゼントしたい気分だった。


「もちろんです。お持ちになって下さい」

「いや、充分に頂いた。これ以上はただではいただけん」


いやいや、いやいやいやというやり取りを何度行い、結局銀貨を押し付けるようにして代金を払う。


再び馬車に戻る。モモは御者台に座り膝に頬杖をついて暇そうにしている。遅くない?という視線を感じた。

御者台の横に立ち、「モモ、これ」と木細工を差し出した。横に座った後に仰々しく渡すのは少し気恥ずかしかった。

モモは驚いたようにメグリの方を見ると、表情を崩し、え〜いいのか〜? といいながらと笑った。


「ほんっと、メグリは儂に甘いのう」


 立ち上がり、トントンと音を立てるように、軽快にモモが御者台からおりてくる。

木細工をメグリから受け取り、ニヤニヤとしながら、木細工を回すように見る。

モモはそのままメグリの懐にはいる。メグリの顔を見上げ、胸と腹の間あたりを人差し指でグリグリとしながらなんじゃ〜? 儂のこと大好きか〜? などというモモに気恥ずかしくなり、言葉に詰まる。コームに見られていないかと思ったが、カロと自分の背で隠れているだろう。メグリは自分の体躯に感謝した。


 モモは木細工で口を隠すようにし、フニャフニャ笑いながら突っついてきて、思ったより反応がよくてメグリは安堵するような緊張が溶けるような気持ちだった。


「正直、それほど喜んでくれるとは意外だった。素朴なおもちゃの良さに目覚めたか?」


「ふふ。まぁこっちに来てからメグリから始めてもらったプレゼントじゃからの」まぁ贅沢を言うとしたらとモモは続けた。「今度はもっと時間をかけてくれるともっともっと嬉しい」


メグリは笑った。モモがいつも言っていることだ。


「そうだな。次もモモのことを考えて時間をかけて選ぶとする」

「んむ。もっと儂のことで頭いっぱいにして?」


メグリはモモの事を軽く抱きしめるようにした。ひんやりとしている。腰の後ろに抱きしめ返してくる反応がある。

「……そろそろいくか」

流石に少し恥ずかしくなって、離れる。


「ん。そうじゃの」モモはメグリの表情をのぞくようにしたあと、楽しそうに御者台に上がった。


のうメグリ、と御者台に登るメグリにモモが声をかけてきた。


「なんだ?」

「この人形、足元からちょっとずつ赤く染めていっぱい針差して血まみれみたいにしたあとに石でじわじわ摺り削って遊んでいい?」

「えっ、怖い怖いやめてくれ」


 モモははうっそじゃ〜と言いながら荷台に入る。メグリはアイツならやりかねないのではないかと心配しながらカロに出発の合図を出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ