馬車の前1
世界設定説明回・・・
「いいか。わかってるだろうな。私は別の大陸からやってきた、異国の戦士という設定だ。流れ流れて、腕を買われて聖女に拾われ、ともに旅をしている。あまりこの大陸や社会常識がないのはそのせいだ。そのため、私は積極的に質問をする」
「承知しております。メグリは別の大陸からやってきた、異国の戦士で、流れ流れて、腕を買われ私に拾われ、ともに旅をしてます。あまりこの大陸や社会常識がないのはそのせいです。ですので、メグリは積極的に質問をします」
「……聖女の名前はモニカ・モルフォ。蝶の祝福を受け気さくな人柄で、人にはモモと呼ばせる。私も聖女に説得され、そう呼んでいるという設定だ」
「承知しております。わたくしの名前はモニカ・モルフォ。蝶の祝福を受け気さくな人柄で、人にはモモと呼んでいただいております。メグリもわたくしに説得され、そう呼んでいるという設定です」
「…………最後に、わすれるな。馬車をおりてからのお前はリアエナ教、レイアヴィエンナの聖女だ」
「承知しております。馬車をおりたわたくしはリアエナ教、レイアヴィエンナの聖女です」
「本当に承知できてるか……?」
モモとメグリが聖女の練習を始め、メグリが、あれ。コイツ全然ダメでは? と思い始めたころ
少し先、街道の横、馬車を止めれるほどのスペースの木と草が刈ってあり、
そこに大型の茶の馬と、先程男が乗っていった馬が、木桶から藁を食んでいるのが見えた。
馬の向こうには茶のひさしのようなものが見え、移動店舗とはあれのことらしい。
進んだところで、ひさしの下にいくつか大きめの木桶と、木箱に座った人の姿が目にはいる。その近くには目立つ赤を基調にした、立て看板があった。
『森への備えに! コーム雑貨店』
常人ではおよそ見えないような文字の小ささだが、メグリにとっては造作もない距離だ。
「この読めてしまう感じ、慣れんな……」
ただの模様としての印象なのだが、同時に文章として理解できる。
しかし、それらの文字について学んではいないので、自らのエピソードとして紐づく体験がない。そのため読めるということに対して根になるものがなく、違和感が凄まじい。
以前この現象についてモモになにかわかるか? と、聞いたことはあるが、
『なぜこうなったか推測はできるがの。ききたい? ききたい?』などと言回しがしゃくだったし、聞きたくなかったので聞かなかった。今もあまり興味がないので聞きたくない。
メグリは馬車と直列に並ぶよう、街道の端に馬車をとめた。
「さて……」
舞草を手に取り荷台に移動する。
皮鎧の締り、ほころびがないか確認後、遥か過去に自作し、手入れ、修繕し使っている剣帯を拾い上げて鎧の上から身につけ、迷いのない動作で舞草を背に差した。
装備の点検を確認し終え、メグリは御者台から降り、荷台後部の後ろあおりを下ろした。
モモが後部に向かってあるいてくる。既にスイッチを入れているようで、表情から変わり、うつむきかげんで儚げな表情。歩く様はしずしずとしていて、足元がローブなどで隠されたとしたら、まるで滑るように見えるだろう。
「どうぞ」
メグリは荷台のモモに手を差し出す。
「ありがとう。メグリ」
モモはにこりと笑みを返し、手を取り、どうやっているのか音も立てず、ふわりと荷台から降りた。
ふいに、音が消え、遠い記憶、遥か彼方に失われた人の幻が重なるように見え、なぜ、今と戸惑う。
「行きましょう」
「あ、あぁ」
幻が消え、音が戻ってくる。
メグリは先を行ったモモの後を追いかけた。
移動店舗は、木製でできた三角屋根の小屋のような形状の馬車の荷台であった。
荷台が半分で区分されていて、片半分の横壁が持ち上がる可変機能がついており、持ち上げた横の壁を二つのフック付きの金棒でささえて、ひさしとしている。
内側には戸棚がはめ込まれており、食料品、馬用品、皮用品、その他もろもろの旅用品と色とりどりの小瓶がならべられていた。
残りの半分の荷台の後方には引き戸がついていて、おそらく中は倉庫、休憩場所として機能しているのだろう。
ひさしの下では先程の男が椅子に座って、ナイフで木の表皮を削っていた。近くの丸太のようなテーブルにすり鉢、すりこぎ、いくつかの瓶とメグリの知らない植物などが並べられている。
「ごきげんよう」
モモが優しく、二人で馬車でともに練習していた、モード:異国の戦士とともに旅ゆく気さくな聖女っぽい振る舞い、で話しかける。
店主が声に気づき、顔を上げた。モモに先に視線が行く。驚いたように目が丸くなる。
「先程はわたくしの従者がお役に立てたようで何よりでした。お怪我はありませんか?」
「……え、えぇ。それはも、もち……っ、も……!」
男は帽子を取り、両手で握る潰すようにした。唇がわななき、感極まったように声が震える。
「……もしや、レイアヴィエンナの聖女様ではありませんか!?」
「ええ、わたくしがレイアヴィエンナの聖女様です」
えっ、そんなことになる?
メグリは、まさか聖女のふるまいとはオウム返しをすることと覚えているんじゃないだろうなとゾッとし、先のことを考え不安になり、額を抑え頭を振った
メグリが助けた男はトーデュ・コームと名乗った。
やけに身なりが良いなと思っていたが、聞けば、別に店を構えていてそちらは妻と人に任せているというということらしい。多少挑戦的な商売をする余裕があるということだろう。
「いや、まさか。再び月の乙女の一行に助けていただけるとは」
コームは感激したように右胸・左胸・へその順に右手をかざし最後胸に当てる。
この大陸の人間族、あるいは社会をともにするものの中での三分の一近くが信徒と言われている、リアエナ教の祈りの所作だ。
「再び? 店主、もしやハドリアにいたことがあるのか?」
メグリは知らぬ地の情報を得られるかと思い話を広げる。
西のハドリア神聖国といえば、リアエナ教の聖女リアエナの出生地ハルモンドを首都する大陸最大の宗教国家である。
古の大戦での逸話を多く持つ、名高き聖騎士・聖戦士団を各地に抱えるが、その中でも特異な――もはや異端とともいえる――あり方で有名なのがレイアヴィエンナだ。
名前にこそ聖歌隊とついているものの、ほぼ組織としてすら活動することはなく、数名から十数名で、諸国を巡遊し幽鬼・怪物の類に対処する代わりに布施を得るという。いうなればその実態は魔物退治専門の傭兵のあつまりに近い。
古の大戦時、セイレーン、あるいはセイレーンになってしまったもの達の歌声によって、戦意高揚を狙い編成されたが、とある戦いで、追い詰められ、もはやなすすべなしと、いざ戦ってみたら、 皆思ったより強く敵を討ち滅ぼしたとう言う伝承がある。
今では聖歌隊という名だけが残り、セイレーン含む神の祝福を受けたものを主として構成されている。
それぞれの小隊の長は、初代の隊長のセイレーン、レイアが美しい銀髪だったため、アイコンとして白・銀髪に染めた者が努めているケースが一般的であり、その特徴から月の乙女、白百合などと呼ばれ神聖視されている場合もある――
――と言った話をメグリとモモは出発時にベイサム伯の家宰から叩き込まれていた。モモが覚えているかはわからない。
「いえノウドシアとアダスタムンの争いに巻き込まれたことがありましてね」
「まぁ……!」
口に両手をあて、驚いたように触角をのばし、なんということ……! という表情をするモモ。ノウドシアとアダスタムンはここと山脈を挟んで向こうにある国だが、これは覚えているはずがない。
「アダスタムンの龍人のやつらにやられそうになっていたところ、月の乙女の一人に助けてもらったことがあるんですよ」
「あぁ……! なんと、それは本当によかった……! 憎き龍人を討ち滅ぼし、あなたの助けになりれたのであれば……!!」
過剰になっているぞ……、コームに見えないようかるくモモの背中を小突く。
モモにとって龍という存在は怨敵と言わざるをえないので感情がこもってしまったのだろう。




