朝の墓場2
メグリは墓石に顔を向けた。
「で、墓に埋まっているもの。どう思う?」
「どれ」
モモは墓の前にしゃがみこんで、土に手を当てる。モモは百足の人々が持つイメージや、伝承を力、(本人によると自分への呪)として発揮できる。今回は採掘の縁起物として力で、土の中を見通しているのだろう。
モモはしばらく手をあてていたが、落胆したように肩を落とた。
「すくなくとも、今、この下に埋まっとるのは獣の骨じゃな」
なんか人の頭っぽく加工してあるけどのう。とモモはつまらなそうに言う。
「歯はあるか?」
「んにゃ。無い」
これただの牛じゃねーのか、と首と触角をがっくりとうなだらせたモモに、歩み寄り、隣に片膝を立ててしゃがみこむ。
「墓荒らしの時に、散らばっていて埋め直したという骨は、やはり偽物だったのかもな」
墓石は定期的に清掃されているのだろう。野ざらしにしてはかなりきれいに保たれている。なでると表面のざらつきが手に残って、風化が進んでいることがわかる。
「土に直に埋めた骨がそのまま残るのは百年程だ。ヤーリの村の起源はもっと前だろう。乾いた砂のような土であればないその限りではないが……」
モモは土を指先でつまみ、すり合わせた。わずかに湿り気を帯びた土が、モモの手からポロポロと落ちた。
「あんまり、そんな感じはせんな」
トデンの森がそばにあり、川も近いという。ヤーリの村はどちらかと湿潤な土地のようだ。朝露も出ていたし、乾燥した土とはいえない。
「目的がよくわからんなぁ。偽物を本物の骨として埋め直すのが、ねらいっちゅーことか?」
そうかもな。とメグリは頷いた。
朝に、宿の主人から話を聞いたときから考えていたことだ。墓荒らしの目的は、墓を暴くことではなく、墓に遺物を埋め直すことではないか。
「こういうのは、言ったもの勝ちだろう。祭りに向けて盛り上がったタイミングで、偽物だと騒ぐ必要もない。祀られている者の骨であれば、不思議と形が残っていても、『そういうもの』で、すませそうな話だ」
「墓荒らしに見せかけて箔をつけるというやつか。……偽物だと疑っても、確かめる方法もないだろうしの」
下手に空気を読まずに騒いで、村八分は怖いじゃろうしのうとモモは指についた土を払う。
「それに、こういうものは時間が経てば、本物になる」
それなーと、モモは両人差し指をメグリに向けた。
「儂のこと切ったってことになっとる刀、何本あるかわかりゃせんしな」
「へぇ。どの刀で切られたとか、わかるもんなのか」
メグリはモモの両人差しをつまんで、モモの両頬を指すように動かした。
「当たり前じゃろ。儂の恨みは深いぞ。そうさな。百本までは覚えておる」
「……だいたい本物ってことじゃないか?」
あれ? そうかもしれんのと、モモは両頬を人差し指で押しながら、首を傾げた。あざとい。
「とはいえ、本物が埋まっていた可能性はないわけじゃない」
「ふむ?」
「この墓の主は特殊な背景を持っているだろう? 骨に魔術的な処置がされていて、残っているというのもありそうだ」
あとは現状、土葬の文化だろうから当てはまらないだろうが、とメグリは前置いて、自信がなさそうに頬を描いた。
「火葬されると表面が変質して、数百年残ることもある……らしい。見たことはないからわからんが……」
「なんじゃメグリ、墓の一つや二つ、掘り起こしたこと無いんか」
「あるわけ無いだろ」
メグリは呆れた顔でモモを見返した。むしろ墓の掘り起こしはモモのほうがやりそうだ。結界を壊したこともあるし。
「モモこそ、墓を掘り起こして死肉を貪った事があるんじゃないのか」
「メグリとラブラブになって以降の儂は美食を志しておるからの。新鮮お肉か新鮮お魂じゃないと舌が受け付けなくて」
「お魂ってなんだ。というか鮮度の問題なのか……?」
「ま、結局、本物の骨があったかどうかは、わからんっちゅうことじゃな」
モモは裾についた土を払いながら、ゆっくりと立ち上がり腰をまわして、ため息をつく。
「この件(仮)の墓荒らし、森の怪物に関係あるのか?」
「ある」
「なんでじゃ?」
「……勘」
「ふーん? メグリの勘が働いてるってことは、謎解きにはならなそうじゃの……お。戻ってきたな」
テレーズとルシルが戻ってきた気配があって、メグリとモモはふりかえる。
二人は赤と白い花をいくつか摘んで戻ってきてくれた。花にはメグリも見覚えがあった。あちらの世界の現代日本でもよく見られる花、ヒナギクによく似ている。
テレーズは笑みを見せていたが、こすったのか目元が少し晴れている。テレーズと手をつなぐルシルは心配そうな表情をしている。
テレーズはそのままモモとメグリの間に歩いてきて、手に持った花をそえた。
「この花、アグラパ様が生まれたところにも咲いてて、好きだったんだって。なにか相談事がある人は供えることなってるんだ。……名前、なんだっけな? でも、セヴリちゃんがスロノレア? にしか咲いてない珍しい花って言ってた」
「私の国にも、似たような花が咲いてるんだよ」
「えっ。すごい! じゃあアグラパ様はメグリさんの国から来たのかな」
「どうかな。そうかもね」
ありえない話ではないと思う。メグリ達はモモ曰く、裏口からこちらの世界に来たが、これもモモの言いぶりだが、正規ルートなるものもあるらしい。
常元虫なども、元いた世界から何かの拍子に来てしまい、適応してしまったということかもしれない。
テレーズはすごい! と軽く飛び跳ね、顔を輝かせて墓の裏に回った。
「もしかして、ここに書いてある文字の意味わかる!?」
「裏?」
メグリが墓石の裏に周り、よく見えるようにしゃがみ込んだ。
モモも後についてきて、メグリの両肩に手を載せ、上から墓石を覗き込む。
なにか、文字が刻まれていたことはわかるのだが、面よりひどく風化していて、読み取ることは出来なかった。
「……ちょっとわからないな……モモ、わかるか」
モモに場所を譲り、モモもじっと眺めていたが、わからず諦めたようだ。
「うーん。さっぱりですね」
テレーズは少しだけ残念がるように、笑顔を見せた。
「そっかぁ。残念」
「ごめんね。期待にそえなくて」
「ううん! 調べてくれてありがとう。私、ずっと気になってたんだ」
そのあと、正面に戻り、テレーズとルシルに習って四人で墓参りを行う。
祈りの方式はリアエナ教と一緒だった。
ジスランが弁明していた通り、アグラパ様自体は信仰の対象ではなく、『アグラパ様への相談』を通じて考えを整理したり、テレーズの母のようにブギーマン、あるいはそれこそなまはげのように、しつけの時の装置として扱っている物に近いのだろう。
「メグリさん。お墓参りしたけど、これでいいのかな? 次はどうする?」
テレーズが話しかけてくれるようになって、メグリはああ仲良くしてくれる子が出来てよかったと、しみじみとした。
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