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最後のとどめはあなたの牙で  作者: くびわつき
頭が先か胴(はら)が先か
22/25

朝の村1

 メグリは宿の戸を引いて外に出た。

 先程は、朝露で濡れた泥と草の匂いだったが、日が出たことで乾き、舞い上がる土の匂いに変わっていた。遠くからかすかにパンと気の燃える匂いが香る。


 メグリ以外の三人は入り口の前で待っていた。ルシルはモモと手をつないでいたが、モモの顔をじーっと見上げて、ぽそりと言った。


「モモ様、きれい」


 ぎゅるんとモモの顔がルシルに向けられる。勢いがあってホラー映画の首のまわし方のようだ。


「うれしい! 近くで見ます?」


 いうやいなや、モモはルシルを抱え上げた。ルシルは、目の上がキラキラしてるとまじまじとモモの目を見る。


「それ私も気になってた。目がすごいキラキラしてる」


 テレーズもモモの顔を見上げながら言った。

 触角より先にそちらに注目が行くのだな、と興味深く思う。

 モモは強い色やラメが似合うので、目立たせたいポイントを上手く強調できたということかもしれない。


 そうでしょうそうでしょうと、モモはルシルをテレーズの近くに下ろす。


「うふふ。どうです? わたくし、きれい? かっこいい?」


 軽く膝を曲げて目線が二人と合うように落として、モモはあざとく、首をかしげた。

 どちらかというとかわいいムーブだなと思ったが、ほとんど誘導尋問だったし、子どもたちは素直だった。


「きれい!」

「かっこいい!」

「ありがとー! 二人もすごくかわいいですよー!」


 モモは二人をまとめて抱きしめ、抱きしめられた二人からきゃーと声が上がる。モモのこういうあけすけなところは真似できないなと思うし、羨ましさもある。

 二人を抱きしめたモモが、煽るような表情でメグリを見た。指切りへの軽いあてつけなのかもしれない。

 メグリはモモを相手にせず、目的地の一つへの案内を頼むことにする。


「二人共、アグラパ様のお墓知ってる?」


 モモから開放された、ルシルが頷いた。


「最初にそこに連れていってくれる?」

「いいよ!」


 テレーズが先に歩きだし、メグリと、手をつないだモモとルシルがついていく形になる。


 そういえば、アグラパ様のことについて、セヴリという女性から、詳しい話を聞かせてもらえるということになっていたはずだ。

 メグリは昨日のセヴリの両手握手が、強く印象に残っている。


「セヴリさんって今日は村に居るのかな? いつもどこに居るかわかる?」

「次のアグラパ様のお祭りの準備で今は村にいるから、セヴリちゃん、大体家か、広場とかその周りのお店に居るよ」


 テレーズが歩きながら首だけ、振り答えてくれる。


「お祭り、近いのですか?」


 お祭り、という単語でモモが食いついた。とにかく飲んで騒いでが好きなので残念に思っていそうだ。というか、露骨にそのような顔をしている。もう少し後に来ればよかったと思っているのだろう。


「うん。来月」

「くぁー。そうですかー」


 モモは、テレーズにお酒とか羊や豚とか焼き菓子を出す屋台もあるよと教えられ、この世の終わりのような表情になる。さっき、それこそ焼き菓子を食ったばかりだろう。


 歩いている方向に、メグリは覚えがあった。今朝、鍛錬に歩いた教会がある方向だ。

 そういえば、他の墓地と場所が別れているとは聞いていない。共同墓地に収められていることも十分ある。教会と、簡単な集会場所の機能を兼ね備える墓地は、近くに立てられていることが多い。

 心の準備と打ち合わせが出来ていないので、司祭と出会いませんようにとメグリは心の中で誰かに祈った。


「あと、りんごのシードルもでるんだよ。私は今年から飲めるの」

「いいなぁ。おねーちゃん」


 いいでしょー、腕を後ろで組んだテレーズは、自慢気にルシルに応じて、でもね、とメグリとモモに心配そうな顔を見せた。


「なんかセヴリちゃん、今年は大変そう。森に怪物が出たっていうからかも」


 怪物という単語にルシルも顔を曇らせ、モモの手ををぎゅっと握った。


「おまつりなくなっちゃうのかな……」


 モモはルシルを安心させるように、お祭り、ありますよ。と優しい声で言った。


「わたくしとメグリがさくっと倒しちゃいますから」

「「かっこいい……」」


 こともなげに言ったモモに、テレーズとルシルが目を見開いた。モモはわたくしもシードルが飲みたいですからね。とテレーズと笑い、ずるいな……と呟いたルシルには一緒にお肉とお菓子食べましょうね! と頭をなでた。


 メグリはまた勝手な約束を……と思いもしたが、こちらの世界で、村の祭りは経験したことがなかった。ヤーリの村は町並みこそ洋風なのだが、メグリの幼少時にいた村の規模感と雰囲気が近いように思う。


 報酬をもらった後の予定は特に無い。若干の余裕もあるし、一月、二月ほどはブラブラしていても良さそうだ。

 温泉地に興味があるので、クラフトレアに向かうとして、道中でまたヤーリの村に寄るというのはちょうどよいかもしれない。

 

 モモとルシルは好きな食べ物の教えあいで盛り上がっている。メグリは話しやすいようにテレーズに近づいた。


「セヴリさんについて教えてくれないかな? 今日、お話を聞くかもしれないんだけど、どんな人か知っておきたいから」


 テレーズはくるりとこちらに向き直って、後ろ向きのまま歩き始める。


「セヴリちゃんはね。私がルシルよりちょっと大きいくらいだった頃から、村に来ていろいろやってる人。森のセイタイケイのチョウサ? とかこのあたりの言い伝えを調べる? とか最初やってたんだって。最近はお父さんの仕事とかを手伝ってるみたい」

「いろいろやってるんだね」

「そう! セヴリちゃんなんでも知っててすごいんだよ」


 それで、どんなひとかっていうとねとつないだテレーズだったが、後の言葉出ず、首をひねり、向かう方向の正面に向き直った。歩みが遅くなり、三人と並ぶ。ついには頭を抱えて、難しいなーと考え込んでしまった。


 想像以上に悩ませてしまったため、少し申し訳なくなり、メグリは手のひらで喉の横をなでる。視線を落としてしまったテレーズが転んでしまわないよう、道の先を確認もする。


 メグリが見た教会と、その道を挟んだ側向いに木の柵で囲われた空間が見えてきた。あの教会の裏側が朝に鍛錬を行ったところだろう。メグリは、裏道を歩いていたんだなと脳内で位置情報を整理する。


 モモとルシルもなやむテレーズが気になったようで、グルメ談義をやめて、ルシルに注目していた。


 ようやく、テレーズは答えが出たようだ。顔を上げ、静かに、そうかと呟いた。



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