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前段と後段で時系列が違います。◇◇◇の上と下で、現在と過去を分けて書いています。

読みずらかったらごめんなさい。

~現在、クルツの視点。大神官がやってきた~


 僕の手紙に、最後に反応があったのは、大神殿のジル様だった。

 僕が初めに手紙を送ってから時間がかかったのは、調整が色々あったからだと思う。


「まずはシーファの顔を見なくてはと思ってね」


 荘厳な作りの馬車からゆったりと降りてきたジル様が、出迎えた僕たちに手を広げた。


「あぁ、子どもたち、元気そうで良かった…!」


「ジル様っ!」


 シーファがジル様の元に駆け寄り、その胸に飛び込んだ。僕も釣られそうになったけど、もう小さな子どもじゃない。グッと足を踏ん張って耐えた。


「シーファ。クルツからの手紙を読んで、胸が潰れるかと思ったよ。すまない、私があの馬鹿どもなんかにお前を託してしまったのがそもそもの間違いだった。苦労を掛けたなぁ…」


 ジル様が優しくシーファの頭を撫でる。祖父が孫に接するときの様な慈愛のこもった手に、シーファは安心しきった顔をしていた。


「クルツ。すまなかった。私が王家に任せた方が、シーファは幸せになると思ったばかりに…」


「ジル様のせいではありません。それに、これからは僕がちゃんとシーファを守りますから!」


 僕はジル様に首を振った。ジル様のせいであるはずがない。まさかローザン王国が聖女にあんな事するなんて思う筈、無いじゃないか。


「我らも及ばずながら力になりましょう」


 アルフが僕の横でしっかりと頷く。頼る気はないけど、ネール国にいる限りはアルフの力も借りることになるだろう。アルフは聖女の肩書き関係なく、シーファを気に入っている様で僕はちょっと困っている。シーファはニコニコとアルフの誘いを上手く躱しているけどね。さすが、王太子妃教育を受けただけはある。成長してるなぁ。


「あぁ、ここではまだ、お互いに正式な名乗りはやめておきましょう。彼の国に、大神殿と貴方の国が結託していたなどと、余計な勘ぐりをされたくない」


 ジル様が穏やかにそう仰った。だがアルフに向ける目線は厳しい。シーファへのローザン王国の仕打ちに、警戒心を強めているみたいだ。同じ轍を踏むわけには行かないからね。


「本当なら、大神殿に連れ帰りたいところだが…。シーファはクルツの元が良いのだろう?クルツは頼れる兄だからなぁ」


 僕にチラリと目線を向け、ジル様は残念そうに首を振る。シーファはニコリと笑って首肯した。


「クルツ。せめてモジス国へ移らないか?あの国ならばシンツ神への信仰が厚く安心だ。シーファを害そうなどと思う者はおるまい」


「我が国も敬虔なシンツ神教徒です!」


 アルフが叫ぶが、ジル様の言う事も分かる。大神殿を擁するモジス国は、シンツ神への信心が殊の外厚い国なのだ。誰もがシンツ神と大神殿への敬意を持ち、聖女のシーファも厚遇される。僕も駆け出しの頃はモジス国にとてもお世話になった。僕を冒険者として育ててくれたのはあの国だもの。

 でも、シーファと別れてからの3年。僕はこのネール王国で生活して来た。いずれシーファと完全な別れが来る時に備えて、僕は僕の人生を歩む為に、冒険者としての拠点をこの国に決めたのだ。だから愛着があるし、沢山の信頼できる仲間もいる。


 僕は少し考えて、ジル様にそっと頭を下げた。


「お申し出は有難いんですが、もう少しこの国に居ようと思います。家も買ったばかりですし」


 執事のアンダールをはじめとする使用人さんたちも、僕とシーファのために一生懸命働いてくれている。そのお陰で、シーファは心安らかに過ごせている。僕は彼らに報いたいし、主人として、守る義務もある。


「そうか、この家を買ったんだったね。それでは無理には誘えないなぁ」


 ジル様は僕の家を見上げて、少し寂しそうな顔をする。うぅ、僕はジル様のそのお顔にとても弱い。さっきまでネール王国で生きていこうと決意してたのに、罪悪感が…。


「そ、そうだ!モジス国にも家を買います!そうすれば、いつでも里帰り出来ますし!」


 僕の提案に、ジル様は目を見張った。アルフの顔が恐ろし気に歪んだが、シーファだってジル様に自由に会いに行けるから良いじゃないか。


「モジス国にも家をかい?大丈夫なのか?」


「はいっ!アーツさんならモジス国での家探しを手伝ってもらえると思いますから!」


 元々、アーツさんは僕らがモジス国に戻る事を強く勧めていたしね。モジス国に本店があるから、アーツさんはモジス国にいる事の方が多いしなぁ。


「いや、そう言う意味じゃなくてね。こんな大きなお屋敷を買ったばかりなのに…。あぁ、いや、クルツなら大丈夫か…」


「はいっ!冒険者でもらった報酬は殆ど使っていないので、大丈夫です!」


「そうか。そうだねぇ、クルツだもの。この程度の屋敷なら買えてしまうだろうね…」


 何故か疲れた様子のジル様を、慌てて家の中に案内する。長旅だったはずだもの、お疲れだよなぁ。


「クルツ、後で大事な話がある…」


 悪鬼の表情のアルフにがっしりと肩を掴まれた。あれ?


 それから僕は、アルフにしつこいぐらいに散々、僕とシーファが籍を置くのはネール王国である事を、念押しされたのだった。本当に、しつこかった。


◇◇◇


~クルツの回想。大神官ジル様の到着、数日前〜


  初めての対面から、僕の心配をよそに、シーファとアルフはどんどん仲良くなっていった。


「また来たの…」


「そう邪険にするな、お義兄様。シーファが読みたいと言っていた本を持ってきたんだ」


 アルフはほぼ毎日、仕事の合間を縫ってシーファに会いにくる。どうしても抜けられない日は、心尽くしの謝罪の手紙と花を贈ってくる。なんてマメな奴なんだろう。そしていつの間にか、シーファを呼び捨てにしているし。


 でも今のところ、シーファはアルフをお友達以上には思っていないようだ。アルフの身分が、一線を引いている理由だと思うけどね。


「今日はね、ジル様から手紙が届いたんだ」


 僕が大神殿の透かしの入った封筒を見せると、アルフは真面目な面持ちになった。


「ウチにも届いたぞ。大神官様がいらっしゃるようだな。親父とお袋がお迎えの準備をしている」


「ジル様、僕の家に滞在したいって書いてあったけど」


「そんな訳に行くか!シンツ教の大重鎮だぞ?国賓なんだぞ?」


「久しぶりに僕の作ったボーのシチューが食べたいって」


「あれは確かにすこぶる絶品だが、警備上の問題があるだろうが!」


「えー?でも大神殿も警備らしい警備ってなかったし。ウチでもいいんじゃない?」


「あそこは浄化の結界が張られているんだ。邪な心を持つ者は入れないようになっている」


 へぇ。知らなかった。だからあんな獲物がウヨウヨいる山の中なのに大神殿の中は安全だったんだ。


「じゃあシーファにウチにも結界を張って貰おう!それなら大丈夫だよね?もうすっかり元気だし」


 シーファは数日前に床上げをした。元気になった途端、シーファの浄化の力?というものが、シーファの部屋だけでなく家と敷地内に広がってしまった。ネール王国のシンツ教会の人達が、浄化の力が有難いって毎日礼拝に来るのでちょっと困っている。ウチは教会じゃないから祈る場所がないんだよね。敷地内に礼拝所を作ろうかと、アンダールと相談中だ。


「シーファの負担にならないか?まだ病み上がりだろう」


「えー、元気だよ?」


 元気を持て余しすぎて、シーファは使用人さん達に混じって掃除や炊事をしようとしているが、皆さんから涙目で止められている。幼い頃から聖女の修行や妃教育で忙しくしていたので、ジッとしているのが落ち着かないらしい。


「暇なら狩りにでも連れて行こうかな」


「断固反対だ!お前の狩りは危険すぎる!ボーなんて凶悪なものを気軽にヒョイヒョイ狩る男に、シーファを預けられるかぁ!」


「預けられるかって、シーファは僕の妹なんだけど。アルフの妹じゃないんだよ?」


 勝手に保護者を代わらないで欲しいな。


「俺はシーファを守るが兄になるつもりはない」


 真面目な顔で言うアルフに、僕は目を細めた。ふぅん。兄じゃなくて何になるつもりかなぁ?


「そうだね!シーファも言ってたよ。この国に来て、ユリア様やアルフみたいな素敵な()()が2人も出来て嬉しいって!」


「くっ、ゆ、友人っ…」


 ショックを受けるアルフに、僕は内心舌を出した。

 アルフは良い奴だけど、可愛いシーファを任せるには、まだまだ早いからね。



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