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前段と後段で時系列が違います。

◇◇◇の上と下で、それぞれお話が続いているはず。

読みづらかったらごめんなさい。

〜現在、クルツの視点。長期依頼の成果〜


「クルツ様、本当に申し訳ありません。全部私のせいですわ…」


 ガックリと落ち込んでいるのは、ユリア様。項垂れているせいで、キラキラした長い金の髪が乱れて、謝罪を繰り返す声は震えている。


「私のためにクルツ様が長期依頼を受けたせいで、聖女様の窮状に気づけなかったなんて…」


「シーファの事はユリア様のせいじゃないですよ?そんなに謝らないでください」


 先程、我が家にいらっしゃるなり、ユリア様は土下座して「申し訳ありませんっ!!」と僕に謝ってきた。土下座なんてしていい身分の人じゃないのに!

 僕は焦り過ぎてユリア様を抱き上げ、横抱きのままソファまで運んだ。軽過ぎて柔らかくていい匂いがして、頭がおかしくなるかと思った。運んだ後に真っ赤になっているユリア様を見て、やらかした事に気づき、土下座し返した。女性を抱き上げるなんて、訴えられても仕方のない事をしてしまった。

 ちなみに、ユリア様と一緒に来ていたアルフは、ずっと爆笑していた。お前も笑ってないで止めろよ。

 

 ユリア様はアルフの妹だ。僕が長期依頼を受け、アルフと知り合うきっかけになった人でもあるが、それがシーファの窮状に繋がるなんて、誰が予測できただろう。まさかあんな風に聖女を蔑ろにする国があるなんて思わないだろうし。


「まあしかし、あの依頼はクルツがいないと達成できるものでもなかったし、お前の命も懸かっていた。今回はタイミングが悪かったとしか言えんだろう」


 アルフが肩をすくめて言うのに、僕は全力で頷く。


 長期依頼は、ユリア様の薬に必要な素材を取るため、ネール王国から20日ほどかかる場所にあるダンジョンに潜ったからだった。ダンジョンを攻略しないと得られない素材だったので、最下層に行くまでも結構時間が掛かった。アルフとはこの依頼で初めて会ったのだけど、気さくで大らかな性格だったので、身分の差に関わらず友人になってしまった。最初は敬語と敬称を付けて接していたのに、3日ぐらいで「煩わしい」と止めさせられた。不敬罪などと無粋な事は言わないから、普通に話せと。

 移動とダンジョン攻略で3ヶ月近くシーファからの連絡を受ける事が出来なかった。その間に、シーファは虐げられたのだ。


「クルツ様、シーファ様のお支度が整いました」


 執事のアンダールさんの言葉に、アルフとユリア様に緊張感が漂った。


「ありがとう、アンダールさん」


「クルツ様、私の事は呼び捨てにする様、申し上げたはずです」


 ピクリとアンダールさんの眉が僅かに動く。うっ、忘れてた。僕の父さんぐらいの年齢の人を呼び捨てなんて慣れないんだけど、アンダールさんは絶対に折れてくれない。主人と使用人の示しがつかないと言って。


「う、うん、わかったよアンダールさ、アンダール」


 自分でもカクカクした声になったと分かったが、慣れるまでしょうがない。アルフもユリア様も苦笑していた。


「アルフ、ユリア様。本来ならシーファからご挨拶しなきゃいけないんだけど、まだベッドから起き上がるぐらいまでしか回復してなくて…」


「我々が無理に押しかけたのだ。シーファ様に負担のないようにしてくれて構わない。お会いできるだけで僥倖だ」


 アルフの言葉にホッとした。あれから半月経って、漸くシーファもベッドの上なら起き上がれるようになった。ガリガリだった身体も、アーツさんが毎日せっせとシーファの好物や滋養にいい食べ物を持ってきてくれるので、元のシーファに戻りつつある。使用人達もシーファをまるで幼子の様に可愛がり、過保護に世話してくれるので、シーファの人間不信も改善しつつあった。


「シーファ。兄ちゃんのお友達が見舞いに来てくれたぞ」


 シーファが緊張しないように、アルフから2人の身分は伏せて紹介して欲しいと頼まれている。勘のいいシーファの事だから、すぐに気づいちゃそうだけど。


「初めまして。クルツの妹のシーファと申します。この様な不作法な姿で申し訳ありません」


 シーファはベッドの上だけど、柔らかな素材のワンピースを着て、髪も侍女さん達が張り切ってお手入れをしているのでツヤツヤキラキラだ。顔の血色も良くなって、兄の贔屓目かもしれないけど、すっごく可愛い。


 アルフとユリア様は、ベッドの上のシーファに驚いたのか、一瞬、立ち尽くしていた。いち早くユリア様が気を取り直し、シーファに笑顔を向けた。


「まぁ、その様な事、お気になさらないで。私、ユリアと申します。シーファ様の一つ上の16歳です。仲良くしてくださったら嬉しいわ」


 ユリア様がベッドの側の椅子に掛けた。シーファは親し気なユリアに少し驚きながら、小さく笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。こちらでは殆ど知り合いが居ませんので、嬉しいです」


「この国の名物のラングの実をお土産に持ってきたのだけど、お好きかしら?他の国でも評判の果物ですのよ?」


「あ、はい。甘くて少し酸っぱくて。食べやすくて美味しかったです!」


「まあ、良かった。ラングの実を使ったケーキも美味しくてよ。王都にある洋菓子店で最近評判でね…」


 ユリア様とシーファがどんどん仲良くなっていくのを眺めていると、僕の横に立っていたアルフが深いため息をついた。


「凄いな…」


「そうだね。女の子ってすぐ仲良くなれるもんなんだね」


「…違うっ!お前は何も感じないのか?シーファ様の周りの空気が、浄化されている。この部屋は高位の神官が浄化魔法を施したような清々しさに満ちていて、下級の魔物などこれだけで消滅するだろう」


「そう…?」


 言われてみれば、シーファの部屋はモジス国の大神殿の様な気持ちよさがある。使用人の皆さんが一生懸命お掃除してくれているお陰だと思っていた。


「まだ本調子でいらっしゃらないのにこの威力。凄いな。そして、何よりも清らかでお美しくていらっしゃる…」


 アルフの顔に赤味が差して、紫の瞳が潤む。見たことの無いアルフの表情に、僕はちょっと戸惑った。


「僕まだシーファの新しい縁談は、受けるつもりないから」


「つれないな、お義兄様」


「そっの、冗談、本当にやめて?」


「冗談ではない。漠然と考えていた事だが、お会いして完全に心が決まった。一目惚れだ。覚悟はしていてくれ」


 全く冗談ではない様子のアルフに、僕の背中に嫌な汗が流れる。あの顔は本気だよ。


「シ、シーファの気持ちが一番だからね?シーファが嫌がったら、僕は断固反対するよ?!」


 前は流されるままに婚約を許しちゃったけど、その結果は酷いモノだった。

 僕の決意を、アルフは悪い顔で受け流す。うわぁ、嫌な感じ。シーファに念入りにアルフには気をつける様に言っておかなきゃ。まぁシーファは、もう婚約とか結婚は懲り懲りだって言っていたから、大丈夫だと思うけど…。




◇◇◇


 クルツの回想〜アルフとの出会い、長期依頼の理由


 緊急依頼の連絡が入り、僕は急いでギルドに向かった。

 ギルド長の執務室に通され、物々しい雰囲気の中依頼されたのは、難易度Sクラスのダンジョン攻略だった。執務室内にいたのは知り合いのA級冒険者グループ『暴風』と、高位貴族っぽい綺麗な顔の男性だった。綺麗な顔の人はどこかで見たことがあるような気がする…。

 

「サナリアのダンジョンですか」


「うむ。そやつらに頼もうかと思ったのだが、無理だと言われてなぁ」


 ギルド長は苦虫を噛み潰した様な顔で『暴風』のメンバー相手に愚痴るが、あのダンジョンは確かに『暴風』向きではないと思う。あそこに出る魔物は魔法耐性が強く、また、甲虫類の魔物もいるため、甲羅に剣が通らない。『暴風』は攻守のバランスが良いパーティーだが、ちょっと火力不足は否めない。


「合同パーティーも考えたが、今は『暴風』ほどのパーティーは空きがなくての。人手をあまり増やすとこちらの依頼主の意に沿わんし…」


 綺麗な顔の男の人は依頼主のようだ。随分強そうな護衛の人もいるから、凄く身分の高い人なんだろうな。


「俺たちは、2週間後に別の依頼を受けている。この依頼を受けたらそちらが間に合わない」


 確かに。サナリアのダンジョンはここからだいぶ離れている。移動だけで大変だもの。


「そうですか。僕は今、特に何の依頼も受けていませんから、構わないですよ」


 サナリアのダンジョンには行ったこともあるしね。


「ならば、クルツに頼むか。宜しいですかな?」


 ギルド長は依頼主に確認する。依頼主は頷いて、僕に視線を向けてきた。


「ギルド長の推薦があるなら構わない。それで、君のパーティーメンバーはあと何人ぐらいいるんだ?」


「僕はソロですけど」


 僕の言葉に、依頼主は目を見開いた。綺麗な紫の目だ。珍しい色だな。


「では、今から他のメンバーを募るのか?いつ頃集まる?急ぎの依頼だ、すぐにでも出発したい」


「サナリアのダンジョンですよね?僕一人で潜る予定ですけど」


「一人?難易度S級のダンジョン攻略だぞ?狙いはボス部屋の『落日草』だぞ?」


「はい、大丈夫です。以前に二度、単独攻略していますので」


 そっか。あの最後の部屋の『落日草』が必要なんだ。前に攻略した時のものは全部売っちゃったからなぁ。希少な薬草らしく、薬師さんたちが喜んで引き取ってくれるんだよね。


「サナリアのダンジョンを単独攻略だと?しかも二度も?」


 依頼主がギルド長と『暴風』のメンバーに信じられないと言った目を向ける。ギルド長と『暴風』のメンバーは、揃って凪いだ目で依頼主に頷く。


「クルツですから」


「うん、クルツなら、それぐらいは出来るな」


 僕は立ち上がり、早速ダンジョンへ向かうことにした。


「じゃあ、行ってきます」


「待たんか!依頼内容と依頼料の確認と依頼受領の手続きが必要だろうが!お主はなんでそう大事な事をすぐに忘れるんだ!!」


「すいませんっ」


 ギルド長に怒鳴られた。またやってしまった。手続きとか苦手なんだよなぁ。


「待てっ!本当に大丈夫なのか?ギルド長の推薦を疑う訳ではないが、やはり一人というのは…。分かった、私も同行する」


「はい?あ、護衛依頼も兼ねていると言うことですか?」


 サナリアのダンジョンなら、護衛をしながらでも大丈夫だけど…。


「護衛じゃない、私もA級冒険者だ。共にダンジョンに潜るつもりだ」


「はぁ…」


 つまり臨時パーティを組むって事かな。別にいいけどね。

 あの後、『暴風』のメンバーには退室してもらい、依頼主、アルフ様に依頼内容を詳しく聞いた。アルフ様の妹さんが重い『ジグタリ病』にかかってしまったそうだ。『ジグタリ病』は水で媒介される伝染病だ。北の街で流行り始めた時に、治癒魔法の得意な妹さんが現地で治療をおこなっていたところ感染してしまったらしい。軽症だと魔法で治るが、重症化すると『落日草』を使った万能薬じゃないと治らない。

 妹さんが重症化した事はもとより、感染した事も極秘事項となっているらしい。依頼料も特急、重要、機密、扱いなので凄く高かった。こんなに貰っていいのかな?


 僕とアルフ様と護衛さん達数名は、早速サナリアのダンジョンに向かった。どんなに急いでもここから20日は掛かる。妹さんは魔法で病気の進行を抑えているけど、限度があるから急ぐに越した事はない。

 ダンジョン攻略中、アルフ様いや、途中で呼び捨てにしろって言われたからアルフ、から、走りながら魔物を踏み潰すなとか、広範囲魔法を連発するなとか、寝ないで夜通し討伐するなとか色々と文句を言われたけど、これまでの攻略最短記録を更新したからチャラだよね。『落日草』もボス部屋を数回攻略して、万能薬50人分ぐらいの量を採取したから、怒られる必要はないと思うんだけど。


 依頼を終わらせて戻ったその日から、僕の冒険者としての二つ名が、『非常識の塊のルーキー』から『非常識の塊の英雄』に変わった。違いがよく分からないけど、中堅ぐらいにはなれたって事かな?でも、いくら書類仕事が苦手だからって、非常識の塊呼ばわりは酷いよね。


 僕が移動も含めて3ヶ月に渡る長期依頼を受けている間、シーファとは連絡は取れなかった。その間に、あの馬鹿馬鹿しい断罪劇は起きてしまったのだ。

 






残り5話は本日中に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告に書くにはなんと書いていいのかわからなくて アルフ兄妹シーファを見舞いに来たところで 「情れないな、お義兄様」 ですが、話の流れから、情けないな、ではなさそうですし。 気になっ…
[気になる点] どこかに現在B級??
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