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前段と後段で時系列が違います。◇◇◇の上と下で、現在と過去を分けて書いています。

読みづらかったらごめんなさい。

〜現在、クルツの視点。アーツの反応〜


 次に僕の手紙に反応があったのは、商人のアーツさんだ。アルフの次の日にはやってきた。モジス国からにしては随分と早いなぁ。


「クルツ様っ!!シーファ様はっ?」


 両手に沢山の荷物を持った従業員さんも一緒に宿屋に雪崩れ込んできたから、また女将さんに怒られた。


「あ、アーツさん。お久しぶりです。お元気でしたか?」


「そんな事より、シーファ様はっ??滋養に良いものを沢山お持ちしました。お召し物や小物などもっ!!」


「ありがとうございます。シーファは昨日から僕の家に移動させましたので、そちらに行きましょう」


 昨日はアルフに紹介してもらって、シーファと住む家を用意した。アルフは自分の家に連れて行きたかったみたいだけど、せめてシーファが元気になるまでは、静かな生活をさせてあげたい。アルフの所は、礼儀だマナーだとそんなに煩く無いけど、人の出入りが多いからね。


 僕はアーツさんを連れて家に帰った。アーツさんは荷馬車を5台も引き連れている。すごい荷物だなぁ。聞いたら全部シーファのために準備したものだって。

 僕の買った家は3階建ての大きな家だ。アルフに勧められて大き過ぎると断ろうとしたけど、これぐらいの家じゃなきゃシーファの静養先としては認められないと怒られた。大きな庭や敷地内に森もある。

 前の持ち主はさる大貴族なんだけど、息子さんに後を譲って領地に帰るんだって。この家は老夫婦のセカンドハウスとして偶に利用してたけど、息子夫婦は別のセカンドハウスを建築中なので、こちらは売る事にしたそうだ。お金持ちって凄いな。

 

 よろしければ雇人もそのままどうぞと言われたので、お言葉に甘えてそのまま働いてもらう事にした。僕だけじゃ、この家を維持するのは大変だもの。執事さんを始めとする20人ほどの使用人さん達。皆さん、有能で朗らかな人ばかりだ。平民の僕が雇い主でも構わないと仰ってくれたので、とても有難い。アルフには『聖女の兄で英雄の屋敷だぞ。働きたがる使用人など星の数ほどいるだろ』と言われたけど、聖女ってやっぱりすごいんだな。


 アーツさんの持ってきてくれた物はとても役に立った。シーファは全然服がなかったし、家具などの調度品も揃ってなかった。足りない物はアーツさんと執事さん、女中頭さんが相談してどんどん買い揃えてくれる。凄いや。助かるなぁ。女の子の服や家具なんて、僕には全くわからないもの。シーファは何でもいいわって笑うだけだし。

 ついでに僕の服も増やされた。僕の服なんて、シャツとズボンと下着が3着あれば着回せるけど、必要なのかなって言ったら、執事さんに凄く怒られて、仕立て屋さんを呼ばれたよ。


 久しぶりにシーファと会ったアーツさんは、シーファの姿を一目見るなり泣き出した。モジス国ではシーファを娘のように可愛がってくれてた人だからね。シーファの細くなった腕を撫でて、悔し泣きしてた。こんな目に遭わせるために、ローザン王国に送り出したんじゃないって。僕も同感だよ。


 シーファはアーツさんに会えて嬉しそうだった。表情が、昔のように緩んでいる。シーファは今、少し人間不信気味だ。無理もない、親しいと思っていた友人達に、手のひら返しをされて石を投げ付けられたんだもの。でもアーツさんは信用しているみたいだ。アーツの小父様って、嬉しそうに呼んでいる。


 シーファが疲れたようなので、休ませるために部屋を出た。

アーツさんと黙ってお茶を飲む。アーツさんは拳を握り締めて、何か考え込んでいるようだった。


「クルツ様。私、ローザン王国から支店を引き揚げます」


「えっ!」


「聖女を蔑ろにする国に、この先、未来などありませんよ」


「でも、ローザン王国はマール・ガーダー侯爵令嬢を新たな聖女としています。ローザン王国のシンツ教会もそれを認めたと」


「あの国は勘違いしています。聖女をお決めになるのはシンツ神様であり、その御言葉を賜われるのは大神殿の神官長のみ。一介の神官にその様な権限はございません。仮令国王であろうとも、大神官の言葉を覆すなど出来やしないんです。モジス国は勿論の事、他国だって認めませんよ。遅かれ早かれ、ローザン王国は他国から見捨てられます。その前に引き揚げるのです」


 アーツさんはフンっと鼻息荒く言ってるけど、大丈夫かな。ローザン王国から支店を引き揚げたら、結構な損失になるのではないか。


「ハッハッハッ。私があの国に支店を開いたのは、聖女様がいらしたからですよ。それでなければ、閉鎖的で権威主義のあの国など、商売の場には選びません。税も高いですしなぁ」


 笑っているのにちっとも楽しそうじゃない。なんだか、うん、怖いなぁ。

 大体、アーツさんとこの大商会がローザン王国から引き揚げたら、他の商会も引き揚げちゃうんじゃないだろうか。アーツ商会は今や支店を10も持つ、大商会だ。その影響力は強い。


「私ら商人のネットワークは、侮れないもんですよ。相手が国だろうと関係ありませんや」


 相当、怒っているみたいだね。そっちの方面は、アーツさんに任せておこうかな。




◇◇◇


〜クルツの回想。商人、アーツとの出会い〜


 僕がアーツさんと出会ったのは、まだモジス国にいる時だった。アーツさんはまだ獣道しかない大神殿に物資や手紙を届ける商人だったのだ。

 大神殿への道行は、冒険者を雇わなければならないし、運ぶ物資は食料や日用品だ。儲けなんて殆どないけど、アーツさんは若い頃からずっとこの仕事を請け負ってきたらしい。彼は熱心なシンツ教徒でもあり、ジル様に駆け出しの商人の頃にこの仕事をもらって、安定した収入を得る事ができ、商人として一人前になれた事をとても恩義に感じていた。モジス国の首都で小さな店を持っていたアーツさんは、月に一度、わざわざ麓の村まで通っていた。

 僕は大神殿への道を拓くとき、アーツさんにも色々相談させてもらった。やっぱり頻繁に通う人の意見は大事だ。馬車がすれ違うぐらいの広さ、迷わないための標識、途中の休憩所、アーツさんは色々と必要な物を僕に教えてくれて、一緒に街道を作ってくれたのだ。

 開拓の途中ででた獲物の素材や、木材の買取もしてくれた。大神殿のある山はいろいろな種類の獲物が多く、開拓したと言っても山のほんの一部なので、未開拓の部分は獲物が豊富だ。僕は生活費稼ぎと獲物の間引きのために、積極的に狩りをしていた。


 街道が出来上がる頃には、アーツさんは商会の支店を麓の村に開いた。僕が卸した素材は高く買取されるので、支店を持つ余裕ができたんだって。その頃にはアーツさんとは僕の獲物を買い取る専属契約をしていた。色々な商人さんに声を掛けて貰ったけど、やっぱりアーツさん以上に信頼出来る人はいないからね。

 時々、珍しい獲物を狩った時は、アーツさんが遠い目をして「なんでこんなモノが一人で討伐出来るんだ?」とか、「またオークションが荒れる…、警備を増やさなくては」とかブツブツ言ってたけど、結局は笑顔で引き取ってくれるから、本当に助かってたよ。

 シーファもアーツさんによく懐いていた。アーツさんには息子さんが3人居るんだけど、女の子はいないから、娘のように可愛がっていた。シーファも、お土産を持って訪ねてくるアーツさんが大好きだったからね。


 アーツさんとの付き合いは、シーファがローザン王国に行った後も続いていた。僕は拠点をネール王国に置き、冒険者として活動を始めたんだけど、討伐した獲物を引き取って貰ったり、ダンジョンで発見した鉱物やお宝を買い取って貰ったりとしていた。アーツさんは商人や職人に顔が広くて、今僕が使っている武器や防具を作ってくれた職人さんも、アーツさんの紹介だ。ダンジョンで見つけた珍しい鉱物で作って貰った僕の剣と防具は、僕がどんなに無茶をしても壊れないので助かっている。


 シーファには手紙でしかやり取りできなくなっていた。仕方がない事だけど、せめて年に一度ぐらいは会いたかったな。元気な顔を見て安心したかったのもあるけど、やっぱり寂しかった。たった一人の妹だもの。

 でもいずれシーファはハリス王太子と結婚して、ローザン王国の王太子妃に、そして王妃になる。今はまだ学生だから許されている僕との手紙のやり取りも、できなくなるだろう。

 シーファの幸せのためなら、僕はどんな事でも出来る。寂しさぐらい、我慢しなくちゃ。シーファの為に。

 

 僕らの別れの時は、確実に近づいてきていた。



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