特別番外編 僕のアメリ
やっぱハッピーエンドでなくっちゃね☆
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「おいでになったか」
「はい」
ルイスに父王の側近であるセオドアからアメリの父が城に到着した事を告げられた。
「わかった。演習場を用意してくれ」
「殿下!?」
ルイスのその言葉にセオドアの息子であり、ルイスの側近であるパトリスが目を見張った。
「どうせ話し合いでは終わらない。それなら最初から剣を交えた方が合理的だ」
「かしこまりました」
「父さん!?」
ルイスの要望をすんなり受けたセオドアに息子が仰天する。
「王太子が命懸けで求婚者の父に立ち向かうなんて前代未聞ですよ!お考え直しくださいっ!」
パトリスが必死に止めるのをイグリードが笑いながら口を挟んだ。
「まぁまぁ!イイじゃない♪ルイ坊には僕が授けた加護があるんだから、かすり傷一つ付かないよ♪」
「しかしっ……」
尚も言い縋ろうとする息子を制し、
セオドアは「直ちにご用意致します」と告げ、
息子を伴い退室して行った。
後にはルイスとイグリードだけが残される。
「バルちゃん」
「なぁに?ルイ坊」
「頼みがあるんだ」
◇◇◇◇◇
アメリの父親、
国境騎士団副団長セルジオ=ローバンは王城に着くなり、
まずは国王に謁見を申し出た。
本当ならすぐにでも娘の所へ行きたいのだが、この国に仕える騎士として国王に挨拶も無しで勝手に振る舞う事など出来ない。
国王アルジノンはセルジオが王都に来る事は織り込み済みだったらしく、セルジオが訪ねて来たら直ぐに会えるように時間の都合を付けていたようだ。
「国王陛下にあらせられましては大変ご機嫌麗しく、
恐悦至極に存じます。この度は急なお願いにも関わらず……
セルジオが挨拶を続けようとするのをアルジノンは軽く手を上げて制した。
「堅苦しいのは無しだ。久しいなローバン卿。騎士爵の叙爵以来か。相変わらずその武勇は王都にまで聞こえて来ているぞ。そなたのおかげで国境の安寧は安泰だな」
「畏れ入ります。この剣の及ぶ範囲内で尽力させて頂いているだけの事にございます」
「ははは、人外的なものは暇人が請け負ってくれているからな、騎士達はそれでよいのだ。では挨拶はこのくらいにして本題に入ろうか、アメリの事だな?」
アルジノンが告げると、騎士の礼を取りながら会話をしていたセルジオが姿勢を正しつつも国王を仰ぎ見た。
「はい。娘を返して頂きたく参上仕りました」
「ウチの息子が勝手をしてすまんな。夫人はなんと?」
「妻はアメリには必要な通過儀礼だと言っておりました」
「そなたもそう思うか?」
「……はい。
なので殿下にも必要な通過儀礼を乗り越えて頂きます。
それに私に断りもなく勝手に連れ去られたのは得心がいきません」
「ふむ、剣で語り合うか」
「私は騎士ですので」
「王太子は騎士ではないぞ?」
「しかし帯剣している男子です。帯剣をしていない文官なら話は別ですが」
「まぁアイツも覚悟はしているだろう。よかろう、遠慮は要らんぞ。思う存分、叩きのめしてやれ」
「……有り難きお言葉、感謝申し上げます」
そう言ってセルジオはもう一度騎士の礼を執った。
◇◇◇◇◇
報せを受け、ジュリとアメリは急ぎ演習場へと向かっていた。
「意外と早かったわね、あなたのお父様。もしかしてランバード領から王都まで最速記録を更新したんじゃない?」
「父は馬の扱いに長けておりますから……」
そう二人話しながら急ぎ足で歩いている。
「ローバン卿はかなりご立腹でしょうね」
ジュリがそう言うとアメリは慌てた様子を見せた。
「私が父と話しますっ、ルイス様がお怪我でもされたらっ……」
「あの子にはイグリードの加護があるから大丈夫よ……でもその暇人が何やら余計な事を焚きつける前に急ぎましょう」
「は、はいっ……っ王妃様、足がお早いっですねっ……!」
「昔から健脚なのが自慢なのっ!」
アメリも同じランバード領育ちだが、ジュリに付いて行くだけで精一杯である。
そうこうしている間に演習場に着いた。
騎士達が鍛錬のために使う演習場。
そこには既に向かい合い対峙するルイスとセルジオの姿があった。
「ルイス様っ……お父様っ……」
アメリは息を上げながら二人を見る。
「アメリ」
ルイスはアメリの方を見て微笑みながら頷いた。
「ダメです、ルイス様っ……「アメリ」
アメリがルイスを止めようとするのをセルジオが制した。
「アメリ、帰り支度をして来なさい」
「お父様っ、私の話を聞いて下さいっ」
「もちろん聞くよ。でも先に殿下に申し上げたい事が山ほどあってな。それを先に片付ける」
「お父様っ!」
父の元へ駆け寄ろうとするアメリをジュリが止めた。
「今は何を言っても無駄でしょう」
「そうそう♪せっかく絵に描いたような、
“娘が欲しければ俺を倒してからにしろっ”的な展開なんだからさ、見学でもして楽しもうよ☆」
ちゃっかり演習場に来て、観劇モード、もしくはスポーツ観戦モードになっているイグリードがジュリ達に声を掛けた。
そしてパチンと指を鳴らし、ジュリとアメリの手にもジュースとポップコーンを持たせてる。
こいつの魔術の原理はどうなっているのか。
ジュリはため息を吐きながらイグリードに尋ねる。
「ホントにあなたときたらもう……でもその前に、ちゃんとランバードの父にこの状況を伝える手紙を届けてくれたんでしょうね?」
「もちろん届けたよ。ぷっ!ローガンてばさ、ジュリの手紙を眼鏡をかけないと読めなかったんだよ☆老眼=ランバード辺境伯っ……ぷぷぷ☆アイツも歳取ったよね~、あんなに可愛い坊やだったのに」
思い出し笑いをしながらイグリードが答えたその時、セルジオが鞘から剣を抜く音が聞こえた。
「ご無沙汰しております殿下、この度は娘がお世話になったようですね」
「ああ。久しいなローバン卿。遠征ご苦労だった」
「その遠征から帰ると、娘が殿下に連れ去られたというではありませんか。本当に驚きましたよ」
「それについては本当にすまん。焦り過ぎて魔が差したとしか言えん。でも後悔はしていない。ただ手をこまねいてアメリを失うくらいなら、非常識や卑怯者と謗られようとも構わないからな」
「私の怒りを受け止める覚悟はお有りのようですね。無傷ではいられないとご承知の上ですか?」
「無論の事。でも僕もただでやられる訳にはいかないからな、必死に抵抗させてもらうよ」
そう言ってルイスも鞘から剣を抜いた。
「ねぇ、なぜ真剣でやり合わなくてはならないの?模擬刀でいいじゃない」
ジュリが言うとイグリードが答える。
「それだけ二人とも真剣だからね☆それならやはり真剣で戦わないと☆」
「もう!ただのダジャレじゃないっ」
ジュリがイグリードの頬をツネろうとしたその瞬間、剣が交わる音が辺りに響き渡った。
ルイスとセルジオの戦いの火蓋が切って落とされたのである。
例え相手が百戦錬磨の熟練騎士であったとしても、ルイスだって幼い頃からランバード騎士団仕込みの技を研鑽してきた。
王太子にしておくには勿体ないと王宮騎士団長に言わしめるほどの腕前なのだ。
現にセルジオの剣を受け、躱し、間合いに入られないよう注意を払いながら攻撃にも転じている。
しかしやはり体の捌き方や体力の温存の仕方など、戦闘における経験値の差が徐々に浮き彫りになる。
明らかにルイスに疲労の色が見られ始め、手数の上でも圧倒され出した。
「ルイス様っ……!」
アメリが両手を握って震えながら見守る。
ジュリも流石に心配になってきたが、アメリを安心させるために敢えて軽口で告げた。
「大丈夫よ。ルイスにはそこの暇人男が授けてくれたどんな厄災も跳ね除ける加護があるんだもの。大砲だって撥ね除けるらしいわよ?」
しかしジュリのその言葉に、イグリードは無情な事実を突きつけた。
「あぁ、今は加護を外してるんだ。ルイ坊たってのお願いでね☆庇護されながら戦うなんて卑怯だからって、漢だね!ルイ坊♪」
それを聞き、ジュリが驚愕の声を上げる。
「な、な、なんですってぇ!!??」
その時、セルジオの剣をまともに受けたルイスの体勢が大きく崩れた。
ルイスはなんとか持ち直そうとするが、セルジオの次の攻撃の方が早かった。
上段から剣が振り下ろされようとしている。
狙いは肩口だろう。
鎧を身につけているので致命傷にはならないだろうが、それでも無事で済む訳はない。
「ダメっ!!ルイス様っ!!」
アメリの足が、思わず動いていた。
もし怪我だけで済まなかったら?
打ちどころが悪かったら?
大切な、大好きな人を失うなんて耐えられない。
アメリは無意識にルイスとセルジオの間に飛び込み、ルイスに抱きついて庇おうとした。
「「っアメリっ!?」」
咄嗟の事にルイスとセルジオが目を見開く。
セルジオは腕を振り下ろすモーションに入ってしまっている。
ルイスは渾身の力を振り絞ってアメリを腕の中に抱え込み、身を翻した。
セルジオに背を向け、アメリを庇い直したのだ。
「!!」
セルジオの剣が完全に振り下ろされ、ルイスの体が薙ぎ払われる……という事にはならなかった。
セルジオが既のところで剣を止めたのだ。
ルイスは腕の拘束を緩め、アメリが無傷かを確認した。
そして、
「どうして飛び込んで来たんだっ!怪我をしたらどうするんだっ!」
と声を荒げた。
幼い頃からアメリに対し常に優しく穏やかに接して来たルイスの怒声にアメリはビクッとする。
「だって……だって……ルイス様に何かあったら、私は耐えられないものっ、生きてはいけないものっ……!」
アメリの目から涙が溢れる。
「そんなの僕だって一緒だよっ!!キミに何かあったら僕は正気じゃいられないっ!とても生きてはいられないっ!!」
「ルイス様っ……」
ルイスは震えていた。
剣が振り下ろされる刹那、もし身を翻すのが間に合わずアメリの体に剣が当たっていたらと思うと……想像するだけで怖くて堪らず震えが止まらなかった。
「アメリ、アメリ、僕の事を想うなら、頼むから無茶はしないでくれっ……僕は傷付いたキミなど絶対に見たくないし、キミを失うなんて耐えられないっ……」
「ごめんなさい、ルイス様っ……」
二人、互いをしっかりと抱きしめた。
どれだけ相手を大切に、かけがえのない存在として思っているのか、伝え合うように抱きしめ合った。
それをジュリ達は苦笑しながら見守る。
親の前でと言いたいところだが、まぁいいだろう。
セルジオも黙って二人を見守っていた。
アメリが落ち着くのを待って、ルイスは再びセルジオに向き合った。
「ローバン卿、結果はあやふやになってしまったが、僕の負けだ。でも、だからといってアメリを諦めたりはしない。どうか、どうかアメリと結婚させて欲しい、いや結婚させて下さいっ!!」
「いよっ!決まったっ……ふごっ「お黙り」
歓声を上げるイグリードの口をジュリが塞いだ。
アメリも涙を拭いて父に告げた。
「お父様、私も長く迷っていたけどようやく本当の気持ちに気付けました。私もルイス様と結婚したいですっ」
「ローバン卿、頼む!必ずアメリを幸せにする!苦労はさせない!大切にして甘やかして優しくする!だからどうか、結婚を認めて下さいっ!」
セルジオが重い口を開いた。
「……一国の王太子妃に、そしていずれは王妃となる身で、苦労しない訳がないでしょう」
「それはっ……」
ルイスが押し黙る。
イグリードがジュリに尋ねた。
「え~、ジュリは苦労してるようには見えないよね☆どう?ジュリさん、苦労してる?」
「だからお黙りイグリード!……確かに苦労はするけど、夫が支えてくれるからなんて事ないわね。アメリちゃんの事はルイスが死ぬ気で守るでしょう」
「だよネ☆」
アメリは父の手を握った。
長く剣を握ってきた者の手だ。
節くれだち硬くゴツゴツしている。
家族を守ってきた、温かく優しい手。
「お父様……私、頑張ります。ううん、頑張りたいの。ルイス様と一緒にいられるなら、どんな苦労も乗り越えられると思うから」
セルジオは娘の手をそっと包み返した。
「……あんなに、小さな手だったのにな」
「お父様……」
「結婚式までは実家に居なさい。残り少ない日々を家で過ごし、母さまを喜ばせてあげなさい」
「っはいっ……はい、お父様っ……」
「っありがとうございます!ローバン卿っ!!」
「その代わり殿下、娘を泣かせたらその時こそ容赦を致しませんぞ」
セルジオの凄みのある睨みに、ルイスは背筋を伸ばした。
「望むところですっ」
イグリードはジュリの拘束から逃れ、感嘆の声を上げた。
「やったーー!!ハッピーエンドだっー!!」
そう言って、紙吹雪やら、花びらやらを空から降らせる。
見た事もない、羽の生えた小人のような者が一斉に飛び交い鈴の音が鳴るような拍手を贈っている。
もしかしてこれは精霊なのか?
不思議とどこからか、終劇の時に流れるような音楽も聴こえてきた。
イグリードのあまりにも派手な喜びように思わず皆で笑い合う。
イグリードが満面の笑みで皆に言った。
「やっぱハッピーエンドでなくっちゃね☆」
こうしてジュリとアルジノンの嫡子ルイスの、
プロポーズを受けて貰おう大作戦は成功を収めた。
事の顛末を聞いたアルジノンは、
「やれやれ、本当にアイツは怖いくらい俺に似ているな」
と一人言ちたそうだ。
幼い頃からの二人を知る者は喜び、皆一様に安堵した。
アメリはその後、イグリードの転移魔法にて父と共に領地へと帰った。
そして以前はルイスが毎日ランバード領に通っていたように、今度はアメリが毎日転移魔法で妃教育の為に城へと通った。
イグリードは喜んで辻馬車役を引き受けていたそうだ。
そうして一年後、
ルイスとアメリはかつてジュリ達が結婚式を挙げた大聖堂で永遠の愛を誓い合う。
やがて二人の間には一男二女の子どもが生まれ、
その子ども達ともイグリードは仲良く、そして楽しく暮らしたそうだ。
「これぞハッピーエンドだね☆」
おしまい☆
これにて特別番外編も完結です。
オマケの番外編を書くと言っていてなかなか投稿出来ず失礼致しました。
なんとか書く書く詐欺にならずに安堵しております。
久しぶりに大賢者サマにセリフを喋らせて楽しかったです。
これからも他の作品に影だけは匂わすような出方をするんだろうなぁ。
とにもかくにもダイ様いわく、のハッピーエンドですね。
最後までお読み頂きありがとうございました!
キムラましゅろう




