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だから言ったのに!〜婚約者は予言持ち〜  作者: キムラましゅろう


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15/43

約束の日

「え?視察旅行?殿下とオリビア姫が二人で?」


その事をアルジノン殿下の側近のセオドアに告げられたのは夕食の後、お茶を飲んでいる時だった。



セオドアはとても言いにくそうに返事をした。


「……はい。オリビア姫が強く希望されて殿下がそれを了承されました……三泊四日の予定だとの事です」


「そう……。当然わたしは……」


セオドアは一瞬、逡巡してからわたしに言った。


「ジュリ様は残るようにと、殿下からのご伝言です」


「……出発はいつ?」


「来週の金曜日、4月1日となっております」


「わかりました。報告ありがとう、殿下には気をつけて行かれてくださいとお伝えしてね」


「……承知いたしました……ジュリ様っ……!」


「何も言わなくていいわ。こうなる事は最初から

わかっていたと話したでしょ?」


ジュリは先日、

セオドアとタバサと夕食を共にした時に二人には

イグリードの予言の内容を少しだけ伝えておいた。


オリビア姫に呈する予言の内容は言えないが、

彼女がアルジノンの運命の相手だという事は

知っておいた方が良いと思い、伝えたのだ。


それを聞いた二人は絶句していた。


ややあってセオドアが重い口を開く。


「殿下はそれを告げられても、ジュリ様を婚約者に

されたのですか?」


「“世の中全て俺のもの”の我儘王子だったもの」


ジュリが軽口を叩くと

更に空気が重くなった。


タバサがポツリと

「あの腐れ○◇◎△☆野郎が……」と

呟いたのを、ジュリは聞かなかった事にした。





「4月1日か、よかった。約束の日は前日だわ。

出発前に伝えられる」


その後、二人揃って城から居なくなってくれるのは

むしろ好都合だ。


今後の行動が取りやすくなる。



ようやくこの苦しい日々が終わる。




ジュリはぼんやりと窓の外を眺めた。



すると庭園を二人並んで歩く

アルジノンとオリビア姫の姿が見えた。



二人、笑いながら楽しそうに庭園を散策している。



アルジノンがとても優しげな瞳でオリビア姫を見ていた。



ジュリはぎゅっと自身の胸元を掴んだ。



〈だから言ったのに、

わたしは運命の人じゃないって。


だから言ったのに、

婚約者になんかなりたくないって。


絆されたわたしも悪いけど、

それでも無理やり婚約者に据えたのは貴方なのに。


ほらね、やっぱりわたしは捨てられる。


だから、だから言ったのに……。



物事にはなんでも、

いつかは終わりが来るという事なのね。


殿下は気付いておられるのかしら、


わたしがもう愛称で呼んでいない事に。


……きっともう、どうでもいい事なんだろうな〉




アルジノンとオリビア姫が視察旅行に出発する前日の3月31日の夜遅くに、


ジュリは誰にも悟られないようこっそりと

オリビア姫の寝室に忍び込んだ。


気配を消すのは得意なのだ。


もう就寝直前で

既にベッドに入って本を読んでいたオリビア姫に

静かに声をかける。



「オリビア姫」


「っ!?貴女っ……!?何故こんなところにっ!?

邪魔なわたくしを襲いに来たのね!誰かっ…!」


「お静かに。予言の事でお話があるのです」


「……!!」


ジュリが“予言”という言葉を出すと、


オリビア姫はぎくりとしてそのまま押し黙った。



「……お話を聞いて戴けるようでホッとしました。

オリビア姫、実はわたしも予言持ちなのです。

そして、貴女も予言持ちである事も存じております」



「は?え?何?貴女も予言持ちだったの!?」


オリビア姫は驚きを隠せない様子でジュリに言った。


その様子だとアルジノンからは何も聞かされていないようだ。



「はい。わたしがイグリードから託された予言は

オリビア姫、貴女に呈するものなのです」


「アルにではなくて?」


「はい、イグリードは殿下の運命の人に予言を告げるように、わたしに言いました。わたしはそれを成し遂げる為にここに参ったのです」


「ちょっ…!?ちょっと待って!?運命の相手!?

わたくしが?アルの?」


「はい。イグリードはオリビア姫が殿下の運命に

関わる人だと」


それを聞いた途端に

オリビア姫は勝ち誇ったような微笑みを浮かべた。


「なんだ…!やっぱりそうなんじゃない!わたくしとアルは結ばれるべきだと思っていたけど、真にそうなる相手同士だったと言うわけじゃない!なんだ…そうだったの…!」


心の底から嬉しそうにするオリビア姫を見て、

ジュリは胸の中から、何かどす黒くて重いものが

湧き上がっていくような感覚がした。



この人さえいなければ。


わざとアルジノンから遠ざけるような

予言を伝えれば。


予言は無かった事にして

自分の人生の方を優先させれば。



……自分の中にこんな感情があったなんて知らなかった。



でもジュリは知っている。


正しい行いがどれほど尊い事かを。


自分の周りには沢山の優しい人たちがいる事を。


父や母や弟たち、国境騎士団の騎士たち、

イトコのリアムとリラム、セオドアにタバサ、

そして城に勤めるみんな……


その人たちがジュリを正しい行いへと導いてくれる。


その人たちに顔向け出来ない 

自分になりたくない。



ジュリは姿勢を正し、

真っ直ぐな瞳でオリビア姫に向き合う。



とうとう約束の時が来た。


イグリード、最後まで見てて。


わたしを見てて。



「それではオリビア姫、

イグリードの予言を貴女に……」


その言葉を聞き、

オリビア姫が少し身構えた。


「な、なによ……、さっさと言いなさいよ」



ジュリは小さく深呼吸をした。



「『来たる4月の末日、世界の存亡の鍵を握る王子に、そなたはそなたに与えられし予言を告げるだろう。さすれば誠の道が開かれ、新たなる日の光が差すであろう』」





「………え?それだけ?」


「はい」



「ホントにそれだけなの?……なによ勿体つけちゃって、それならさっさと言いなさいよ」


「わたしが予言を呈する日を、イグリードに指定されていたもので」


「ふん、まあいいわ。色々考えていたけど、わたくしがアルと結ばれると決まっているなら後はどうでもいいわ。いいでしょう、イグリードの予言、わたくしもきちんとアルに伝えます」


「良かった……」



ジュリは心底ホッとした。


18年来の肩の荷が下りた心地だ。


そんなジュリにオリビア姫が冷たく言い放つ。



「用が済んだのならもう出て行って下さる?わたくし、明日は朝が早いの。アルと旅行に行くんですもの。貴女には可哀想だけど、悪く思わないでね?運命で結ばれてるなら仕方のない事よ。今までご苦労様」



〈……最後に一発殴っていいかしら。いやいやダメね、他国の姫を殴ったら国際問題だわ。両親に迷惑はかけられない〉


ジュリは黙ってカーテシーだけをして、

オリビア姫の部屋を出た。



震えてしゃがみ込みそうな自分の足を叱咤しながらも懸命に歩く。



良かった。

自分を律し、ちゃんと役目を果たせた。



後は、立派に成長して世界の存亡の鍵をばっちり握れちゃうアルジノンがなんとかするだろう。



自分の出番はこれで終わり。



終わりはホント呆気ない。



でもそれでいい。


それでいいのだ。


ジュリはそう思った。





翌日、アルジノンとオリビア姫は予定通り視察旅行に出発した。


見送りに出たジュリにアルジノンが一瞬何か言いかけたが、


オリビア姫に促されて馬車へと向かった。


その後ろ姿に

ジュリは声をかける。


「殿下!お気をつけて!お土産は要りませんからね!」


〈もう受け取れないから〉と内心ひとり言ごちて、

特上の笑顔を披露する。


「……ジュリ?」


引き返そうとしたアルジノンを


オリビア姫が引き止める。


かなり逡巡していたアルジノンだが、


やがて何も言わずに馬車に乗り出立して行った。



〈さよなら、さよならアルジノン様。

どうかお元気で〉



その日ジュリは


各方面への書状と伝言を


侍女のタバサに全て託し、


8年間暮らした城を去った。



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