プロローグ 「覚醒の色」
目の前が真っ暗だ。
少女は一人、大広間に横たわっていた。
広間の奥には何かエネルギーを吸収しているような様子が見える。
ひどい眩暈もする
滴り落ちる額からの赤い液体が頬を濡らしていく。
まるで溶けかかった赤い絵の具のような感触がとてつもなくゾッとさせた。
意識を一点に集中させようとしているのに霧散していく。
視界に入る情報が近づいてくるのに
かすんでモザイクがかかる。
まるで白黒の斜線が入るノイズみたいなテレビになった気分だ。
指先一つ動かすことが出来ずにいる。
まるで麻痺しているみたいだ。いや、もう麻痺しているのかもしれない。
感覚がない状態とはこの事を指すのかもしれない。
ああ、嫌になる嫌になるなんでなんでなんでなんで
周囲に霧散している悪臭と毒に近い煙が更に肺を圧迫していく。
あと、一歩のところで救い出せるのにどうして・・・と声に出したいのに
声が出ない。
うつ伏せになっている姿勢のまま、肺の痛みでどうにか意識を保っていた。
そう、痛みは生きている証だ。
必死に意識をかき集める。
逼迫していく状況
己の命が危ぶまれているのに想いが消えなくて
頬に涙がつたっていく。
それは赤い血の海へと変貌を遂げていく。
黒が赤黒く見えた。
視界がちらつく。
意識が途切れたくない
まだ
まだ
まだ
まだ
私は
何も
出来ていない
どうして
ああ、なんて黒はとても無に近くて
己を失うのだろうか。
少女の視界は暗転した。
意識は途絶えた。